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『ハッ! やっと役立たずがいなくなるわ。いいこと? もう二度と戻ってくるんじゃないよ。それから! 絶対にレイアに迷惑かけないように』
ここまで育ててやった恩を忘れるんじゃないよ、と言われてラシーヌは送り出された。
ラシーヌの育ったソレーユ子爵家に婚姻指示書が届いたのは少し前。国から辺境伯領のヴァーガリア家に嫁げというものだった。
『お父様、お母様! 私は辺境になど行きたくありません! 皇都にいたいのです』
泣きついたのが姉のレイア。艶やかな薔薇色の髪は、緩やかに波打ち、肌はきめ細やかに整っている。
彼女は領地が遠いことと、ヴァーガリア辺境伯領のすぐそばにある地獄の陥没地について訴えた。
地獄の陥没地は活火山で、常に噴火し、麓のヴァーガリア辺境伯領は炎に包まれる恐れがある。ただ辺境伯の加護能力、氷華で守られていた。
けれどそんな風に命を握られているような状況では、自由に生きられないと泣きわめいた。
その訴えを受け入れ、夫妻は義妹のラシーヌを身代わりにすることに決めた。婚姻指示書にもソレーユ家嫡子とあったために、一度書類上でラシーヌを後継者と定め、その後すげ替えた。
そんなことを思い返していたら、ひとまず着替えを進めようと侍女のカナンが提案する。ラシーヌがそのまま傍に行くと同じことを考えていたのか、彼女は溜め息を吐いた。
「それにしても奥様は酷い方です。身代わりだなんて……」
「仕方ないわ。私は実子ではないもの」
「そんなこと仰らないでください。先代様が悲しみますよ」
「……そうね。ごめんなさい」
ラシーヌは悲しげに長い睫をおろした。
先代──バンズ・ソレーユは50年程前に祖国からベルン皇国へ亡命していた。
もともと商才のあったバンズが皇国内で商いをし、最終的に爵位を買い、今のソレーユ子爵家となったらしい。
当時、家門を継承したばかりの子爵家の夫婦には、レイアという一人娘がいたのだが、年老いたバンズがあるとき一人の赤子を連れてくる。それがラシーヌだった。
バンズは二人に養子として育てるように伝えた。
『なぜ我々が見知らぬ赤子など!』
当然、夫婦は反発する。特に母親が拒否感を示した。すでに娘がいたこともあり、跡取りとなるような息子でもなく娘を育てろと言われたことに。
だが、地位確立のために奮闘した先代へ、頭の上がらなかった父親が最終的に受け入れる。そうしてラシーヌは子爵家で育てられたが、少し前、ラシーヌが18になる頃バンズは亡くなった。
それから状況は一変する。
ラシーヌは物置小屋に住まわされ、食事は一日一食。侍女は与えられなかったが、年の近いカナンが何かと隠れて世話をしていたためになんとか生き長らえた。
そうして今回の婚姻にもついてきたカナンを見る。室内着に着替えるラシーヌを手伝ったあと、彼女はウェディングドレスを片付け始めていた。
焦げ茶色の髪を緩く三つ編みにして、丸メガネに、ソレーユ家で支給されたお仕着せ。先代が口利きをして勤め始めた彼女は、平民の出らしい。
手際よくウェディングドレスを仕舞い終えて、振り返る。
すると同じタイミングで部屋の扉が叩かれた。
ここまで育ててやった恩を忘れるんじゃないよ、と言われてラシーヌは送り出された。
ラシーヌの育ったソレーユ子爵家に婚姻指示書が届いたのは少し前。国から辺境伯領のヴァーガリア家に嫁げというものだった。
『お父様、お母様! 私は辺境になど行きたくありません! 皇都にいたいのです』
泣きついたのが姉のレイア。艶やかな薔薇色の髪は、緩やかに波打ち、肌はきめ細やかに整っている。
彼女は領地が遠いことと、ヴァーガリア辺境伯領のすぐそばにある地獄の陥没地について訴えた。
地獄の陥没地は活火山で、常に噴火し、麓のヴァーガリア辺境伯領は炎に包まれる恐れがある。ただ辺境伯の加護能力、氷華で守られていた。
けれどそんな風に命を握られているような状況では、自由に生きられないと泣きわめいた。
その訴えを受け入れ、夫妻は義妹のラシーヌを身代わりにすることに決めた。婚姻指示書にもソレーユ家嫡子とあったために、一度書類上でラシーヌを後継者と定め、その後すげ替えた。
そんなことを思い返していたら、ひとまず着替えを進めようと侍女のカナンが提案する。ラシーヌがそのまま傍に行くと同じことを考えていたのか、彼女は溜め息を吐いた。
「それにしても奥様は酷い方です。身代わりだなんて……」
「仕方ないわ。私は実子ではないもの」
「そんなこと仰らないでください。先代様が悲しみますよ」
「……そうね。ごめんなさい」
ラシーヌは悲しげに長い睫をおろした。
先代──バンズ・ソレーユは50年程前に祖国からベルン皇国へ亡命していた。
もともと商才のあったバンズが皇国内で商いをし、最終的に爵位を買い、今のソレーユ子爵家となったらしい。
当時、家門を継承したばかりの子爵家の夫婦には、レイアという一人娘がいたのだが、年老いたバンズがあるとき一人の赤子を連れてくる。それがラシーヌだった。
バンズは二人に養子として育てるように伝えた。
『なぜ我々が見知らぬ赤子など!』
当然、夫婦は反発する。特に母親が拒否感を示した。すでに娘がいたこともあり、跡取りとなるような息子でもなく娘を育てろと言われたことに。
だが、地位確立のために奮闘した先代へ、頭の上がらなかった父親が最終的に受け入れる。そうしてラシーヌは子爵家で育てられたが、少し前、ラシーヌが18になる頃バンズは亡くなった。
それから状況は一変する。
ラシーヌは物置小屋に住まわされ、食事は一日一食。侍女は与えられなかったが、年の近いカナンが何かと隠れて世話をしていたためになんとか生き長らえた。
そうして今回の婚姻にもついてきたカナンを見る。室内着に着替えるラシーヌを手伝ったあと、彼女はウェディングドレスを片付け始めていた。
焦げ茶色の髪を緩く三つ編みにして、丸メガネに、ソレーユ家で支給されたお仕着せ。先代が口利きをして勤め始めた彼女は、平民の出らしい。
手際よくウェディングドレスを仕舞い終えて、振り返る。
すると同じタイミングで部屋の扉が叩かれた。
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