不運な花嫁は強運な砂漠の王に愛される

shio

文字の大きさ
55 / 225

五十五、アスアド・アズィーズとの面会2

しおりを挟む

「私は柚の婚約者だ。アルに保護されていたとはいえ、長い間心細い思いをさせていたことに変わりはない。これからのことも、よくよく二人で話し合いたい。よもや嫌とは言うまいね?」

 アスアドは、ゆったりとした優雅な口調で、しかし完全に否とは言わせない、圧のある声音で告げた。
 アルは小さく息を吐く。

「――わかった。好きにするといい。俺は執務に戻っている。何かあれば呼んでくれ」
「あっ、あのっ」

 気付けば口が勝手に動いていた。
「アル様……も、一緒じゃ……だめですか。僕アスアド様のことまだ何もわからないから、その、アル様が傍に居てくれると……嬉しいなって……」

 本来なら二人で行くべきだとわかっている。
 僕の婚約者は、アルではなくアスアドだ。

 けれど――

「……柚」

 アスアドは優しい口調で僕に呼び掛けた。
(OKしてくれる……っ!?)
 アルが傍に居るなら、何も怖くはない。
 僕はぱあっと顔を輝かせてアスアドを見つめた。

 アスアドは端正な顔だちを一切崩すことなく、柔らかく微笑した。

「いけないよ。アルを困らせては。アルにはね、沢山仕事があるんだ。執務をするというのだから、邪魔をしてはいけない。――わかるね?」

「――はい……」
 アスアドの返答は、まさかの拒絶だった。

「おい、アスア――」
 アルが口を開きかけたとき、アスアドはそれを遮るように立ち上がった。

「さあ、行くよ。柚。――おいで」

「わかり……ました……」
 どうしよう。
 アスアドを怒らせてしまったかもしれない。
 そして、アルとイスハークにも悪いことをしてしまった。

 僕は何をしに此処ここへ来た?
 わざわざ日本を離れた異国の地で。

 アスアドと婚約する為だ。
 それなのに、早速アスアドの機嫌を損ねてしまった。

 昨日まで、イスハークと眺めていた穏やかな庭が、今では茨の生い茂った、途轍もなく恐ろしい場所に思える。

 ふら、と僕は呆然としながら、アスアドに付き従った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

過保護な義兄ふたりのお嫁さん

ユーリ
BL
念願だった三人での暮らしをスタートさせた板垣三兄弟。双子の義兄×義弟の歳の差ラブの日常は甘いのです。

鳥籠の中の幸福

岩永みやび
BL
フィリは森の中で静かに暮らしていた。 戦争の最中である。外は危険で死がたくさん溢れている。十八歳になるフィリにそう教えてくれたのは、戦争孤児であったフィリを拾ってここまで育ててくれたジェイクであった。 騎士として戦場に赴くジェイクは、いつ死んでもおかしくはない。 平和とは程遠い世の中において、フィリの暮らす森だけは平穏だった。贅沢はできないが、フィリは日々の暮らしに満足していた。のんびり過ごして、たまに訪れるジェイクとの時間を楽しむ。 しかしそんなある日、ジェイクがフィリの前に両膝をついた。 「私は、この命をもってさえ償いきれないほどの罪を犯してしまった」 ジェイクによるこの告白を機に、フィリの人生は一変する。 ※全体的に暗い感じのお話です。無理と思ったら引き返してください。明るいハッピーエンドにはなりません。攻めの受けに対する愛がかなり歪んでいます。 年の差。攻め40歳×受け18歳。 不定期更新

【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。

美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)

若さまは敵の常勝将軍を妻にしたい

雲丹はち
BL
年下の宿敵に戦場で一目惚れされ、気づいたらお持ち帰りされてた将軍が、一週間の時間をかけて、たっぷり溺愛される話。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

処理中です...