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魔導師というもの
しおりを挟む──魔導師とは、魔を導く者。
昔教わった言葉を思い出す。
そのやり方は多岐に渡るけれど、必要なのは三つ。
一つめは、魂の記録である『霊憶』
それは、家柄とか血筋とかに良く似てる。なになに家の直系だから、みたいな。霊憶は、魔導師なんちゃらの魂の記憶を受け継いでるのような感じ。
まぁ、私の場合は生まれた時から血の繋がった家族がいなくて、拾ってくれたオババだけが家族だったから正確には、誰の魂を引き継いでるのか知らない。
二つめが、個々の『紋章』
これは家にある家紋的なものかな。最初から決まっていて、私はオババのを使っている。
そして最後が、導く方向を示す式。
世界に満ちる空気みたいな『魔』を導き、形を成す。そうして具現化したものが魔法と呼ばれるものになる。
私みたいなのは、その導きに記号を使う。古代文字でもあるって聞いたかな。その記号や文字を組んで、紋章に合わせて描いて初めて魔導印となる。すごい人になると、空中にサラサラっと描くだけで出来るらしい。
とにかく『魔』というものを、して欲しい形に導く。
それが魔導師。そして今、私は必死に頭をフル回転して、世界に満ちる空気みたいな『魔』を感じ取ろうと、目を瞑り眉間を思い切り寄せていた。
けど──!
「避けろ!!」
「っ!?」
ギェェェ!と声をあげながら暴れるリヴァイアサンのせいで、船が大揺れ。今も咄嗟にヘリにしがみついている。
そんな状態で魔導術を作ることなんて出来ない。どうしよう、どうしようと気ばかり焦る。そんな中、前方ではルナさんが船首から飛び出して、リヴァイアサンに斬りかかった。
「ハァッ!!」
渾身の一撃……に見えるそれは、持ち上げた尻尾に弾かれる。
「ルナさん!!」
かろうじて尻尾を受け止めたものの、そのまま吹き飛び水面へ落ちる。直後白い水柱が立った。
慌てて近づこうとしたけど、揺れすぎて全く動けない。ヘリに掴まったまま海面を探す。
すぐに水しぶきを上げて、ルナさんが顔を出した。
「っ! リアナ! こっちは気にするな! 集中しろ!」
「!! は、はい!」
そう言って彼はまたリヴァイアサンの方に泳いでいく。思わず返事をしたものの滅多に出さない大声を出したせいで力が抜けて、ヘナヘナと座り込んでしまった。
とにかくとにかく! 何か式を……!
「……!」
けど何も浮かばない。そのうちに戦況も悪くなる。ルナさんが水中からの攻撃に慣れてないのか、段々疲弊しているが見てとれるし、自警の皆さんが乗る船も右往左往していた。
「どうしよう……」
徐々に事態の重さが、のしかかる。ルナさんは今も私を待ってるはず。でも、ヘリを掴む手が震える。
それでもなんとか目を瞑った。
「おい! 大丈夫か!?」
けどすぐハッとする。目の前にルナさんが船に引っ張りあげられるところだった。男性たちが肩を叩いたり、何かを指示したりしていた。
あまりの現実味のない光景に、音が遠ざかって聞こえなくなる。
意識が遠退きそうになる寸前、ルナさんの声が響いた。
「リアナ……! ゲホッ……くっ、頼む」
「あ……何か、何かを」
動揺し過ぎて、ほとんど反射的に床に突っ伏すと、麻紙にポーチから取り出した羽根筆を走らせる。
以前、依頼されて作った火をおこす魔導印。本来、攻撃に使えるものじゃないけど、今の私にはこれしかなかった。
オババの紋章、花が幾重も重なるデザインへ細かく綴る文字。そこに火を表す<を描く。
口が上手く回らないまま、それでも震えながら紙を差し出す。
「……これ、これを」
発動条件は、燃やす対象に触れること。バタバタ走り回る男性たちは忙しそうだ。私は咄嗟に落ちていた木片へ紙をくくりつけて、思い切り投げた。
それは運良くリヴァイアサンの尾にぶつかったものの、ボッと燃えたあと、すぐにシュッと消えた。
通りがかりに見た男性たちは眉間にシワを寄せただけ。また船内を走り出す。
同時に、やっぱり私には出来ない──出来るわけがない。そんな思いが頭を占める。目の前では様子を見ていたルナさんが、無理矢理体を起こして頭を振り、再び海に向かおうとしていた。
「おい! もうやめろ! 無理をするな」
「……行かなければ、どの道やられる」
自警の人たちはもう、私をいないものと扱っている。
ただ、ルナさんの存在だけが私を責めているように感じて、勝手に涙が溢れた。
「ごめ……ごめんなさい……ごめんなさい」
知らずに言葉を口にして、隠れるようにフードの前を両手で閉じて、震えた。
「……」
けど、その時ふと、オババの声が聞こえた気がした。
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