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「ねえ、聞いた? またフリージア様が功績を挙げられたらしいわ」
「聞いたわよー! 本当にお強くて美しい方よね」
「燃えるような赤い髪に、素早い動き! そして女性でありながら他を圧倒する強さ! 憧れるわ~」
「でもフリージア様の剣、タッセルついてたわよね?」
え? と他の二人が顔を向ける。向けられた令嬢はパチパチと目を瞬いた。
とある夜会の片隅で、盛り上がっていた三人の令嬢たち。もっぱらの話題は王国を守る騎士団の炎の隊、その隊長のフリージアのことだった。
一つに結んだ赤い髪が特徴的で、戦場でも炎のようだと噂されるほど強い。
そして、そのフリージアの剣にタッセルがついていると、驚きを隠せないのは最近の流行りが理由だった。
今、王都では未婚の男女が手作りのタッセルを、想い人に贈るのが流行っている。令嬢・令息の中では特に騎士たちへ贈るのが人気で、もしその剣の柄につけられたら、想いが通じている証になっていた。
つまり、フリージアの剣の柄にタッセルがついているということは、それを贈った相手と想い合ってることになる。
令嬢の一人が聞く。
「え、だってフリージア様はヴェルディ様と結婚してるわよ?」
「ヴェルディ様が贈ったの?」
「ううん。そんな話は聞いてないわ。そもそも指輪があるのにタッセルなんていらないじゃない?」
タッセルはいわば、密かな想い。すでに婚姻していれば必要ない。令嬢たちは、困惑しながら口を開いた。
「ってことは、まさか……」
「え、そんな……」
「いや、だって……」
話していた三人が、同時に叫んだ。
「「「ええーーー!?」」」
* * *
訓練場で木剣を振り、結んだ赤髪を揺らしてフリージアが「次の相手はまだか!」と急かす。
「たるんでいるぞ! 前のヤツが倒された瞬間に仕掛けろ! 私を倒す気はあるのか!」
「は、はい!! 行きます!」
隊員の一人が震える手で木剣を握りしめ、駆け出す。だが、向かった先のフリージアに刃先が掠めることもなく、簡単に弾かれて反動で転がされてしまった。
その姿に叱責が飛ぶ。
「軽い! 重心をもっと剣に乗せろ! 次!」
だが直後、後ろから声がした。
「あまり厳しくするのも考えものだよ」
振り返ったフリージアが名を呼ぶ。
「ヴェル」
優雅に外套をたなびかせ、現れたのは青い髪の男性──ヴェルディ・ステレイン。フリージアの夫で王国の魔術師団、氷の隊隊長だ。歩いてくる彼を見て、フリージアの部下たちが頭を下げる。
その中でヴェルディが海色の瞳を、スッと細めて続けた。
「フリージア、殿下がお呼びだよ」
「殿下が? すぐに行く」
部下たちに「ひとまず休憩だ」と声をかけ、サッと身を翻す。ヴェルディの横をすり抜ける間際、腕を掴まれ呼び止められた。
「待って、フリージア」
「ん? どうした?」
「髪が乱れてる。ほら、おいで」
「ああ。すまない」
素直に寄って目を瞑るフリージアに、今しがた指導を受けていた隊員たちが密かにざわめきたつ。だがヴェルディは一瞥して、フリージアに柔らかく微笑いかけた。
「これで完璧。さあ、いってらっしゃい」
「ありがとう。場所はいつものところか」
「そう。あ、剣もしっかり持って歩いて」
「? ああ」
言われた通りに壁際へ向かう。その後ろ姿をヴェルディがジッと見ていた。フリージアは、木剣を定位置に戻し置いてあった自身の剣を手に取る。
白い鞘に金細工が施されていて、柄に揺れる青いタッセルがついていた。ヴェルディはそのタッセルを軽く見て、そのまま離れていくフリージアを見送った。
「聞いたわよー! 本当にお強くて美しい方よね」
「燃えるような赤い髪に、素早い動き! そして女性でありながら他を圧倒する強さ! 憧れるわ~」
「でもフリージア様の剣、タッセルついてたわよね?」
え? と他の二人が顔を向ける。向けられた令嬢はパチパチと目を瞬いた。
とある夜会の片隅で、盛り上がっていた三人の令嬢たち。もっぱらの話題は王国を守る騎士団の炎の隊、その隊長のフリージアのことだった。
一つに結んだ赤い髪が特徴的で、戦場でも炎のようだと噂されるほど強い。
そして、そのフリージアの剣にタッセルがついていると、驚きを隠せないのは最近の流行りが理由だった。
今、王都では未婚の男女が手作りのタッセルを、想い人に贈るのが流行っている。令嬢・令息の中では特に騎士たちへ贈るのが人気で、もしその剣の柄につけられたら、想いが通じている証になっていた。
つまり、フリージアの剣の柄にタッセルがついているということは、それを贈った相手と想い合ってることになる。
令嬢の一人が聞く。
「え、だってフリージア様はヴェルディ様と結婚してるわよ?」
「ヴェルディ様が贈ったの?」
「ううん。そんな話は聞いてないわ。そもそも指輪があるのにタッセルなんていらないじゃない?」
タッセルはいわば、密かな想い。すでに婚姻していれば必要ない。令嬢たちは、困惑しながら口を開いた。
「ってことは、まさか……」
「え、そんな……」
「いや、だって……」
話していた三人が、同時に叫んだ。
「「「ええーーー!?」」」
* * *
訓練場で木剣を振り、結んだ赤髪を揺らしてフリージアが「次の相手はまだか!」と急かす。
「たるんでいるぞ! 前のヤツが倒された瞬間に仕掛けろ! 私を倒す気はあるのか!」
「は、はい!! 行きます!」
隊員の一人が震える手で木剣を握りしめ、駆け出す。だが、向かった先のフリージアに刃先が掠めることもなく、簡単に弾かれて反動で転がされてしまった。
その姿に叱責が飛ぶ。
「軽い! 重心をもっと剣に乗せろ! 次!」
だが直後、後ろから声がした。
「あまり厳しくするのも考えものだよ」
振り返ったフリージアが名を呼ぶ。
「ヴェル」
優雅に外套をたなびかせ、現れたのは青い髪の男性──ヴェルディ・ステレイン。フリージアの夫で王国の魔術師団、氷の隊隊長だ。歩いてくる彼を見て、フリージアの部下たちが頭を下げる。
その中でヴェルディが海色の瞳を、スッと細めて続けた。
「フリージア、殿下がお呼びだよ」
「殿下が? すぐに行く」
部下たちに「ひとまず休憩だ」と声をかけ、サッと身を翻す。ヴェルディの横をすり抜ける間際、腕を掴まれ呼び止められた。
「待って、フリージア」
「ん? どうした?」
「髪が乱れてる。ほら、おいで」
「ああ。すまない」
素直に寄って目を瞑るフリージアに、今しがた指導を受けていた隊員たちが密かにざわめきたつ。だがヴェルディは一瞥して、フリージアに柔らかく微笑いかけた。
「これで完璧。さあ、いってらっしゃい」
「ありがとう。場所はいつものところか」
「そう。あ、剣もしっかり持って歩いて」
「? ああ」
言われた通りに壁際へ向かう。その後ろ姿をヴェルディがジッと見ていた。フリージアは、木剣を定位置に戻し置いてあった自身の剣を手に取る。
白い鞘に金細工が施されていて、柄に揺れる青いタッセルがついていた。ヴェルディはそのタッセルを軽く見て、そのまま離れていくフリージアを見送った。
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