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二、螢華国
百七十三、胡蝶の夢(2)
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幸いにして、十二ほどになった頃、生きる術を見つけた。
無法地帯のスラム街に、警察の介入があった。
スラム街に迷い込んだ一般人が、スリに遭ったり暴行される事件が相次いだのだ。
――主犯格の少年は、死んだ。
いつも通り、スリをしようとしたときに、一般人に脇腹を刺されたのだ。
何故通りすがりの一般人が、ナイフを持っていたのか。
荷物を盗られるだけなのに、何故子供を刺したのか。
当然ながら、そんな捜査が為されるはずもない。
スリや盗み、置き引きへの対応が強化されることとなった。
同時に、肥大化し過ぎたスラム街を縮小させるという目的で、度々警察とスラム街の住民との間で対立が激化した。
盗みには瞬発力と脚力が必要で、自分には向かなかった。
代わりにと言っては何だが、花を売るようになった。
花と春は、同義だ。
来る日も来る日も、道行く人に、花を売った。
十を過ぎた頃から、妙な視線を感じることがよくあった。
「一回、いくら?」
スラム街のボロボロのテントの下で寝ていると、そう言いながら見知らぬ大男が入って来たときは、恐ろしくて声が出なかった。
どうやら、自分の顔立ちは金になるものらしい。
そう気付いたのと、花を売らないかと持ち掛けられたのは、ほぼ同時期だった。
自分を買うのは、専ら一般人だった。
値段を高く設定されていたので、スラム街の住民では買えなかったのだろう。
閨の中で、男たちは暇つぶしに色んな話を、時に聞かせてくれた。
中でも男たちが下らぬ御伽話、と呼ぶ物語は、非常に面白かった。
だが、気になることがあった。
「ねえ、貧しいお姫様に、どうして王子様が来るの。お城にいっぱい綺麗な人も居るんでしょう」
煙草を吹かしながら、男は笑った。
「それがご都合主義ってもんだな。その方が話として面白い」
スラム街育ちの子どもには、夢の詰まった御伽話を何の疑問もなく飲み込むことが出来なかった。
同じようにスラム街で育った子供たちは、殆どが姿を消していた。
大半が餓死、そして病死。
盗みしか特技のなかった子どもたちから、命を落としていった。
――王子様なんて、来ない。
王子様が必ず来るというのなら、既に病没した子どもたちの元に来ないのはおかしい。そして、自分の元にも。
客は、退屈しのぎに物語を教えてくれていたのだろう。
性欲が戻ると、間髪入れず圧し掛かられ、その話はすぐになかったことになった。
「今日はパンをやろう」
「いいの!?」
僕はがばりと安宿の寝台の上で跳ね起きた。
春を売ったお金は、大半が元締めの仲介手数料に消えてしまう。
手元に残るのは、雀の涙だった。
それを知ってか、お代とは別に、パンを現物支給でくれる客は格別に有難かった。
「三つも! 良いの!?」
硬いパンは、日持ちがする。三つあれば一週間乗り切ることも可能だ。
身体が大きくなればなるだけ、食べる量が増えることが困りものだった。
「その歳じゃあ、何を食っても足りんだろう」
「ありがとう!」
大概が、パン一個につき、一回の性交の追加だった。今回は三回の追加だ。
「その代わり、楽しませてくれよ」
喜んで、腰を振る自分はまるで犬のようだったろう。
男の目には、私は一体どう映っていたのだろうか。
無法地帯のスラム街に、警察の介入があった。
スラム街に迷い込んだ一般人が、スリに遭ったり暴行される事件が相次いだのだ。
――主犯格の少年は、死んだ。
いつも通り、スリをしようとしたときに、一般人に脇腹を刺されたのだ。
何故通りすがりの一般人が、ナイフを持っていたのか。
荷物を盗られるだけなのに、何故子供を刺したのか。
当然ながら、そんな捜査が為されるはずもない。
スリや盗み、置き引きへの対応が強化されることとなった。
同時に、肥大化し過ぎたスラム街を縮小させるという目的で、度々警察とスラム街の住民との間で対立が激化した。
盗みには瞬発力と脚力が必要で、自分には向かなかった。
代わりにと言っては何だが、花を売るようになった。
花と春は、同義だ。
来る日も来る日も、道行く人に、花を売った。
十を過ぎた頃から、妙な視線を感じることがよくあった。
「一回、いくら?」
スラム街のボロボロのテントの下で寝ていると、そう言いながら見知らぬ大男が入って来たときは、恐ろしくて声が出なかった。
どうやら、自分の顔立ちは金になるものらしい。
そう気付いたのと、花を売らないかと持ち掛けられたのは、ほぼ同時期だった。
自分を買うのは、専ら一般人だった。
値段を高く設定されていたので、スラム街の住民では買えなかったのだろう。
閨の中で、男たちは暇つぶしに色んな話を、時に聞かせてくれた。
中でも男たちが下らぬ御伽話、と呼ぶ物語は、非常に面白かった。
だが、気になることがあった。
「ねえ、貧しいお姫様に、どうして王子様が来るの。お城にいっぱい綺麗な人も居るんでしょう」
煙草を吹かしながら、男は笑った。
「それがご都合主義ってもんだな。その方が話として面白い」
スラム街育ちの子どもには、夢の詰まった御伽話を何の疑問もなく飲み込むことが出来なかった。
同じようにスラム街で育った子供たちは、殆どが姿を消していた。
大半が餓死、そして病死。
盗みしか特技のなかった子どもたちから、命を落としていった。
――王子様なんて、来ない。
王子様が必ず来るというのなら、既に病没した子どもたちの元に来ないのはおかしい。そして、自分の元にも。
客は、退屈しのぎに物語を教えてくれていたのだろう。
性欲が戻ると、間髪入れず圧し掛かられ、その話はすぐになかったことになった。
「今日はパンをやろう」
「いいの!?」
僕はがばりと安宿の寝台の上で跳ね起きた。
春を売ったお金は、大半が元締めの仲介手数料に消えてしまう。
手元に残るのは、雀の涙だった。
それを知ってか、お代とは別に、パンを現物支給でくれる客は格別に有難かった。
「三つも! 良いの!?」
硬いパンは、日持ちがする。三つあれば一週間乗り切ることも可能だ。
身体が大きくなればなるだけ、食べる量が増えることが困りものだった。
「その歳じゃあ、何を食っても足りんだろう」
「ありがとう!」
大概が、パン一個につき、一回の性交の追加だった。今回は三回の追加だ。
「その代わり、楽しませてくれよ」
喜んで、腰を振る自分はまるで犬のようだったろう。
男の目には、私は一体どう映っていたのだろうか。
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