引きこもり魔導師は、お家に帰りたい!

翠月るるな

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結成

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「……つまり、このままなら外に出られない、と」
「正確には国を出られないってことだ」

 食事を進めながら聞いたのは、町の現状だった。今、ミゼンから出国するのがすごく難しくなっているらしい。商人すら苦戦するという。

「数日前は平気でしたよね? 数日で変わるものですか?」

 私の疑問にルナさんは、悩むように眉間のシワを深くして、背もたれに寄りかかり返事をした。

「普段ならこう変わるものじゃない。だが先日のリヴァイアサン、あれが思った以上に評判になっている」
「たしかあの後、逃げられてしまったとか」
「いや違う。逃がされたんだ。何者かに網を切られたらしい」
「特殊な網だったんですよね? 魔力が通っていて、どんな刃物でも切れないとか」
「ああ。だからモンスターにも使えたんだ」
「そうなると、相当魔力が高いことになりますね。その犯人」

 リヴァイアサンが暴れても切れないはずの網を切るのだから、その相手はリヴァイアサンを上回る力があるということ。

 話をしながら、私はかごのパンに手を伸ばす。一つにしておこうと思ったけど、柔らかくてほんのり甘い丸いパンは、もう一つくらい入るかも。

 ちぎって口に含むと、ルナさんが頷く。

「そうだな。だから今、犯人捜しが始まっている。表向きは民の混乱を防ぐために必要なことだと言いながら」
「なるほど。それで出国制限のようなことを。でも必要なことですよね、同じことが繰り返されないとも限りませんし」

 言いながら、ワンテンポ遅らせてスープに目を向ける。自分の家で食べるパンは硬いから、よくスープに浸していた。けどふと、柔らかいパンでも美味しいのかな、と思った。

 まだ半分あるし、試してみようと手を伸ばす。けどその手をルナさんが取った。驚いて顔を上げたら、真剣な目で言われる。

「楽観的なことを言うな。その対象にはお前も含まれている」
「どういうことですか?」
「彼らが疑っているのは魔を操る者。魔術師、魔導師、その類い。例外はない」
「え……で、でも! 私は協力した側じゃないですか」

 領主様のところにお世話になっていたし、自警団の人からもお礼を言われた。絶対大丈夫だと思ったのに、ルナさんは首を横に振る。

「今回の措置を執ったのが、あの場にいなかった海事隊なんだ。海で起きた事件を収拾出来ず、あまつさえその中心であったリヴァイアサンを逃がしたなんて面子が汚されただろう」
「そんな……」
「奴らは多少理不尽だと思われても止まらない。あの場にいた自警団の話を聞くわけがない。領主の言葉すら耳に入らないからな。もし目をつけられれば……どうなるかわからない」
「……」

 そう言われてゾッとする。過去にはでっち上げられて、処刑された人の話をオババから聞いたこともある。

 私はこの町に住んでいるわけじゃないし、あの場にいたのも事実。混乱に乗じて逃がした、と言われてもおかしくない。

 急に不安になって、顔面蒼白状態。パンすら喉を通らなくなると、じっと見ていたルナさんが一つ息を吐きだして言った。

「そこで一つ提案がある」
「……提案?」
「ああ」

 短く返して、その後、私の手を離したから続きがあると思って待っていたけど全く続かない。腕を組んで目を瞑り、眉間にシワを寄せて険しい顔をしている。痺れを切らして「どういうものですか?」と聞いた。

「難しいことですか? 出来るだけ頑張るつもりですが」
「難しくは、ない。だが……」

 どこか言いづらそうな雰囲気を感じる。何をしないといけないんだ、と身構える。一拍置いて、ルナさんが絞り出すように言った。

「……パーティーを」
「え?」
「パーティーを組んだら、どうかと思ったんだ」
「パーティー……え、私とルナさんが?」
「それ以外に誰がいる」
「え、えええぇぇ!?」
「おい静かにしろ!」

 慌てて口を押さえる。さらにルナさんの眉間にシワが寄る。パーティーって、冒険者同士のアレ。通常はギルドを通しておこなうけど、こうしてパーティー結成も珍しくはない。たぶん。

 でもだからといって、二つ返事で答えられるほど簡単な話でもない。最初こそ無理やり付いてきたルナさんも、ちょっと躊躇うくらいだもの。お金もかかるし、登録も面倒だしと考えていたらルナさんが続けた。

「今ならまだ混乱も多い。その間にさっさとここから出てしまえばいい」
「え、でも。パーティーを組んだからといって出してくれるとは限りませんよね。どうすれば」
「お前が何もしていない……これからもしないという証明をオレがすればいい」
「どういう意味ですか?」

 パーティーってことはつまりお仲間ってこと。その仲間がかばったところで受け入れてもらえると思えない。

 訝しげに聞くと、ルナさんは首から下げていた銀製のネックレスをテーブルに置いた。そこには鷲と炎が描かれている。私たちが魔王討伐を請け負ったギラロッシュ王国のギルドの紋章。

 私が顔を上げると、彼は驚くべきことを言う。

「これを担保にすればいい」
「へ? いや……え!? だってこれ、冒険者資格ですよね!? しかもSの。これがないと国から依頼が受けられませんよね?」
「仕方がないだろう。海事隊を黙らせるには冒険者ギルドに出てきてもらわないと無理だ。さすがに奴らもこれだけすれば、きっと出られるさ」
「でも……」

 私の困惑を打ち消すように、ルナさんはネックレスをパッと取って強く握った。

「とにかく。あまりここに長居するわけにはいかない。明日にでも出発しよう。登録はオレがしておく」

 そう言って立ち上がるルナさんを見上げる。そのまま「そろそろ行こう」と促された。
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