不運な花嫁は強運な砂漠の王に愛される

shio

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二、螢華国

二百二、焦糖(キャラメル)(2)

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 僕の手から、キャラメルをもくもくと平らげ、衒宗は唇の端を舐める。
「美味い。丁度甘いものが欲しかったのだ」

「あ、でもこれは……!」
 味付けがかなり特殊なのだ。
 それに衒宗が言及しないことに、僕は内心でいぶかしむ。

(皇帝が、何も言わない……? 気付いていない……?)

 呆然としている僕が、ショックを受けたように見えたらしい。
 衒宗は、ついと僕のあごを人差し指で上向かせる。

「はしたないことをして悪かったな。あとで何か甘味でも贈らせよう」
「あっ、いえ……! お気になさらず。……ただのキャラメルですから」
 衒宗は目を丸くする。

房室へやも移動しなくて良いと?」
 僕は大きく頷いた。

「はい。十分広い房室へやをいただいておりますし――これ以上を望むのは、僕の身には過ぎたことかと」

 衒宗は、サディクと名乗ったあの剣呑な夜が嘘のように、目を細めて微笑する。

(やっぱり少し……アルに似ている……)

 叔父と甥なのだから、衒宗とサディクは当然似ているが、衒宗はアルとも遠い血縁関係になる。
 僕には、衒宗とアルの似ている部分が、より濃く見えるような気がするのだ。

「欲のない奴だ。我が後宮の妃は、正妃の位以外何も不要だと」
「そういう、つもりでは……っ」

 実際、一番不要なのは正妃の位なのだが、ここでそう告げるわけにもいかない。

「まあいい。俺に群がってくるのは、金や地位目当ての手合いばかりなのでな。甘味ぐらい受け取っておけ」

「でも、藍炎さんは――」

 龍藍炎は衒宗の側近だが、お金や地位目当ての人物には見えなかった。

 バハル国とは敵対しているが、現状、衒宗と僕たちの軋轢あつれきを上手く緩和しているように思える。

 衒宗は、く、と冷笑する。

「藍炎か。あ奴は、態度には出さないが、俺の金と地位目当ての筆頭だぞ。幼い頃、スラム街の野良犬だった藍炎を買ったのは俺だからな」

 藍炎は確か、衒宗に拾われたと言っていた。
「どう、して――」
 
 衒宗は、当時を思い出すように、天空へと仰向いた。
 曇天の空から灰色の雪が降って来ているような、そんな視線だった。
 
「藍炎はあの時、枯れゆくこの国の象徴のように見えた。今にも凍死しそうなのに、寒さにこごえながら、しおれた花を決して離さなかった。枯れ切った花が如何ほどのものになる。二束三文にもならぬものを抱え、雪に降られているアイツは、多分もうすぐ死ぬだろうと思った。男娼を続けていても、きっとそうだったろう。

ただ――何となく、それに抗いたくなった。神が藍炎の命を奪おうとしているのならば、俺はそれに反逆してみせようと。そうすれば、運命とやらを操作している神に、一矢いっしむくいることが出来る気がした。何千、何万という命の中の、たった一つだとしても。死という絶対的なものに、いなを突きつけてやることが出来れば――俺はそれだけで、胸がすくような心地がした。ただ、それだけのことだ。

藍炎が今、何不自由なく生きているのは、当時の俺の気まぐれと、神への嫌がらせの産物だ」
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