172 / 225
二、螢華国
百七十一、夜伽
しおりを挟む既に静まり返っている後宮内を、灯りを持った官に従い、粛々と進む。
広い後宮内は、要所要所の扉に鍵が掛かっており、付き添いの官は鍵束の中から的確に必要な鍵を選び、開いて行く。
重々しい扉が、重厚な金音と共に開き、再び閉ざされて行くさまは、何かの試練にすら思えた。
(こんなに、厳重な造りになっていたんだ……)
もし、僕が内緒で抜け出したとしても、迷子になるか、鍵がなくて戻る未来しか見えない。
静けさの中、官が口を開いた。
「昔は、夜伽に指名された妃の行く道を、他の妃が妬んで汚物を撒いたりしたようです。床を滑りやすくしたりと、嫌がらせが絶えず。また賊が入り込んだ際の備えとして、このような形になったようですよ」
「そうだったんですか……」
「王朝時代は、宦官が夜伽を命じられた妃を、身体に触れぬようにと、布団で包んで陛下の寝室へと運んだ時代もありました。――流石に、今は、そんなことはありませんが」
王朝時代から、連綿と続いて来た伝統のようなものだろうか。
老齢の官は、穏やかな瞳で僕を見つめた。
「さあ、次の扉が開けば、皇帝の寝室となっております。どうか、つつがなきよう」
「ありがとうございます」
僕は目を閉じて深呼吸する。
錠の開く音がして、静かに瞼を開いた。
部屋を一面覆い尽くすかのような、巨大な天蓋の寝台。
その奥から、体躯をかたどる輪郭だけが、影のように動いた。
「ようやく、来たか。入れ」
バリトンの、甘い声が響く。
(何だろう……。少し、アルに似ている……?)
老齢の官は前に進み出た。
「皇帝陛下。失礼致します。春の巫女様。こちらへ」
薄布を恭しく持ち上げてくれる官の脇を通り抜け、僕は豪奢な寝台の上へと進んだ。
そして、信じられない出来事に、息を呑む。
「サ、ディク……!?」
目の前の皇帝は、サディクと、瓜二つの顔つきをしていた。
24
あなたにおすすめの小説
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
鳥籠の中の幸福
岩永みやび
BL
フィリは森の中で静かに暮らしていた。
戦争の最中である。外は危険で死がたくさん溢れている。十八歳になるフィリにそう教えてくれたのは、戦争孤児であったフィリを拾ってここまで育ててくれたジェイクであった。
騎士として戦場に赴くジェイクは、いつ死んでもおかしくはない。
平和とは程遠い世の中において、フィリの暮らす森だけは平穏だった。贅沢はできないが、フィリは日々の暮らしに満足していた。のんびり過ごして、たまに訪れるジェイクとの時間を楽しむ。
しかしそんなある日、ジェイクがフィリの前に両膝をついた。
「私は、この命をもってさえ償いきれないほどの罪を犯してしまった」
ジェイクによるこの告白を機に、フィリの人生は一変する。
※全体的に暗い感じのお話です。無理と思ったら引き返してください。明るいハッピーエンドにはなりません。攻めの受けに対する愛がかなり歪んでいます。
年の差。攻め40歳×受け18歳。
不定期更新
【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。
美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる