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6人ほど乗ることのできるこの馬車に、私と殿下の二人だけが乗っているこの状況は、今の私にとってはとても狭く感じられました。

「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。とって食ったりはしないから」

優しい眼差しをされている殿下は、クッションを未だ抱きしめたままでいる私に向かって楽しげにおっしゃいます。


「初めてのことですから、緊張しているだけです。まさか同じ馬車にお乗りになられるとは思いませんでしたもの」


抱きしめていたクッションを隣に置いた私は、姿勢を正し殿下を見つめます。


 「初めて?兄上と乗ったことはないのかい?」


「一度もありません」


「なんだ。そうだったんだね」

殿下はなぜか笑みが深くなられて、とても嬉しそうにしてらっしゃいますけれど。婚約者が居た身でありながら、婚約者と同じ馬車を共にしたことがないことは、貴族令嬢としては恥でしかありません。

「良かったぁ。じゃあ僕がリアの初めてって事だよね」


「ええ。家族以外では初めての事です」

殿下の表情は幼き頃に戻ったかのような嬉しそうな顔をされています。


「スーザンに言伝を頼んだ時から一緒の馬車で、話をしながら公爵邸へと行こうと思っていたんだ。まさかリアの貴重な初めてを貰えるなんて思ってもいなかったからとても嬉しいよ」


確かに初めてでしたけれど。殿下の言い方と幼き頃に戻ったような笑みから急に大人びた表情になられたのを見て羞恥心を感じた私は、再びクッションに手を伸ばしながら言いました。


「フリード殿下。お恥ずかしいのでそのような言い方をしないでくださいませ」


そう言っていると馬車の速度が落ちてきたのを感じ、公爵邸へと着いたのだということに気づきます。


「ああ。もう着いてしまったようだね」

なんだか不満そうな殿下ですけれど。私はやっと着いたことに少しばかり安心してしまいました。殿下は私より2歳ほど年下で、リンハルトと同じ歳です。


もうあの天使のような幼かった殿下ではなく、歳を重ねて、異性の立派な青年へとなられたのだと実感し、それと同時に私の異性に対しての免疫力のなさを痛感したのでした。


────
もうちょっと書きたかったのですけれど。時間がなかったのでここまでにしました。
読んでくださりありがとうございます。
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