引きこもり魔導師は、お家に帰りたい!

翠月るるな

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対抗

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 風が収まり、中心にいるものの姿が見えてくる。四足獣の姿をしているのに、獣と呼ぶには歪すぎる。ところどころに苦悶の表情をした顔が張り付いていた。

 目は虚ろで、そのパーツもおかしな場所にある怪物。恐ろしい怪物。

 だけど何故だろう……見ていると胸が苦しくなってくる。

 胸元をキュッと握りしめる。すると隣にいた女性が「ひっ……」と息を飲んだ。

「メルベル……先輩」

 その言葉にハッとする。まさか、と視線を戻した。必死に目を凝らしたら、端に見覚えのある顔が見えた。

「……マリー……さん……」

 黒いモヤに取り込まれた彼女がいた。きっと隣の女性が呟いた人も、飲み込まれた人なのだろう。

 他にも声が上がっていたから、間違いなさそうだ。あれは生きているのだろうか。掠めた考えを頭を振って追い払う。

 それは後でいい。とにかく今は助けないと。

「リアナ!」

 呼ばれて振り返る。ルナさんが駆け寄ってくるところだった。私も同じように近づき、迎える。

「ルナさん!」
「来て欲しい。バルが呼んでる」
「バルさんが? ──!」

 聞き返した直後、離れた場所で閃光が走った。思わず顔を背けて、すぐ戻す。黒い獣だったものは再び大きな咆哮を上げる。するとグニャリと歪み、大蛇の形になった。

「変異した……?」
「ああ。卵のような形だったときよりも攻撃が通らない。実体がないらしい。それに過度に傷つけることも出来ない」
「囚われている人がいるからですね」

 頷くルナさんが「とにかく行こう」と、促した。

 走り出す彼の背を追いながら、黒い大蛇を見る。クネリと動きを変えると紋章が浮かび上がる。それに重なる記号が金色に光った。

 まさかあれは……魔導術だ!

「!!」

 放たれた方向から叫び声がする。あれだけ統率の取れていた警備隊も魔術師たちも突然の反撃に右往左往している。

 そこをすかさず大蛇が術を重ねた。

 稲妻を落とし、宙に水流を起こす。直後、大蛇が跳び、今度はそのまま大きな鳥の姿へ変わった。

「気を付けろ!」
「わっ!!」

 バサッと羽ばたきと同時に降り注ぐ氷の塊。範囲が広く、私の足元にまで飛んでくる。思わず踏みそうになって、それでもなんとか踏みとどまった。

 正面から逃げ惑う人たちが走ってくる。その中にバルさんがいた。片手を上げて、駆けてくる。

「ルナ、リアナ。待ってたよ」

 傍まで来ると、その後ろではさらに攻撃が激しくなっていた。雷と水、この二つだけでも十分相性が悪いのに、二つ合わせて広範囲に攻撃を与えた後で逃がさないとばかりに足元の水を凍らせてくる。

 そんな攻撃ばかりで、みるみるうちに負傷者が増える。残りの人で連携を図り、なんとか持ちこたえてはいるけど壊滅するのも時間の問題だ。

 状況を一瞥したバルさんが「時間がない」と言う。

「囚われた人間はまだ息がある状態だが、それも長くもたない。核となっている魔導術を壊せれば、恐らく救い出せる」
「あの術を……」
「ここにはもう魔導術を使えるものはいない。リアナ、君だけだ。出来るかい?」
「……」

 聞かれてはいるけれど、拒否は出来ない。拒否すれば彼らを見殺しにするのと同じだから。

 その時、黒い鳥が高く舞い上がる。

「逃げるつもりなのか?」

 傍にいたルナさんがそう言った。

 同じように見上げて戸惑う。このまま逃がしてしまえば、もう本当に打つ手がなくなる。

 私はルナさんに声をかけた。

「行きます。対抗策を考える時間をください」
「それは任せて。さあ、行こうか」

 バルさんが歩き出す。私も後から追いかけた。彼がとりあえず、と傍にあった補給物資へ目を向けた。

「逃げられては困るからね」

 そう言って手を翳す。物資に掛かっていた布がふわりと浮くと、真っ直ぐ黒い鳥へ向かう。恐らく風の魔術のようだ。

 一度は避けたものの布に追われて、鳥が揺らいだ。その瞬間、すかさず布が体に巻き付いた。直後ボトリと落ちてくる。

 でもすぐにシュルリと大蛇へ変わり、影のように這って出た。

 バルさんが今のうちに、と言う。

「近づけば核の魔導術が見えるだろう。ルナ、後は頼んだ!」
「了解した。行こう、リアナ」
「はい!」

 バルさんから離れて、ルナさんと走っていく。先の方にズラリと並ぶスフラギトの兵と魔術師がいる。その中心にいたドロースがハッキリとした声を出した。

「この国を支えてきた者たちが今、ここにいる! 皆、今こそ力を示すとき! さあ、行くぞ!!」

 そう、士気を高めて、自身も魔術を使い始める。一斉に向かっていく炎に大蛇が魔導術で対抗する。

 浮かんだ記号はセリャド。以前私も使った魔導術。あれは水を導く記号だった。大蛇の正面で輝く紋章と#は、向かってくる炎を鎮火する。

 私たちは次の攻撃が来る前に、と背後へ移動した。
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