不運な花嫁は強運な砂漠の王に愛される

shio

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二、螢華国

百七十一、夜伽

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 既に静まり返っている後宮内を、灯りを持った官に従い、粛々と進む。

 広い後宮内は、要所要所の扉に鍵が掛かっており、付き添いの官は鍵束の中から的確に必要な鍵を選び、開いて行く。

 重々しい扉が、重厚な金音と共に開き、再び閉ざされて行くさまは、何かの試練にすら思えた。

(こんなに、厳重な造りになっていたんだ……)
 もし、僕が内緒で抜け出したとしても、迷子になるか、鍵がなくて戻る未来しか見えない。

 静けさの中、官が口を開いた。

「昔は、夜伽に指名された妃の行く道を、他の妃が妬んで汚物をいたりしたようです。床を滑りやすくしたりと、嫌がらせが絶えず。また賊が入り込んだ際の備えとして、このような形になったようですよ」

「そうだったんですか……」

「王朝時代は、宦官が夜伽を命じられた妃を、身体に触れぬようにと、布団で包んで陛下の寝室へと運んだ時代もありました。――流石に、今は、そんなことはありませんが」

 王朝時代から、連綿と続いて来た伝統のようなものだろうか。
 老齢の官は、穏やかな瞳で僕を見つめた。

「さあ、次の扉が開けば、皇帝の寝室となっております。どうか、つつがなきよう」
「ありがとうございます」

 僕は目を閉じて深呼吸する。
 錠の開く音がして、静かにまぶたを開いた。

 部屋を一面覆い尽くすかのような、巨大な天蓋の寝台。
 その奥から、体躯をかたどる輪郭だけが、影のように動いた。

「ようやく、来たか。入れ」
 バリトンの、甘い声が響く。

(何だろう……。少し、アルに似ている……?)

 老齢の官は前に進み出た。
「皇帝陛下。失礼致します。春の巫女様。こちらへ」

 薄布を恭しく持ち上げてくれる官の脇を通り抜け、僕は豪奢な寝台の上へと進んだ。

 そして、信じられない出来事に、息を呑む。

「サ、ディク……!?」

 目の前の皇帝は、サディクと、瓜二つの顔つきをしていた。
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