替え玉の私に、その愛を注がないで…。~義姉の代わりに嫁いだ辺境伯へ、身を引くはずが……持ちかけられたのは溺愛契約。

翠月 瑠々奈

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「本日はレイア様が呼ばれた宝飾品店、三ヶ所の来訪が予定されています」
「明日にはテイラー三店も入っていますので、到着後の部屋をご指定ください」

 次から次へと現れる侍女の言葉に、バルトネルが頭を抱える。

「ものすごい勢いで予算が消えていきますね……」

 年度毎に支給される辺境伯夫人のための品位維持費、ラシーヌのときには微々たる金額しか減らなかったそれが、あっという間に底をつきそうな勢いだ。

 ソラティスがようやく邸を出歩けるようになったところで、新たな問題が浮上するとは思いもしなかった。

 バルトネルがため息を吐いたタイミングで、また部屋の扉が叩かれる。返事をすると慌てた使用人が飛び込んできた。

 彼は、ソラティスが外に出た、と言う。

 バルトネルは驚いて目を丸くした。

「本当ですか?! まだ万全ではないのに……どこに。いや、とにかく戻るよう説得を! 何かあるといけない! 行きそうなところへ急使を飛ばして……」
「バルトネル様!」

 遮るように部屋へ新たな使用人が駆け込んでくる。

「エルプシオンにまた噴火の兆候が見られたそうです!」
「なっ……」
「火山観測士が呼んでいます! 急いでください!」
「わかりました! 専属騎士団には先に出発させてください!」

 バンッ!と叩いて立ち上がる。その勢いのまま指示を出す。使用人は急いで身を翻し、騎士舎へと走っていった。

 バルトネルもすぐさま机から離れ、廊下に出る。窓の外は変わらず吹雪いている。氷の加護を得ているからといって、身一つで外に出て無事ではいられない気候だ。

 彼の足は、いつになく速度を上げていた。


*  *  *


「ぐっ…」

 防寒着を着込み、彼はエルプシオンの山頂に向かう。以前、ソラティスは聞いたことがあった。

 エルプシオンの山頂で直接、氷華の力を使えば、あの火山を休眠させることが出来るかもしれない、と。

 もしそれが叶うのならば、レイアとの婚姻を無効にすることができるはず、そうすればまたラシーヌを妻に迎えられる。 

 普段冷静な彼のそんな衝動的な感情から、気づけば邸を飛び出していた。

 前回、力を使ってから、そう時間は経っていない。今なら、追い討ちをかけることは容易いはず。そして今、アーティファクトも領内にある。条件はもっとも良い状態だ。

 そうしてソラティスは真っすぐ山頂を目指す。

 だが──。

「っ!!」

 降り積もったばかりの雪道が、その足場を奪う。彼は、不安定なその場所から足を滑らせる。

 そして、一気に転げ落ちてしまった。

 
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