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二、螢華国
百四十八、屍者の街(ネクロポリス)2
しおりを挟む「不吉の相、凶相が出ておる。このままでは、お主の不吉が、周囲の者に害を為し、大切な者を、または自分自身を失う恐れがある」
「えっ……?」
まっすぐ僕を射抜く視線。
突然のことに、すぐには言葉が出て来なかった。
「貴様――我が妃を愚弄するなら、ただではおかんぞ」
アルが腰に佩いた剣の柄に手を掛ける。
「アル! 僕は大丈夫だから!」
老婆はゆっくりと詠唱でもするかのように呟いた。
「引き返す道はないでもない。しかし、それは時として永遠の別れとなることじゃろう。ゆめゆめ、忘れぬよう心得ておけ」
そして、老婆はまるで卒塔婆のようにか細い背中をこちらに向けると、ざり、ざりと引き摺るような足音と共に、歩き始めた。
「柚様、お身体に異変などはございませんか」
気が気でなかったのだろう、すぐにイスハークが僕を支えてくれた。
「驚いたけど、平気だよ。」
「一体何なんでしょう。――あの者は」
サディクが首を傾げる。
アルは、引き抜きかけた剣を、キンと鞘に収める。
「わからぬが、今は捨て置け。あのような輩に構っている暇はない」
アルは、微笑を湛えて僕を振り返った。
「柚。無事か? 先ほどのことは気にするな」
「大丈夫。――全然気にしてないよ」
(まさか、螢華国に来てまで、そんなことを言われるだなんて……)
イスハークが柳眉を顰めている。
「柚様……。」
どう取り繕っても、僕は元気のないように映ってしまうらしい。
こうした事態には慣れたと思っていただけに、ショックは大きかった。
「だいじょうぶ! 皆、行こ! 都までは二日間掛かるんだったよね。早く行かないと」
僕は、迷いを振り切るかのように、笑んでみせる。
そうしていないと、気にしてしまう。
僕の不運は元々のものだ。
けれど、このままでは、大切な人との永遠の別れと、なるかもしれない。
――お主の不吉が、周囲の者に害を為し、大切な者を、または自分自身を失う恐れがある
その言葉が、どうしても脳裏から離れなかった。
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