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五十五、アスアド・アズィーズとの面会2
しおりを挟む「私は柚の婚約者だ。アルに保護されていたとはいえ、長い間心細い思いをさせていたことに変わりはない。これからのことも、よくよく二人で話し合いたい。よもや嫌とは言うまいね?」
アスアドは、ゆったりとした優雅な口調で、しかし完全に否とは言わせない、圧のある声音で告げた。
アルは小さく息を吐く。
「――わかった。好きにするといい。俺は執務に戻っている。何かあれば呼んでくれ」
「あっ、あのっ」
気付けば口が勝手に動いていた。
「アル様……も、一緒じゃ……だめですか。僕アスアド様のことまだ何もわからないから、その、アル様が傍に居てくれると……嬉しいなって……」
本来なら二人で行くべきだとわかっている。
僕の婚約者は、アルではなくアスアドだ。
けれど――
「……柚」
アスアドは優しい口調で僕に呼び掛けた。
(OKしてくれる……っ!?)
アルが傍に居るなら、何も怖くはない。
僕はぱあっと顔を輝かせてアスアドを見つめた。
アスアドは端正な顔だちを一切崩すことなく、柔らかく微笑した。
「いけないよ。アルを困らせては。アルにはね、沢山仕事があるんだ。執務をするというのだから、邪魔をしてはいけない。――わかるね?」
「――はい……」
アスアドの返答は、まさかの拒絶だった。
「おい、アスア――」
アルが口を開きかけたとき、アスアドはそれを遮るように立ち上がった。
「さあ、行くよ。柚。――おいで」
「わかり……ました……」
どうしよう。
アスアドを怒らせてしまったかもしれない。
そして、アルとイスハークにも悪いことをしてしまった。
僕は何をしに此処へ来た?
わざわざ日本を離れた異国の地で。
アスアドと婚約する為だ。
それなのに、早速アスアドの機嫌を損ねてしまった。
昨日まで、イスハークと眺めていた穏やかな庭が、今では茨の生い茂った、途轍もなく恐ろしい場所に思える。
ふら、と僕は呆然としながら、アスアドに付き従った。
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