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脱出
しおりを挟む領主邸を出て、町中を進み馬車道の先までいくと確かに様子が変わっていた。
数日前までは賑やかだったはずの市場は、森との境界付近だけが閉鎖され今は簡易テントが並んでいる。行き交う人々も、どこか不安そうだ。
私はエマ様に譲ってもらったワンピースに、重ねるようにして、軽い素材のプレートアーマーをつけている。これはルナさんのアドバイスで昨日購入したものだ。
そして今度こそ、しっかりした生地の黒いローブを羽織り、爪先が細い靴を身につけた。そして魔力を上げるというアミュレットに、魔力を集めやすい短い杖と手の平サイズのスリングショットを装備している。
スリングショットは、Y型の間にゴム製のバンドがあって、小さな弾を発射できる。子どもでも扱える武器だと言われて、これもルナさんに勧められた。
子ども用と聞いて、ちょっと複雑だったけど『魔導印の紙を相手に触れさせて発動する』といった特性からは相性が良い。腰のホルダーに改めて触れたら、目の前のルナさんにぶつかってしまった。
「…うぶっ」
「リアナ、ここからは用心して歩くぞ」
前を歩いてた彼が立ち止まり、私の方に視線を向けた。すぐにハッとして急いでフードをかぶる。そのまま人目を避けるようにして彼の背に隠れつつ、再び歩き出した。
この先は街道に続く門がある。
昨日、ルナさんは自身の冒険者資格を担保に、私の身元を証明してくれた。だから出るのは問題ないはず。だけどいざ、人が集まっている門前まで来ると不安になる。
傍に行くと、集まった人たちが騒いでいるのが聞こえた。
「封鎖はいつまでだ!? 魔術師だけだろう?!」
「そろそろ解除してもいいんじゃないの??」
「大きな荷物も制限対象だなんて聞いてないよ。領主の許可は取ってるのか!?」
それに対して、海事隊と思われる男性たちが答える。
「領主には一時的な封鎖は許可されている! とにかく許可証のないやつは並べ」
「とにかく一組ずつだ!」
ほら、と強引に押される人たちがいる。私たちは素直に、許可証の持つ者は!、と声かけのある方に並んだ。
そのとき、ふと荷馬車に目が留まる。幌がないタイプで、疲れた様子の男女の姿がよく見える。皆、ぐったりとヘリに寄りかかる中、涼しげな顔で外を眺めている人がいた。
頭から雑に布をかぶっているだけで、力強い瞳と整った顔立ちは隠せていない。わずかに覗く髪色は金で、こちらを見る瞳は緑の煌めきを感じる。
って、目が合った。
「……!」
相手がニコッと笑う。びっくりして慌ててフードを被り直した。前が進んで、私もルナさんの後を追うように歩き出す。少しして、チラッと荷馬車を見たけれど、すでに他の馬車に紛れて分からなくなっていた。
「リアナ」
呼ばれて前を見る。いつの間にか順番が来ていたみたい。門前に作られた簡素なテントの入り口を、ルナさんが開けて待っている。
促されるまま中に入る。そこには急遽持ってこられたとおぼしき酒樽と、その上に乗せられた紙の束。横に立つ男性が、ルナさんを一瞥して持っていた紙の束をペラペラめくった。
「あんた、昨日隊長のところに来た冒険者だろ。そんでそっちが……」
私を見て、フンッと鼻を鳴らした。
「話は聞いてる。行きな」
ルナさんが歩き出して、またついていく。後ろで「子どもじゃないか。あれじゃ無理だろ」と聞こえた。誰かに何か言われたのだろうか。
何はともあれ、テントを抜けたら門が解放されていた。
他の人たちと同じように流れに乗って外に出る。すると風が吹いてフードが取れてしまった。戻そうとして手を止める。門の先の空には、遠くまで広がる澄んだ空がある。同じようにどこまでも青々とした草原には、揺れる草花がさざめいていた。
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