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二、螢華国
百七十、シェヘラザード(2)
しおりを挟む夜伽というものを、現皇帝がどう考えているかわからない。
今、僕に出来ることは――
(皆でバハルに帰る為に、皇帝に逢い、情報を集めること……)
香りの良い香水の風呂に身を沈めた。
巫女が身体を清める為、また皇帝に好まれる為に用意されたものだ。
香草や薬草、沈香などが用いられているのだという。
沐浴を済ませ、身支度をしているとイスハークは憔悴しきった様子で謝罪する。
「申し訳ございません。柚様――まさか、いの一番に夜伽に任命されるような事態になるとは……。アスアド様にも申し訳が立ちません」
「大丈夫だよ、イスハーク。アルから、王は通常、夜伽の相手には不自由しないことも聞いているし……。いきなり襲い掛かってくることはないはずだから――イスハークも監視に付いてくれるんだから、平気だよ」
「本当に――見違えるほどお強くなられました……」
髪を乾かしていた為、イスハークの言葉を聞き逃してしまった。
「イスハーク。今何て――」
イスハークはふるりと首を横に振る。
付き添いも同じように、沐浴をし、最低限の夕食を摂ることになっている。
携行品はイスハークに預けるので、その部分と衣装だけが、夜伽役との違いとなっていた。
周囲に人が居ないことを確認すると、僕は小声で告げた。
「イスハーク。アルからの伝言を伝えるね」
先日、アルが僕の部屋に来ていた時に告げられていた。
『携帯の話だが、建設作業をしているうちに判明したが、どうやら皇帝の部屋付近では、圏外が解除されることがわかった。部屋の周囲では、電波は不安定だが圏外ではなくなる。
推測するに、皇帝の私室では、携帯が使えるのではないか、というのが俺の持論だ』
イスハークはアルからの伝言を聞くと、何かに気付いたように、ハッとして顔を上げた。
僕は思わずにやりとしてしまう。
「皇帝の私室近くなら、電波が入りそうなんだって。だから、帯に携帯を潜ませておいて。夜伽の御簾が降りて、監視が一人になる時がある。その時にサディクと連絡が取れるかもしれない。……通話は出来ないから、あくまでメッセージのやり取りや、着信の確認だけになるけど……」
「柚様……。夜伽を引き受けて下さったのは、それが理由で……?」
「そんなことは、ないよ。僕も夜伽が断れないものだって、知ってる。だから、イスハークが気に病む必要はないよ」
本当は、会ったこともない皇帝が怖くないかと言えば嘘になる。
だけど、皆でバハルに帰ると誓った以上、僕にはやるべきことがあった。
丁度、時計の針が二十一時を指した時、夕方と同じように扉がノックされた。
「――お迎えに上がりました。春の巫女。バハル国の姫君よ」
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