引きこもり魔導師は、お家に帰りたい!

翠月るるな

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怪鳥の巣

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「っ!??」

 突然だった。

 本当にいきなりのことだった。

 キリッと歩き出して数秒。後ろで気配がした。振り返る間もなくガッと押される衝撃があって、すぐにグイッと引かれる。それが大きな鳥の仕業だと気付くのに、一瞬遅れたのはその鳥が珍しいモンスターだったから。

「な、なんでここに?!」

 首だけで振り返って唖然とする。思わず声を出してしまった。全身緑で、首もとにふさふさした毛がある大きな鳥。これはチョベラスカルー。特徴的なくちばしの曲がり方でわかる。

 チョベラスカルーは自然に溶け込み、いろいろなものに擬態してなかなか姿を見せないモンスターとして、位置付けされている。この鳥も恐らく直前まで木々を装っていたのだろう。だから緑の羽根でバサバサと飛んでいる。

 個体数は少なくて、決まった生息地もない。だから、チョベラスカルーのくちばしが欲しいのに見つからないと、昔オババが愚痴っていた。

 けど連れ去られた今思い出したところで、どうにもならない!

 なんとか必死で爪を外そうとしたりジタバタしたり。時々疲れて力を抜いたり。でも全然状況は変わらない。仕方がないので声をかけてみたりする。

「ねえ! ねえ! ここらへんで降ろしてもらえない? お礼に……干し肉あげるからさ! どう? いいでしょ?」
「ギェー」

 返事だかなんだか分からない鳴き声をあげて、チョベラスカルーは飛んでいく。森のずいぶん奥まで飛んできたようだ。

 当たり前だけど、もう下に、ルナさんの姿もなかった。項垂れつつ周囲を見ると、いつの間にかそこかしこに岩肌混じりの大地が見え始める。正面に顔を上げたら、ずいぶん高い岩山が見えてきた。

 もしかしたら、ここに巣が?と思ったら案の定、その壁面に穴が見えてくる。しかも真っ直ぐそこに飛んでいく。ぶつかるつもりじゃないか、と思うほどのスピードで近づくと、いきなり浮遊感がした。

 ポイッと中に捨てられたらしい。ゴロゴロゴロー……ズジャ、と転がる。

「ぎゃっ!」

 当然、身構えていたわけじゃないから、そのまま地面を転がる。せめてもの救いはローブがしっかりした生地だったのと、地面が苔むしていて怪我はしなかった。

「ギェー、ギェー」

 チョベラスカルーは、そうやって穴の傍で声をあげるとしばらくしていなくなる。外ではまだ鳥の鳴き声はしていたけど、他に危険なモンスターの声などはなかった。

 ホッとして気が抜けて、座り込む。とりあえずすぐに食われることはなさそう。

 けど直後、後ろから声がした。

「おや、来客かな」
「っ!!」

 びっくりした拍子に振り返る。そこには男性が石の上に座っていた。

 うっすら日差しが入り込んで姿が見えてくる。金色の髪に紅い石の耳飾り、スッと通った鼻筋に翡翠色の瞳、グレーに近い白のジャケットを肩からかけて、黒いシャツにジャケットと同じ色のベスト。そしてズボン。

 なんだか町で見かける貴族の方みたい。この人も拐われてきたのかな?

 つい、マジマジと見ていたら彼が苦笑した。

「そんなに驚かしたかい? ずいぶん目が大きくなるものだね」
「あ、あの、あなたもあの鳥に?」

 クスクス笑われて恥ずかしさからカッと顔が熱くなる。それを誤魔化すように早口で聞いた。すると男性は「ああ」と外を見る。

「そうだね。気付いたら連れてこられていたよ、君と同じようにね」
「他に誰か……青い髪の男性とか、見ましたか?」

 ずいぶん具体的だね、と言いながらも彼は答える。

「連れてこられたのは私たちだけのようだよ。奥まで見てきたが、特に他の生き物の気配はしなかった」
「どうして私たちだけ連れてこられたんでしょうね」

 溜め息混じりに言うと、その男性は「さあね」と返した。

「たまたまじゃないかな。それより君は、先日のミゼンで見掛けた気がするんだが……誰かと一緒じゃなかったかい?」
「え? ……あ、もしかして馬車の?」
「そう。馬車に乗っていたよ。すごい偶然だね」

 そう言ってあの時と同じようにニコッと笑う。そして続けた。

「そういえばまだ名乗ってなかったね。私はバルファイト・ルー・エネヴァ。バル、と呼んでくれれば良いよ」
「バル、さん……私はリアナ・ヴェルです」
「よろしくね」
「よろしくおね──!!」

 挨拶を交わしかけた、その時、また外でチョベラスカルーの声がした。「ギィー、ギィー」とノコギリを引いたような音にビクッと緊張する。

 するとバルさんが立ち上がり、私の横から外を窺った。

「ここの主が帰ってきたようだ」
「とうとう私たちを食べに……?」

 怯えつつ聞く。バルさんは私をチラ見して「いや」と答えた。

「どうやら戻らざるを得なかったようだ」

 ほら、と促されて、恐る恐る外を見る。緑の鳥がバサバサと左右に飛んで、何かを煩わしそうにしている。少しして、その鳥が急下降しようとした。

 たぶんその何かに攻撃をしかけた。けどその瞬間、隣のバルさんから魔力の流れを感じる。つい彼を見たら指先が軽く動いて、直後チョベラスカルーの方でボンッと破裂音がした。

「!?」

 チョベラスカルーはその後、フラフラとどこかへ飛んでいく。私は思わず、バルさんとあの大きな怪鳥を見比べてしまった。

 もしかして、この人……無詠唱で魔法を使った?

「……」
「リアナ、迎えが来そうだよ。……リアナ?」

 バルさんが振り返る。不思議そうに首をかしげて、慌てて返事をした。

「は、はい!!」
「元気がいいね。その分なら問題なさそうだ」

 言ってすぐ入り口近くでガリガリ音がする。それからガッと鉤爪状の金具が引っ掛かり、人が顔を覗かせた。

「リアナ!」

 それがルナさんだって気付いて、驚きつつホッとする。

「ル、ルナさん! どうしてここに」
「追ってきたに決まってるだろ」

 そういった彼が上にあがって続けた。

「あの鳥の向かう方向は分かっていたんだが、細かい位置が分からなかったんだ。それで下を張ってたら、ちょうど穴に戻るあの鳥を見かけて……さっきやり合った。だが援護してくれたおかげで助かったよ」
「援護?」
「炎の……お前じゃないのか」
「それは私だね」

 間に入ってくるバルさん。彼はニコッと笑う。

「たまたま見ていたら危ないようだったから手を貸したよ」
「なるほど。さっきは助かった。俺はルナ・ティクス。貴方は?」
「私はバルファイト・ルー・エネヴァ。バル、と呼んでくれて構わない」  
「そうか。バルもさらわれてきたのか?」
「アリシアに向かう道中ね。災難だった」

 そう、涼しい顔で言う。ルナさんが「それなら」と提案した。

「オレたちも、このまま山道を下ろうと思っているんだが、バルも同じ方向なら共に行かないか?」
「いいのかい?」
「オレたちとしても人手は欲しい」

 そうだよな、と同意を求められて激しく頷く。無詠唱で魔法が使える人なら、この先も安心できる。 

 彼は一度目を閉じ、何かを考える様子を見せる。そこから改めて笑みを作り返した。

「そういうことなら同行しよう。アリシアまで頼むよ」

 こうして彼の同行が決まったのだけれど……。

 事件は休憩がてらに寄った湖で起きた。
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