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明ける空
しおりを挟む「終わったようだね」
そう言ったのはバルさんだった。
もうすっかり夜明けを迎えたスフラギトでは、もう日常を取り戻そうとしている人々が動き始めている。
その中に、一時思念体へ囚われていた人々もいた。みんな回復できたようだ。マリーさんも無事だろうか、と探したら少女と抱き合っていた。
恐らく、同じように囚われていたのだろう。
その光景をぼんやり見ていたら、横からまた声がした。
「大丈夫か?」
ずっと長い間、眠りについていたかのように頭が重い。反応が鈍いのを心配されたようだ。私は「大丈夫です」と返した。
すると、反対にいたバルさんが苦笑する。
「さすがは魔導師の精神攻撃だね。久しぶりに自我を失う気がしたよ」
「自我? ああ、自分を見失うってことか。確かにあんな経験は初めてだったな」
「……」
たぶん、二人の話には天と地ほどの差があると思う。知らないだけ幸せってやつかもしれない。
それにしても、とルナさんが続ける。
「ずいぶん成長したものだな。煙みたいな炎を出してた頃とは比べ物にならない」
「……! そ、それは忘れてください!」
「煙?」
バルさんが首をかしげる。慌てて話を逸らした。
「ところで!! ルベールさんは無事なんですか? 早く様子を見に行きましょう!」
「ああ……そうだな」
ルベールさんの名前を出したら、どこか気まずそうにするルナさん。彼の肩にバルさんが寄りかかる。
「細かい話は後だよ。私も今回ばかりは少し疲れた」
「わかった。が、のしかかったところで運びはしないからな」
「そうなのかい? 残念だ」
ルベール卿のように運んでほしかったみたい。残念だと肩をすくめつつ笑う。そんなバルさんに、つられて私も笑う。
見上げた空には、夜の終わりと色づき始めた青空が広がっていた。
「戻ろうか」
その声にルナさんが同意する。歩き始める二人を追って、私も動き始めた。
けど途中で、ふと足を止める。
そっと顔を上げて、後ろを振り返る。今はもう、何もなくなってしまった神殿。中央の大きな穴はそのままだけど、人もいなくなれば静寂が続いた。
時折吹く風が地面の細かい砂を舞い上げて、微かに躍らせる。ずっと魂が囚われていたとは思えないほど、そこには平穏な時間が流れていた。
「安らかに……」
その直後、風が強く吹き抜けていった。
突然の風に暴れる髪が視界を遮る。それを押さえて風の流れた方向へ、視線を向けた。
なんとなく声が聞こえた気がして、でも気配はもう無い。代わりにルナさんが私を呼んだ。その声に返事をして駆け出す。
舞い上がった砂埃が静かに地面へ下りていった。
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