馬鹿な婚約者と自称ヒロインがまぐわっておりましたので、婚約破棄後に真実の愛とやらの行く末を見守りますわ

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礼節の陰に、誇りと想いを添えて

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 試験二日目の朝。
 昇り始めた陽の光が、廊下の窓硝子を静かに照らしておりました。

 登校してすぐ、私は人の集まりに導かれるように、掲示板の前へと足を運びました。
 昨日の試験結果が、早朝に貼り出されたと聞いたからでございます。

 用紙に並ぶ名、一番上に記されたその三つを目にしたとき、私は思わず瞬きをいたしました。

 クラウディオ殿下、ジークフリード殿下、そして私の順に記されていたのです。

 得点:満点
 順位:同率一位

 ……ふふ。まさか、このような結果になろうとは。

 あまりにも出来すぎていて、何やら夢の中のようでございます。

 「リア、見た? まさか三人とも同じ点になるなんて、僕、驚いちゃったよ」

 背後からかけられた声に振り返れば、そこにはジークフリード殿下が、心から嬉しそうな笑みを浮かべて立っておられました。

 「ご一緒に名を並べていただけるとは、光栄の極みでございますわ」

 私がそう申し上げると、殿下は照れたように頬を掻いておられました。

 そして、その横をすっと通り過ぎてゆく気配。

 視線を向けるより先に、落ち着いた声が耳に届きます。

 「名ばかりの首席ではない。実力に裏打ちされた結果だろう、ユミリア嬢」

 クラウディオ殿下でございました。
 その言葉は、褒め言葉というよりも、当然の事実を述べたまで、といった響きで。

 けれど私は、胸の奥に小さな灯がともるのを感じながら、静かに頭を下げました。

 「身に余るお言葉、痛み入ります。ですが……それぞれに支えていただいた結果でもございますわ」

 心から、そう思ったのです。

 けれど私は、そのすべてに浮かれず、静かに礼を尽くして、その場をあとにいたしました。

 かつて婚約者がいた頃でさえ、礼儀も交わらぬまま、共に試験の場に立つことすら叶わなかった私が……

 今こうして、誠意をもって向き合える方々と肩を並べていられることに、
 ささやかな誇りと、胸を満たす感謝を覚えております。

 ……そして明日は、もうひとつの試練が待っております。

 決して華やかさのためではなく、心を尽くすべき最後の場として。
 ────

 朝の喜びを胸に抱きながらも、すぐに気持ちを切り替えて席につきました。

 本日は二日目。気を緩める暇など、当然ございません。

 本日の試験時間割は以下の通りでございます。

 一限目:歴史・政略基礎
 二限目:理学基礎(自然観察・論理思考)
 三限目:礼儀作法実技(立ち振る舞い・挨拶・会話応酬)


 まさに、貴族たる者に求められる素養を測る一日。

 ……逃げ場など、どこにもございませんわね。

 

 一限目:歴史・政略基礎

 政略史の授業は、過去に一度、講師から「文章の構成が軍師のようだ」と評されたことがございます。

 そのときはただ、与えられた素材を整理し、因果を並べて導き出したにすぎなかったのですが……

 本日の設問は、まさにその応用。
 過去の統治失敗と改革案を比較し、現政への提言を記す、というものでございました。

 難解ではございましたが、筆は止まりませんでした。

 思えば私は、記録を辿り、分析し、そこに意味を見出すという行為が、昔から好きだったのかもしれません。

 

 二限目:理学基礎(自然観察・論理思考)

 学園の温室にて、数種の植物標本を観察し、それぞれの特徴と薬効、気候との関連性について記述する実技形式。

 並べられたのは、見慣れたものもあれば、応用例として扱われた交配種もございました。

 見た目に惑わされず、観察と知識を重ねていく作業は、意外にも心を落ち着けてくれるもので……

「観察眼は思考力に直結する」と、かつて教本に記されていた言葉を、ふと思い出しておりました。

 ────
 日が傾きかけた頃、試験は礼儀作法科目へと移りました。

 場所を移しての実技形式。それは、来客を迎え入れる動作、挨拶、軽い社交的な会話までを通し、品位・所作・会話力を評価する内容でございます。

 今回、私は特例として……クラウディオ殿下、そしてジークフリード殿下、お二方それぞれとペアを組んでの試験となりました。

 このような形式は、以前であればあり得なかったことでしょう。

 けれど今、私にはその今に正面から向き合う覚悟があるのです。

 ───

 最初の試験は、クラウディオ殿下との応対。

 殿下は、いつも通り整った姿勢で現れ、目を逸らすことなく、けれど感情に流されぬ落ち着いた声音で挨拶を交わしてくださいました。

 その佇まいは、まさに「高貴な沈黙」。

 私は丁寧な一礼をもって迎え、姿勢・言葉・仕草のすべてにおいて、少しの隙も見せぬよう応じました。

「本日は、ようこそお運びくださいました。ささやかな茶席ではございますが、ご笑納いただければ幸いに存じます」

 そう申し上げたときの殿下の目が、わずかに細められたのを、私は見逃しませんでした。

「もてなしの心得と、それに見合う礼節……どれも申し分ない。今さらながら、名ばかりの首席ではないと、再認識させられるな」

 その一言に、胸の奥がわずかに熱を帯びました。

 ───

 二人目は、ジークフリード殿下。

 殿下は、どこか緊張した面持ちで立ちながらも、笑みを浮かべて手を差し伸べてくださいました。

「リアとこういう形で向き合うのって……なんだか、ちょっと照れるね」

 私は柔らかな笑みを返し、そっとその手を取ります。

「ええ。ですが本日ばかりは、お互いに試験官の目がございますから……少しだけ真面目にまいりましょうか」

 その返しに、殿下は「厳しいなあ」と小声で笑っておられましたが、所作の一つ一つに、真摯な気持ちが込められているのが伝わってまいりました。

 会話の応酬も、あくまで丁寧に、けれどどこか温かな余白を残して……

「こんなふうに、誰かの隣として扱ってもらえるって、やっぱり嬉しいな……」

 ぽつりと呟かれたその言葉を、私は黙って受け止めることしかできませんでした。

 ───

 試験終了後、女性教師が記録用紙に何かを記しながら、ふっと目を上げて仰いました。

「どちらの場面でも、相手への尊重がよく表れておりましたわ。さすがは、Sクラスの首席陣……どこに出しても恥ずかしくないお手前でした」

 その言葉に、私は頭を下げるとともに、静かに胸の内で呟きました。

 かつて、婚約者がいた頃でさえ、踊ることも、まともに挨拶を交わすことすら叶わなかった私が。

 今こうして、支えてくださる方々と正面から向き合い、礼を尽くせている。

 それだけで、もう十分でございますわ。

 ───

 夜、公爵邸に戻った私は、夕食を早々に済ませて自室へと向かいました。

 机に並べた書類を眺めつつ、ふと今日一日の出来事を振り返ります。

 試験の結果も、応対も、悔いは一つもございません。

 むしろ、あの方々と誠意をもって向き合い、同じ空間で互いを尊重し合えたこと。

 それは、かつての私では決して得られなかったものでございました。

 ……ですが、試験はまだ終わりではございません。

 明日は三日目にして最終日。

 筆の力ではなく、身体と言葉、気配りと所作。

 品位を実演する最後の大舞台が待っております。

 華やかさではなく、私のすべてを映す場でございます。

 不安がないと言えば嘘になりますわ。
 けれど今の私は、かつてよりもずっと、心に背筋が通っております。

 舞踏会……それは、過去に背を向けるのではなく、今この瞬間の私を、真正面から映す場所。

 誰かの隣に立つことを、
 もう、恐れてなどおりません。

 私は静かに蝋燭の火を吹き消し、
 一歩、明日へと踏み出す準備をいたしました。


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