不運な花嫁は強運な砂漠の王に愛される

shio

文字の大きさ
148 / 225
二、螢華国

百四十八、屍者の街(ネクロポリス)2

しおりを挟む


「不吉の相、凶相が出ておる。このままでは、お主の不吉が、周囲の者に害を為し、大切な者を、または自分自身を失う恐れがある」

「えっ……?」
 まっすぐ僕を射抜く視線。
 突然のことに、すぐには言葉が出て来なかった。

「貴様――我がきさき愚弄ぐろうするなら、ただではおかんぞ」
 アルが腰にいた剣の柄に手を掛ける。
「アル! 僕は大丈夫だから!」

 老婆はゆっくりと詠唱でもするかのように呟いた。
「引き返す道はないでもない。しかし、それは時として永遠の別れとなることじゃろう。ゆめゆめ、忘れぬよう心得ておけ」

 そして、老婆はまるで卒塔婆のようにか細い背中をこちらに向けると、ざり、ざりと引きるような足音と共に、歩き始めた。

「柚様、お身体に異変などはございませんか」

 気が気でなかったのだろう、すぐにイスハークが僕を支えてくれた。
「驚いたけど、平気だよ。」

「一体何なんでしょう。――あの者は」
 サディクが首を傾げる。

 アルは、引き抜きかけた剣を、キンと鞘に収める。
「わからぬが、今は捨て置け。あのような輩に構っている暇はない」

 アルは、微笑を湛えて僕を振り返った。
「柚。無事か? 先ほどのことは気にするな」
「大丈夫。――全然気にしてないよ」
 
 (まさか、螢華国けいかこくに来てまで、そんなことを言われるだなんて……)

 イスハークが柳眉りゅうびひそめている。
「柚様……。」

 どう取り繕っても、僕は元気のないように映ってしまうらしい。
 こうした事態には慣れたと思っていただけに、ショックは大きかった。

「だいじょうぶ! 皆、行こ! 都までは二日間掛かるんだったよね。早く行かないと」

 僕は、迷いを振り切るかのように、笑んでみせる。
 そうしていないと、気にしてしまう。

 僕の不運は元々のものだ。
 けれど、このままでは、大切な人との永遠の別れと、なるかもしれない。

 ――お主の不吉が、周囲の者に害を為し、大切な者を、または自分自身を失う恐れがある

 その言葉が、どうしても脳裏から離れなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

過保護な義兄ふたりのお嫁さん

ユーリ
BL
念願だった三人での暮らしをスタートさせた板垣三兄弟。双子の義兄×義弟の歳の差ラブの日常は甘いのです。

鳥籠の中の幸福

岩永みやび
BL
フィリは森の中で静かに暮らしていた。 戦争の最中である。外は危険で死がたくさん溢れている。十八歳になるフィリにそう教えてくれたのは、戦争孤児であったフィリを拾ってここまで育ててくれたジェイクであった。 騎士として戦場に赴くジェイクは、いつ死んでもおかしくはない。 平和とは程遠い世の中において、フィリの暮らす森だけは平穏だった。贅沢はできないが、フィリは日々の暮らしに満足していた。のんびり過ごして、たまに訪れるジェイクとの時間を楽しむ。 しかしそんなある日、ジェイクがフィリの前に両膝をついた。 「私は、この命をもってさえ償いきれないほどの罪を犯してしまった」 ジェイクによるこの告白を機に、フィリの人生は一変する。 ※全体的に暗い感じのお話です。無理と思ったら引き返してください。明るいハッピーエンドにはなりません。攻めの受けに対する愛がかなり歪んでいます。 年の差。攻め40歳×受け18歳。 不定期更新

【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。

美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)

若さまは敵の常勝将軍を妻にしたい

雲丹はち
BL
年下の宿敵に戦場で一目惚れされ、気づいたらお持ち帰りされてた将軍が、一週間の時間をかけて、たっぷり溺愛される話。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

処理中です...