不運な花嫁は強運な砂漠の王に愛される

shio

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五十七、抵抗

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「柚、服を脱いでくれるかな?」

 アスアドは決して無理強いしていない。
 穏やかな声音だ。
 表情は柔らかく、笑みを湛えている。

(でも、どうしよう――怖い)
 婚約者のことを、怖いと思ってしまうなんて。
 そんな馬鹿な、という思いが駆け巡る。

 僕は下唇をきゅうと噛み締めると、震える手を衣服に掛けた。

(こんな場所で――裸になるの? 本当に?)
 まだ外は明るい。
 開放的な庭に、人の気配はなかったが、いつ誰がやって来るとも知れない。

 お風呂でもない場所で、しかも下まで見せることになるとは、どうしても抵抗がある。

(でも、拒絶したらアスアドの花嫁にはなれない……)

 いずれねやで二人で過ごすかもしれない相手なのだ。
 裸ぐらい、見せられるはずだ。

 それなのに僕の手は震えるばかりで、衣服を肌蹴ることが出来なかった。

「どうしたの。柚。寒くはないと思うのだけれど」

 昨日、砂嵐が起きた影響で、外は晴れている。
 からりとした、乾いた晴天の空は不思議と冷たく見えた。

「あの……、あの……っ」
 どっどっ、と心臓が不整脈のように跳ねる。
 こんな時どうやって相手を怒らせずに断れば良いのだろう。
 
 知らず、目尻に涙が浮かんだ。

「――柚? どうしたのかな。私が脱がせてあげようか」
 白魚のようなアスアドの手が僕に伸びる。
 それが恐ろしくて、僕は目をつむった。

「や、だ……っ、助けて――アル……っ!」
 僕の口は勝手にアルの名前を呼んでいた。

 アルがここに居るわけがないのに。
 アスアドから、わざわざ遠ざけられていたのだ。

 どんなに呼んだとしても、僕の声はアルには届かない。

 けれど。

「――そこまですることはないだろう。アスアド」

 しかし、そろそろと目を開ければ、僕の前には、アルが、アスアドからかばうように立ちはだかっていた。
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