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五十一、別荘(レストハウス)にて
「主様! 遠いところを御足労いただきましてありがとうございます!」
僕たちを出迎えてくれたのは、人数は少ないながらもぴしりと制服を着こなし、入口に整列した使用人の人たちだった。
アルは、被っていたフードをぐいと乱暴に脱いだ。
ざあ、と砂の落ちる音と、無骨な衣装に似つかわしくない端正な顔立ちが現れる。
「こちらこそ急に押しかける形になってすまない。俺やイスハークは慣れたものだが、柚は出身がこの国ではないのでな。労わってやってくれ」
「万事、畏まりまして。何でも、大規模な砂嵐があったとか。ご無事で何よりでございました」
「ああ、久々の天災だ。何も起こらなければ良いが――」
「どうぞ、中にお入りください。準備は整ってございます」
「助かる。暫く世話になるぞ」
久々の天災。
旅に疲れていたせいか、ああ、やはりと僕の脳内はあまりにも簡単に、その原因を突き止めた。
――僕のせいだ。
僕が、アルの儀式、千夜一夜祭を途中で中断させてしまった。
きっと、最高女神、ヘーラーの怒りを買ったのに違いない。
『神の怒りを買う』
その考えに、僕はびくりと肩を震わせた。
アルは、女神に愛されし人間だ。
そんなアルに僕が近寄ったとしたら――
きっと女神は怒り狂うに違いない
僕だけではない、もしかしたらアル自身も――
考えることさえ恐ろしく、ぎゅうと目を瞑った。
アルは目敏くその異変に気付いてしまう。
「柚? 寒いのか? 震えているが」
何と言えば良いのだろう。
僕が言いあぐねていると、最年長の執事らしき初老の使用人が、てきぱきと室内へと案内してくれた。
「毛布を用意してございます。こちらにどうぞ」
応接室に通され、温かい紅茶を振る舞われた。
見た目はアラブの宮殿のような造りであるが、内装はどこか英国式だ。
薄いモスグリーンと白のストライプが愛らしい、ファブリック風の壁紙。
白や淡い木目調で揃えられた、落ち着く家具や調度品。
元いた、アラビアンな雰囲気のお屋敷とは一線を画している。
英国式とはいっても、どっしりとしたアンティーク調とは違い、現代風の淡いカラーが特徴的だ。
温かい紅茶で気分が落ち着き、毛布に包まれた僕は、カップを両手に持ちながら、辺りを見回した。
イスハークも紅茶で一息つきながら、穏やかな声音で僕を気遣ってくれた。
「柚様、ご気分は如何ですか。ここは、別荘でもあるのですが、来客を迎えるレストハウスでもあるのですよ」
「ありがとう。イスハーク。大丈夫だよ。レストハウスって……休憩、みたいな感じの施設ってことなのかな」
「ええ、こちらは港とアル様のお屋敷までの中間地点に位置しております。海外からのお客様は、既に長旅でお疲れです。
その為、到着してからは一旦ここでお休みになったり、一泊されてから、お屋敷にお越しになったりされています。
普段から常時来客があるわけではないので、使用人は少なめですが。その代わり急場でも対応出来る者や、武芸に秀でたものが護衛に当たるなど、精鋭部隊が在籍しております」
「そうなんだ……。でもそこまで僕に話して、良いの?」
海が近いレストハウスということは、恐らく使用人たちはある意味関所のような役割を担っているということになる。
危険人物だと判定されれば、すぐにアルのところに通達が来るだろう。
イスハークは人差し指を唇にあてて、悪戯っぽく微笑んだ。
「内緒ですよ」
イスハークは生真面目な部分もあるが、時折こうした茶目っ気を見せることがある。
くすくす、と笑い合う僕たちを対岸に見て、アルは向かいのソファにどっかりと座った。
少しむくれている姿が、少年のように見えるのはどうしてだろうか。
アルは、己を落ち着かせるように息を吐く。
そして、屋敷の主人然として、真剣な瞳で僕に対峙した。
「柚。明日、お前の本来の婚約相手、アスアド・アズィーズをこの別荘に招く。そうすれば、お前の念願も叶うが――如何する?」
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