替え玉の私に、その愛を注がないで…。~義姉の代わりに嫁いだ辺境伯へ、身を引くはずが……持ちかけられたのは溺愛契約。

翠月 瑠々奈

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 輝く月が空にのぼり、煌めく星々が浮かぶ夜。ヴァーガリア邸では、ささやかな舞踏会が開かれた。

 表向きは辺境伯夫人の姉レイアを歓迎するためだ、としていたが本当はアーティファクトを身に着けさせるためだった。

「あのドレスは出来た?」
「もちろんです。すぐに持って参ります」

 主役となった彼女はさっそく昼間見繕ったドレスの中から、既製品の一着を無理を言って手直しさせ身に着ける。

 そして着替えを終えて、自慢気な様子で階段を下りてきた彼女は思惑通り、首もとに翡翠色のペンダントを合わせてきた。

 会場となる離れに向かうために、控え室の階下でラシーヌたちと合流する。皇都でよく連れていたパートナーの男性は一人もいない。不思議に思い、ラシーヌが首をかしげた。

 するとレイアはビシッと指をさして、ソラティスをパートナーに指名する。

「ソラティス様、今回は私が主賓と聞きましたわ。でもパートナーは連れてませんの。ここは貴方が私をエスコートすべきではなくて?」

 呼ばれた以上、もてなすのが当然と言わんばかりの態度。二人は思わず顔を見合わせる。直後、レイアは手を出し「ほら、早く」と急かした。

 ソラティスが眉根を寄せる。断りの言葉が口をついて出る。

「貴女は確かに賓客だがパートナーは別に用意させる。だから……」
「ティス」

 彼の言葉を遮ったのはラシーヌだった。彼女は短く「受けましょう」と言った。

「夫人として演じさせるならば今がその時です」
「しかし……」

 『夫人の証』として作ったネックレスを、さらに望むように仕向けるため、どこかで辺境伯夫人の経験をさせたらどうか、と彼女は以前言っていた。

 そうすればより、自分がその座に相応しい、と思うはず。

 そしてそれを決行するなら、今が最適だろう。最も注目を浴び、華やかさを感じられる。深く悩んだ末にソラティスが額に手を当て、息を吐いて渋々その申し出を受けた。

「……承知した。だがレイア嬢、会場内にいるときだけにしてくれ」
「それで構わないわよ。とにかく、早くしてちょうだい」

 ヒラヒラと手を振り急かす。「いちいち寒いのよ」と悪態をつく。廊下にいるだけでも不満そうだ。

 だがソラティスは、そんなレイアに「先に行ってくれ」と声をかけて、会場までの案内を使用人に任せる。後ろで不満を言う彼女を尻目に、ラシーヌを連れて離れた。

 そして廊下の端までくるとソラティスは、わずかに眉を寄せて申し訳なさそうな顔をした。

「すまない。しばらく一人にする時間が出来そうだ」
「構いません。もともとそのつもりでしたから」
「傍にバルトネルを控えさせておく。何かあれば必ず声をかけてほしい」
「わかりました」
「では……」

 名残惜しそうに、言葉を区切る。彼は、迷うように視線を巡らせ、けれど諦めた様子で目を伏せた。

「行ってくる」
「いってらっしゃい」

 見送ってすぐ、廊下の途中にいたバルトネルにソラティスが声をかける。入れ代わりに彼がラシーヌのそばにきた。軽く胸元に手を当て、頭を下げる。

「主の留守中は、私にお任せ下さい」
「ふふっ、よろしくお願いしますね」

 そう笑って、バルトネルに差し出された腕に手を添え、ラシーヌも会場へと向かった。

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