夢で出会ったモブ令嬢を王太子は絶対に手放さない

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君の名を、現で聞けたという幸福(レオナルト視点)

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 やっと、たどり着いた。

 その名を耳にした瞬間、胸の奥で確かに何かが脈打った。

 セレナ・アルトレイン。

 長く夢に見続けた、あの少女の名。

 誰よりも静かに、誰よりも真っ直ぐに、懸命に生きていた少女の名前が、ようやく現実の中で告げられた。

 週に二度。
 何年も前から、繰り返し夢の中で彼女を見てきた。

 それは、ほんの些細な日常の断片だった。

 薬草を干す姿。ノートに几帳面な文字を刻む姿。帳簿を整理する横顔。
 陽だまりの中で布を染める手先の動き。

 目立たぬよう、ただ静かに、でも確かに生きようとする姿。

 名前も、背景も知らなかった。

 それでも、彼女がただ生きていたいと願ったあの日の夢は、今でも焼きついて離れない。

 彼女の姿を初めてこの学園で見かけたとき、血が逆流するかと思うほどの衝撃だった。

 夢の中と同じ顔、同じ動き。いや、それ以上に生きていた。

 けれど、すぐに話しかけることはできなかった。

 現実の彼女に、夢の内容をぶつけてしまえば……壊れてしまう気がした。

 だから、俺は偶然を装った。
 すれ違い、視線を交わし、昼の姿を探した。

 そして、ようやくあの日、彼女がひとりパンを食べている姿を見つけたとき──

 あの静かな佇まいに、どうしようもなく心を惹かれた。

「……こんなところで食べていたのか」

 驚いたように振り返った彼女の瞳に、確かに夢の面影を見た。

 それだけで、もう十分だった。

 けれど、俺はもう一歩、踏み込んでしまった。

「……名前を聞いても?」

 少しの沈黙ののち、彼女は丁寧に頭を下げて名乗った。

「セレナ・アルトレインと申します、レオナルト殿下。僭越ながら、貴殿のお目に留まるような者ではございませんが……どうぞ、今後ともご放念くださいますように」

 その名乗りが、こんなにも愛おしく、切ないとは思わなかった。

 セレナ。

 夢の中で、何度も心の中で呼んだ名を、やっと現実で聞けた。

 その感動に胸が震えるのと同時に、彼女の意思も痛いほど伝わってきた。

 だからこそ、誠意をもって問うた。

「セレナ嬢、よければ、またここで会ってくれないだろうか」

 ほんの少しでも、俺という存在を知ってほしい。

 そんなささやかな願いを込めて。

 しかし……

「申し訳ありません、殿下。私は……学園では目立たぬよう努めております。これ以上、視線を集めるような行為は控えたく……」

 その言葉に、俺の胸がきゅっと締めつけられる。

 静かに、けれどはっきりと告げられた拒絶。

「どうか、もう私のことなどお気になさらずに。二度と、関わらないでいただけると幸いです」

 それでも。

 ここで、簡単に引くわけにはいかなかった。

「……ふむ。なるほど。……けれど、断られても、諦めろとは言われていないな」

 彼女が顔を上げたとき、俺はそっと笑みを返す。

 穏やかに、だが決して退かぬ意志をその瞳に宿して。

「セレナ。……君の静けさが好きだ。君の声を、動きを、もう少しだけ知りたいと思ってしまった」

 それは、夢の中で幾度も抱いてきた想い。

 この現実で、ようやく届いた出会いを、どうしても無駄にしたくなかった。

「また来るよ。……今度は、君が断りきれないくらいの理由を用意して」

 そして俺は、その場を後にする。

 振り返らなかった。

 けれど、背後に残る静かな気配が、確かにそこにあった。

 これは、始まりだ。

 ずっと探していた君との、現実の物語の……

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