不運な花嫁は強運な砂漠の王に愛される

shio

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十一、湯浴み(2)

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 不意に触られるならまだしも、「触る」という宣言して触られたことなどない。
 だからこそ、余計に恥ずかしい。
 しかも浴場のため、お互い裸だ。

(アルの筋肉、柔らかかった……!)
 筋肉は硬いものだと思っていた。
 けれど、力を入れていないときは、弾力があるのにぷにぷにとしていて、妙に中毒性がある。雄っぱいが好きと偏愛する人が居るのも頷ける。

「柚。いいか」
恩人の身体をそれだけ堪能たんのうしたのに、触ってくれるなとも言えず、湯に浸かっていた上半身をさらけだした。
「ど、どうぞ」
「まあ、そう緊張するな。何も取って食おうというわけではない」
 アルはもともと鷹揚おうような性格だ。
 快活に笑んだアルに、少し肩の力を抜いた。

 きっとアルにとっては、こんなことも何ということはないのだろう。
 そう思うとなぜかもやもやとした感情が胸をよぎる。

 ひたりと、小麦色の長い指が、僕の胸元に触れた。
 湯に浸していたせいか、熱い。
「……んっ……」
 触れられただけなのに、さわ、と指の腹で撫でられると吐息が漏れた。
「もしかして、痛むのか?」
 声を我慢している僕に、アルが穏やかに尋ねる。
 怪我をしたのかと心配してくれているらしい。
「だい……じょうぶ……っ」

 あちこち擦り傷はあるが、幸い胸元は無事だ。
 しかし、アルの手が這うたび、微弱な電気が走ったように身体が跳ねる。
(何か……、変、なんだ……!)
 息を詰めている僕を気にせず、アルはふむと声を発した。
「きめ細やかな、雪のように真白い肌だな……。指に吸い付くようだ」

 いやらしい触り方をされているわけではなかった。
 アルの長い指が、てのひらが僕の胸元をつい、と行き来する。

 僕のときと同じように、そこにまったく他意はない。
 それなのに、僕は今真っ赤な顔をしているに違いない。

「柚?」
 アルの不思議そうな声が降る。
 今、口を開けたら、よくない声が出てしまいそうだ。
 唇を引き結んで、目をぎゅうと瞑る。

「嫌なら、嫌と言って良いんだぞ。ほら、目を開けてこっちを見ろ」
 辺り一面に漂う薔薇の香りにくらりとする。
 あごをくすぐるように撫でられる。
 まるで猫の子にするように、顎をクイと上向かされた。

 耐えきれず見上げた先には、チェシャ猫めいたアルの悪戯っぽい、けれど湯がしたたり、あまりにも色気のある微笑があった。

「俺に触られるのは、嫌か?」

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