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発動
しおりを挟む『焦って焦って、どうしようもない時は一旦息を止めな。そんで大きく呼吸をするんだよ』
そんなオババの声に、ハッとして顔を上げる。聞こえた言葉を頼りにぐっと息を止める。そして、深呼吸した。
相変わらず唇は震えたままだし、顔は涙でグチャグチャだけど、それでも目元をグイッと拭ったら少しだけ落ち着けた気がした。
「……魔導師は魔を導く者」
スッと瞳を閉じて喧騒から離れて、暗闇の中で光を探す。すると、その中に淡く輝く金色の光が浮き始めた。それは徐々に増えて、まるで輝く星屑の海に潜り込んだかのようだった。
いつもなら、ここから導く方向を示す式を組む。けれど今回は、いつもと違って詠むといった雰囲気だった。音にならない風のようなものが寄り集まり、自然と記号が浮かび上がる。
#の記号。まだ生まれる寸前に似ていて、陽炎のように揺らめいている。込められている力は──捕捉。
「!」
私はパッと目を開けて、ポーチから再び麻紙を取り出す。ペンは幸いにも傍に転がっていた。
咄嗟に手を伸ばして、床に突っ伏して手を動かす。なぜか、今なら出来る、そんな気がした。
円を描いて文字を書き入れて、そうしてほのかに灯る紋章の上に重ねて#を入れる。
一瞬だけ、紙全体が輝いた気がした。
こんなことは今までなかった。でも疑問に思ってる余裕もない。
私は急いで、落ちていた丸い球を紙で包んで振りかぶる。けどその時、大きく船が揺れてしまった。
「──!!」
慌ててヘリを掴んで、でも突然頭上に降ってくる青い尻尾が思い切り、船へと叩きつけた。
ドンッ!と響いた直後、バキバキバキッ!!と嫌な音をさせて床に亀裂が入る。
「わっ!」
そのまま船体は中央を沈ませて、畳まれる用に船首と船尾が上がる。私はちょうど船首側にいたから、ヘリにしがみつつも浮かぶ船体に耐えきれず落ちそうになった。
同じ頃、視線の端でルナさんがリヴァイアサンに襲われかけている。
鋭い爪で今にも切りかかるような、そんなふうに見えた。
「ルナさん!!」
私はほとんど無意識にヘリから手を離す。上がっていく床を力一杯駆け降りて、その勢いのまま、手に持っていた球をリヴァイアサンに投げつけた。
麻紙の巻き付いた球が飛んでいく。リヴァイアサンが動いてスッと抜けてしまった。
「あ」
けど、くねった尾がその抜けた球に当たる。瞬間、バチバチって光った。
「うわっ」
眩しいと目を遮るのと同時にくる浮遊感。いつの間にか船の床は海に沈んで、悪あがきのようにバタバタと手足を動かす。
「わわ! わあーーー!」
けど私が落ちるのと同じタイミングで、海面が渦を巻く。直後、その渦がリヴァイアサンもろとも巻き上げた。ザバァーー!!と大きな大きな水柱が立つ。
誰かが叫ぶ。
「網を張れ!!」
視界の端で網が張られていくのが見えた。そこに落ちてくるリヴァイアサン。私もドブンっと水に沈む。直前の騒がしさが一気に消えた。
薄暗くて息も出来なくて、視界は白い泡で囲まれている。
ゴポッと思わず空気を吐き出して、慌てて口を押さえて海から上がろうと上を見る。けど、海面が遠い。
必死に上がろうとジタバタするけど、逆に沈んでいる気さえする。慌てすぎてつい残った空気を、ボコボコっと吐き出してしまった。
「──……っ!」
あまりに苦しくなって、目を瞑る。その時、誰かが私の腰を抱えた。そして一気に水上を目指す。
「っ、ぷはっ! げほ……ごほ」
「リアナ、無事か」
「ル、ルナさん……」
大きめ木片に掴まるよう促され、海上を漂う。リヴァイアサンは網に捕らわれながらも、暴れていた。でもあれなら、もう捕獲したも同然だろう。
ホッとしたのと同時に、ドッと疲れがくる。
初めて魔導式を組んだときより、遥かに疲労感が強い。体が重くて目蓋も開けているのが辛い。
気付けば視界も薄らいでいき、ゆっくりと暗くなっていく。
「リアナ? ……リアナ!!」
そんなルナさんの声を最後に、意識を手放した。
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