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しおりを挟む「ヴェル! ヴェルディはいるか!?」
バンッと私室の扉を開けたのフリージア。邸に帰ってきて早々に夫婦の部屋へと向かう。中には氷の隊の宿舎で聞いた通り、ヴェルディがラフな格好でくつろいでいた。
フリージアを見るなり、ソファに座っていた彼がゆっくり立ち上がり、両手を広げて近づく。
「やあ、おかえり。王宮から真っ直ぐ帰ってきたんだね。待ってたよ」
艶やかな青い髪が微かに揺れて、嬉しそうなヴェルディはフリージアを抱き締める。だが彼女は、腕の中から抗議し始めた。
「私の剣の柄に見たことのないタッセルがついてるんだ。貴方の仕業だろう」
「ようやく気づいたんだね。ずいぶん噂までされたけど」
「噂? 殿下の言っていたやつか」
「恐らくそうだろうね」
くくっと笑ったヴェルディがそっと目を瞑り、波打つ赤い髪に頬を寄せ、耳元で続ける。
「未婚の男女が贈り……想いが通じたら」
「タッセルを持ち物につけるとか。だが私たちはもう結婚しているが」
不満そうに口に出す。フリージアはその紅い瞳で、ヴェルディをじっと見上げた。視線を受けて彼は、目を細めると柔らかく微笑む。
「それでも、君の剣に隙があるのが気に入らなかったんだよ。誰かの付け入る隙なんてね」
「なら普通に渡してくれればよかったじゃないか。私に気付かないようにしたのだろう? 認識阻害の魔法なんて使わずに。貴方の魔力には弱いと何度も」
「それも確かめているんだよ」
「! ヴェルっ!」
グッとフリージアの腰を引き寄せ、さらに深く抱き締める。
わずかに低く、だがゆったりとした落ち着いたトーンで彼は告げた。
「君が俺だけに弱いと、何度でも確かめていたいんだ」
ほんの少し距離を開けて、けれど逃がさないとばかりに後頭部に手を添えられて、フリージアは顔をそらせない。
海色の瞳で見つめられると囚われたように、固まってしまう。徐々に沸き上がる羞恥に顔が赤くなって、普段炎のようだと比喩される彼女は今、赤い小鳥のように震えている。
ヴェルディはどこか得意気に「ほらね」と笑って、額をコツンと合わせた。
「俺だけに敵わないと思って欲しい。誰よりも強い君は、俺だけに弱いままでいて」
「ヴェル…!」
「ん、君に呼ばれるのは心地が良いから」
潤む瞳に顔を寄せて、閉じた瞼に口づける。ヴェルディは、愛おしそうにフリージアの頬へ触れてさらに深いキスをした。
* * *
「ねえ、聞いた? フリージア様のタッセル、結局ヴェルディ様だったらしいわ」
「姫様が直接、確認したのよね」
「紛らわしいことするなってお怒りだったわよね~」
王宮での一幕を思い出しながら、お茶会に参加していた令嬢たちが話している。数日前、フリージアのタッセルがヴェルディからと聞いて、リーファが氷の隊まで押し掛けたのを偶然通りがかった二人が見てしまった。
片方がテーブルの上のスコーンに手を伸ばしながら、息を吐く。
「それにしても、ヴェルディ様ったら姫様のお怒りにも全く動じてなかったのよね~」
「あの方も人気は高いのだけど……」
「フリージア様しか見えていないのよねぇ」
三人の溜め息を、吹き抜ける爽やかな風がさらっていく。一人が「恋したいわね……」と呟いた。
fin.
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