溺愛契約 ~替え玉でも愛されますか?~

翠月るるな

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「……今この時をもって、二人の婚姻は成立しました。最後に誓いの口づけを」

 神父の厳粛な声とともに互いに向かい合う。今日初めて出会い、そして夫婦となった二人。

 新郎のソラティス・ヴァーガリアは、長い黒髪をまとめて白いタキシードに身を包んでいる。各所にある金糸の刺繍は繊細で、動くたびに煌めく。

 一方の新婦ラシーヌ・ソレーユも、ティアラが引き立つように薄い若草色の髪を編み込んでベールを被っており、体の線に沿ったマーメイドスタイルのウェディングドレスが似合っていた。

 だが、そのベールの下の表情はひどく動揺していた。

「……」

 顔をうつむかせたまま動けない。けれどソラティスがベールに手をかけると、驚いた様子で肩が跳ねた。

 そしてベールを上げて顔を見た瞬間、ソラティスの目が見開かれる。恐る恐る顔を上げた、ラシーヌがその表情を見て青ざめた。

「……あ、あの」

 思わず口を開いてしまう。だが相手のソラティスは眉間に深く皺を作った直後、意を決したように彼女の口を塞いだ。

「──!!」

 ラシーヌは驚きすぎて息が止まる。

 その驚きを背後で流れる音楽が、盛り上がりとともにかき消していった。


*  *  *


「ど、どうしたらいいかしら……ソラティス様にバレてしまったわよね、きっと。今頃はもう騒ぎになってるはずだわ。その前にどうにか事情をお話しできないかしら……ああっ! でももう婚姻が結ばれているのよね……」

 部屋の中をウェディングドレスのまま行ったり来たりするラシーヌ。それをなだめようと侍女のカナンが、着替えを用意しながら言う。

「とにかく落ち着きましょう、姫様。今、わたくしたちに出来ることはこの部屋にいることだけですよ」
「だけどカナン。もし万が一、婚姻をなかったことにされて追い返されたら今度こそお義母様に殺されてしまうわ」

 ガタガタと震えるラシーヌが続ける。

「そもそも義姉の代わりになるなんて無理だったのよ! ソラティス様の顔を見た?! お怒りになっていたわ」

 そもそもの発端は姉に届いたベルン皇国国王からの婚姻指示書。そのせいで身代わりを指示されたことを彼女は思い返していた。
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