替え玉の私に、その愛を注がないで…。~義姉の代わりに嫁いだ辺境伯へ、身を引くはずが……持ちかけられたのは溺愛契約。

翠月 瑠々奈

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 人払いをしたソラティスの寝室で、バルトネルが頭を下げる。自身が倒れた後の話を一通り聞き終えた彼は、額に手を置き溜め息を吐いた。

「……状況は把握した。とりあえずラシーと話したい。彼女を呼び戻すことはできないか?」
「それは……」

 言い淀むバルトネル。間を置いて答えた。

「ラシーヌ様は、おそらく戻られないかと」
「……どういうことだ?」

 驚きのまま、動きを止めるソラティス。

 バルトネルは離縁届けがすでに書かれていたこと、部屋の荷物がすでにまとめられていたことを説明する。

「あの方はきっともう、受け入れられているのかもしれません」
「……受け入れて……だと?」

 彼は息を呑んで咄嗟にシーツを握り、まだ動きの悪い体をひきずるようにして、ベッドから降りようとする。その拍子に、床へ崩れると慌てたバルトネルが駆け寄った。

「っ! 急に動いてはなりません!!」
「い……行かせてくれ。彼女と話を……くっ!」
「ソラティス様!!」

 バルトネルが支えるものの、ふらついてしまう。それでも動こうとするのを、なんとか引き留めてベッドへと寝かせる。バルトネルは顔をしかめた。

「私が言えた義理ではありませんが、今は無理をなさらないでください」
「今しかないだろう?」
「なんのためにレイア嬢を引き留めたのか、お考えください。は回復すべきときなのです」
「……」

 再びベッドへ横たわり、目元に腕を乗せ息を吐く。少しして手紙を用意するよう指示した。

「謝罪だけは……送っても構わないだろう?」
「そうですね。今用意いたしましょう」

 バルトネルは観念したように言い、頭を下げて部屋を出ていく。一人残されたソラティスは、天井を見る。ふとベッドサイドのテーブルに花が飾られていた。

 ラシーヌがよく纏っているフリージアの香りが漂う。恐らく温室から摘んできたのだろう。瞳を閉じれば、まるでその香りに乗せられたかのように彼女を思い出した。静かな微笑みと居心地の好さ。それが恋しい。

 気づけば彼は再び、溜め息を吐いていた。

 事情はすでに説明したと聞かされている。その上で彼女も同意したらしい。それは自分のことを慮ってのことと理解している。

 しかしそれでも、せめて直接話したかった、とソラティスは思いながら横を向く。視線の先に見える黄色い小さな花が、ただそこにあった。
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