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アリシアという町
しおりを挟む「……」
寝不足だ……。完全なる睡眠不足。
隣を歩くバルさんをジト目で見る。
金色の髪を揺らして涼しい顔をして、まるで無害だって雰囲気で町中を歩いてる。この成りで魔王様だなんて誰も気付かない。
昨夜の人探しで私はその事実を知ったわけだけど、でもバルさんは口止めも何もしなかった。それどころか、今は城を部下に任せてるんだ、とかなんとか。
恐らく私が周りに言っても信じてもらえないとか、いざとなれば消せるとか思ってるから、そんな話をしてきたのだろう。
そしてその思惑通り、私は何も言えずにいる。
今も前を歩くルナさんが足を止めて、バルさんの方に振り返り、宿を取りたいんだとか話してる。けど、その相手がまさか目的の魔王様だなんて思いもしないはず。
二人して肩を並べて、こっちを見てたって何も言えないし言わない。
そんな不思議そうな顔で見られても、と思ったら、名前を繰り返された。
「……で、いいよな? リアナ。……リアナ?」
「お嬢さんの意識はどこかに行っているようだね」
「おい、大丈夫か?」
肩を揺らされて初めてハッとする。慌てて「大丈夫です!」と答えた。
「ちょっと寝不足で……すみません」
「いや、驚いただけで謝る必要はない」
「けど睡眠不足はよくないね。早めに宿を決めよう。先ほど話していた場所はどうだい?」
「そうだな。すぐに行こう」
一つに結んだ青い髪を揺らして、ルナさんが先導して歩き出す。バルさんがまだ歩き出さないのを、首をかしげつつ見上げたらコソッと耳打ちされた。
「……寝不足なのは私のせいかな?」
「!!」
びっくりして耳を押さえて睨み付ける。なんとなく、からかわれてるのが分かってムッとしつつ「違います」と返した。
ズンズンと歩き始めたけど、後ろではクスクス笑ってる声がした。
* * *
薄暗い部屋に入ると小さなテーブル一つと、火が灯ったランプが一つ。ベッドは正面の窓の傍にあった。
最低限のものだけがある、シンプルな造り。さっきルナさんたちの部屋も見せてもらったけれど、そちらは正面の窓を境にして、左右にベッドが二つあった。代わりにテーブルがない。
私たちがアリシアに到着して、選んだ宿は馬車通りから程近いこじんまりとした場所だった。
あまり人気がないのか、すぐに入れたのはありがたい。
荷物を適当に置いて、ベッドに飛び込む。軋んだ音を立てながらも地面とは比べ物にならない柔らかさに思わず声が漏れ出た。
「あ~~~、幸せ~~」
家を出てから緊張してばかり。そもそも他の人といるのが慣れないのだから、疲れてしまう。
しばし一人を満喫して体力が回復してくる頃、窓を見る。外はすっかり夜になっていた。
そのまま、もぞもぞと動いて奥に行く。ベッドが窓にぴったりくっついていたから、このまま外が見られそう。
簡易な鍵を開けて、両開きのガラス戸を外側に開く。すると、かすかに甘い香りが漂った。下を見ると、淡い光がそこかしこに灯っている。それがまるで星屑みたい。
「……綺麗」
アリシアは妖精が立ち寄った町と言われてるらしい。そのため、満月の夜には絵の書かれたランプを灯し、お菓子を窓際に用意するのだという。
ちょうど今夜は満月。だから町を甘い香りが包んでいる。
今まで森の奥でオババと暮らしてきて、外に出たのは数える程度。一番遠出したのも王都までだった。
それがまさか森を越えて、知らない町まで来るなんて数日前の私には考えもしなかったこと。
こんな風に、知らない景色を見るなんて不思議で、でもどこか楽しい。
「……」
しばらく窓枠に肘をついて眺めていたけど、ふと扉を叩く音に気付く。軽く返事をしながらベッドから降りて、すぐさま向かう。扉を開けたらバルさんが立っていた。
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