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五十、騎乗と忍耐
しおりを挟む「三人になってしまったが、行くぞ柚。別荘は歩いて数時間のところにある」
遠くなってしまったランタン師匠の背中を見つめていると、アルが僕を呼んだ。
「うん……」
またきっと、ランタン師匠にも再会出来る日が来るだろう。
アルの横に並ぶと、突然抱き上げられた。
「わっ!?」
「柚はタマに乗れ。流石にずっと砂漠を歩くのは厳しい」
イスハークが口を挟む。
「アル様、タマに二人ともお乗りになられるのですか? 流石に柚様が乗り辛いのでは」
タマには御しやすいような鞍も最小限しか着けられていない。
確かに、慣れるまで上手に乗りこなすことは難しそうだ。
「ならば、俺と柚が馬に乗って、イスハークがタマに乗ることになるが、良いのか」
イスハークは言い淀む。
「私がタマに、ですか……。それもちょっと……。私の方に柚様を乗せるという選択肢もございますが」
「何だと?」
アルが眉を吊り上げる。
般若のような顔つきに、イスハークは諦めの溜息を吐いた。
「わかっておりましたとも。柚様、アル様とタマに乗っていただいてよろしいでしょうか。しかしながら、もし柚様の身体が痛くなって来たら、そのときは私の馬に乗っていただきますよ。柚様のお身体が第一です。よろしいですね?」
アルの威圧にも屈しない、従者として毅然とした対応は、流石イスハークだ。
しかし、アルは不敵に笑んだ。
「俺はそんなヘマはしないさ」
抱き上げていた僕を、ふわりとタマの上に乗せる。
初めて乗ったタマの毛並みはあまりにもふわふわで、この中に顔を埋めたいと思ってしまうくらい心地良かった。
アルも僕の後ろに飛び乗ると、まるで僕を全身で抱き締めるかのように、手綱を引いた。
アルの吐息が僕の耳に掛かる。
「あっ、あ、ああアル………様!?」
「じっとしていろ。騎乗の際に姿勢が悪くなると腰が痛む。俺に身体を預けていれば、楽に乗っていられる。気にするな」
「気にするなって……」
アルの身体が僕の背にぴったりと密着している。
初めて会ったときもアルの馬に乗せられていたはずだが、気を失っていた為、僕は覚えていない。
鍛えられたアルの硬い胸板が、僕の後ろ髪や敏感な背中を擦る。
どうにも気になって、もぞもぞと姿勢を正した。
すると、アルは後ろから僕に囁きかけた。
「柚。そう動いてくれるな。俺のモノが、擦れて反応してしまう」
「なっ……!」
「砂漠の真ん中で勃起でもして、イスハークにバレたら何と言われるか。――頼んだぞ」
(そ、そんな……っ)
アルが手綱を引くときに発する吐息が、浴場での行為と重なって仕方ない。
数時間という間、別荘に到着するまで僕は酷く生殺しの気分を味わうことになった。
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