替え玉の私に、その愛を注がないで…。~義姉の代わりに嫁いだ辺境伯へ、身を引くはずが……持ちかけられたのは溺愛契約。

翠月 瑠々奈

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「さ、さすがに非常識ではなくて?」

 皇都からとんぼ返りし、ヴァーガリア邸に寄ったザラが顔を引きつらせる。

 由緒正しいヴァーガリア邸の応接室が、脱ぎ散らかされたドレスや買ったばかりの宝飾品に埋まっている。それどころか、見知らぬ男性たちがソファに座るレイアを囲っていた。

 その中で、彼女はコテンと可愛らしく首をかしげる。

「あら、お義母様。おかえりなさい。ちゃんと私のお使い出来ましたの?」
「あなた……」

 ラシーヌがいなくなった邸に留まったレイアは、思い切り好き放題をしていた。

 気の赴くままに買ったドレスや宝飾品。皇都から呼んだお気に入りの詩人や音楽家の男性らを呼んで、昼夜を問わず騒ぎ立てている。

「……」

 レイアも一応爵位のある家の娘だ。ラシーヌと同程度の教養があるはずと思い込んでいた夫人は、目の前の光景に何も言えなくなる。

 ザラは怒りのあまり、激しい頭痛を覚えてふらつくとそのまま倒れてしまった。

 侍女たちが驚き、すぐさま彼女は別部屋に運ばれた。

「お義母様もお疲れなのね」

 レイアは用意されていたマカロンをつまんで、口に運んだ。


*  *  *


 同じ頃、バルトネルは皇城からの離縁の受諾書を受け取っていた。同時にレイアとの婚姻が無事に果たされたことも記載されている。

 代理で確認した彼は、つい手に力がこもる。

「……」

 そのせいで紙の端にシワがよっていた。気にすることなくバルトネルは握りしめて歩き出す。

 報告に向かうために。

 だが、ちょうどソラティスの部屋の前の廊下で、ふらつく夫人と鉢合わせた。

「ザラ様! どうされました? 体調が悪ければ…」
「大丈夫よ。休んでいる暇はないの」

 そう言って、チラリとバルトネルが握る書類を見る。彼女は「ついてきなさい」と言う。

「あなたもティスに用事があるのでしょう? 早くなさい」
「ハッ、失礼します」

 侍女に支えられたザラに続いて、バルトネルが入る。

 ベッド上で体を起こしていたソラティスに、ザラが声をかけた。

「ティス。体調はどう?」
「俺より母上の方が辛そうですね」
「休めば平気よ」

 ザラはベッドサイドの椅子に腰を下ろすと、そのまま今の状況を話し合い、その合間にレイアの愚痴を言う。

 そのあと、ふと思い出したようにバルトネルを呼んだ。

「あなたも話があったのでしょう? 言いなさい」
「え、こちらで?」
「構わない。報告してくれ」

 ソラティスが言い、躊躇いながらも離縁の受諾と婚姻の完了を伝える。

 それを聞いて一番にため息をついたのはザラだった。

「咄嗟のこととはいえ、あの子には悪いことをしたわ。巻き込んでしまったものね。あなたにも……ごめんなさいね」
「仕方ありません。今は成すべきことを」
「そうね。ベルモラ家からも何かできないかしら……そうだわ。縁談を持ちかけるのはどうかしら? あの子に合う男性なら、ちょうど覚えがあるのよ」
「……は?」

 ソラティスが思わず眉根を寄せる。「親戚筋なら身内になれるもの」と、どこか嬉しそうに言う。

 彼女は立ち上がると、ソラティスへ笑いかけた。

「忙しくなるわ。あ、見送りはいらないから。もう行くわね」
「母上! お待ちく……」

 最後まで言う前に、彼女は部屋を出ていた。半ば呆然としたソラティスはすぐハッとして、バルトネルに追うよう指示する。同じタイミングで駆け出していた彼は、そのまま部屋を出ていった。
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