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耳元で何か言われるのは、心臓に悪うございます
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殿下に促されたスーザン様が教室を退室されるのを見届けた私は、殿下にどのような場所をご案内すればよろしいのか、お尋ねすることにいたしました。
「ジークフリード殿下。まずは、どのような場所へとご案内いたしましょうか?」
「うーん、そうだなぁ。リアが気に入っている場所に連れて行ってもらえると嬉しいな」
まさかそのような返答が返ってくるとは思ってもおらず、一瞬きょとんとしてしまった私は、思わず聞き返してしまいました。
「……そのような場でよろしいのですか?」
「うん」
とても柔らかな笑みとともに、殿下は穏やかに頷かれました。
「承知いたしましたわ。それでは、まいりましょうか」
私も微笑を浮かべながら、殿下に歩調を合わせ、教室をあとにいたしました。
───────
最初に私が殿下を案内したのは、学園内にございます図書館でした。
こちらの図書館は、王都の王立図書館にも引けを取らない蔵書数を誇っており、私自身も週に五日は通っているほど、お気に入りの場所なのです。
静寂を大切にしながら入室したつもりではありましたが、普段は物音ひとつ立たぬ図書館が、殿下の登場に一瞬ざわつきました。
麗しきご容姿に加え、王家のご血脈をまとう方がこの場に現れたことに、皆さま大変驚かれたのでしょう。
エイクズ殿下もご在籍ではありましたが、図書館に立ち寄られることなど、まずございませんでしたから。
殿下はその様子に特に動じることもなく、私とともに書架の間を穏やかに歩かれ、書物を手に取っては興味深そうにページをめくられていらっしゃいました。
そのご様子を見て、私はご案内して本当に良かったと、胸を撫でおろしたのです。
そして、ふいに殿下が私の耳元に唇を寄せ、小さな声でささやかれました。
「もし、他にもリアのお気に入りの場所があるなら……案内してくれると嬉しいな」
他の方々の迷惑にならないようにという配慮だとは分かっております。けれど……この距離は、さすがに心臓に悪うございます。
身長差のせいで、こちらから耳打ちをするのは一苦労ですが……私も負けてはいられません。
「それでは、私の“とっておきの場所”をお教えいたしますわ。ついてきてくださいまし」
そうして殿下の右耳へと、背伸びをしながら囁くと、殿下の身体がぴくりと揺れ、顔を逸らして口元をそっと手で隠されました。
「……殿下?」
「……」
少し心配になり、私は殿下の正面へと移動し、そのお顔を下から見上げました。
「いかがなさいましたか?」
「……リアが、可愛すぎるのがいけないんだ」
殿下の呟かれたその声は小さすぎて、私の耳には届きませんでした。
けれど……その頬と耳がほんのりと色づいているのを、私は見逃しませんでした。
なんだか、とても懐かしい感情が、胸の奥からふわりと蘇ってくるような……
そんな気がいたしましたわ。
「ジークフリード殿下。まずは、どのような場所へとご案内いたしましょうか?」
「うーん、そうだなぁ。リアが気に入っている場所に連れて行ってもらえると嬉しいな」
まさかそのような返答が返ってくるとは思ってもおらず、一瞬きょとんとしてしまった私は、思わず聞き返してしまいました。
「……そのような場でよろしいのですか?」
「うん」
とても柔らかな笑みとともに、殿下は穏やかに頷かれました。
「承知いたしましたわ。それでは、まいりましょうか」
私も微笑を浮かべながら、殿下に歩調を合わせ、教室をあとにいたしました。
───────
最初に私が殿下を案内したのは、学園内にございます図書館でした。
こちらの図書館は、王都の王立図書館にも引けを取らない蔵書数を誇っており、私自身も週に五日は通っているほど、お気に入りの場所なのです。
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殿下はその様子に特に動じることもなく、私とともに書架の間を穏やかに歩かれ、書物を手に取っては興味深そうにページをめくられていらっしゃいました。
そのご様子を見て、私はご案内して本当に良かったと、胸を撫でおろしたのです。
そして、ふいに殿下が私の耳元に唇を寄せ、小さな声でささやかれました。
「もし、他にもリアのお気に入りの場所があるなら……案内してくれると嬉しいな」
他の方々の迷惑にならないようにという配慮だとは分かっております。けれど……この距離は、さすがに心臓に悪うございます。
身長差のせいで、こちらから耳打ちをするのは一苦労ですが……私も負けてはいられません。
「それでは、私の“とっておきの場所”をお教えいたしますわ。ついてきてくださいまし」
そうして殿下の右耳へと、背伸びをしながら囁くと、殿下の身体がぴくりと揺れ、顔を逸らして口元をそっと手で隠されました。
「……殿下?」
「……」
少し心配になり、私は殿下の正面へと移動し、そのお顔を下から見上げました。
「いかがなさいましたか?」
「……リアが、可愛すぎるのがいけないんだ」
殿下の呟かれたその声は小さすぎて、私の耳には届きませんでした。
けれど……その頬と耳がほんのりと色づいているのを、私は見逃しませんでした。
なんだか、とても懐かしい感情が、胸の奥からふわりと蘇ってくるような……
そんな気がいたしましたわ。
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