6 / 18
第二章
三、決意と訣別
しおりを挟む
すっかり日が暮れてしまった神社には、既に夜の帳が下りていた。
要所要所に電灯があるわけでもない。暗闇の中で、桜だけが夜光の珠のようで、まるで発光しているようだ。
「一人で、って……」
時間が息を吹き返す。風が強く吹いた。上島はゾクリと背筋を粟立たせる。
――春は、こんなに寒かっただろうか。
「危険だ! 阿相さんに今日話を聞いてよく分かったよ。君が如何に死線を彷徨うような世界にいるかということ……。私は、今まで知らなかった……」
恥じ入るように、神楽は俯いた。
「危険でもやる。もう依頼は受けちまったんだ。やるしかない」
「断ることだって……出来るだろう?」
「出来ない」
「勇朔!」
神楽は焦れたように、勇朔の腕を掴んだ。神楽は優男に見えて、結構力がある。
「何か方法があるはずだ! …そうだ、阿相玄水さんは、君と反対の属性、ユエなんだろう? あの人に頼んで……」
「無駄だ。玄水が俺の頼みなんか聞くか。あいつは誰の頼みも聞かない。とりわけ、玄天側の人間の頼みなんか、真っ平御免だろう」
「…………」
「そういや、言ってなかったっけな。華山家総本山には、派閥がある。一つは、現当主の阿相玄天側。お前の弟、千春くんも勿論玄天側の人間だ。そして俺もな。そしてもう一つは、阿相玄水側だ。玄天と玄水は、異母兄弟なんだ。同じ年齢のな。
物凄い確率にして、生まれた日も同じらしい。確か、春分の日だった。昼と夜の時間が全く同じになるその日だ。そういう日に生まれた者は、霊的な資質が高いことが多い。
奇遇にして、玄天と玄水は、同じ年の同じ日に生まれたわけだ。時間もそんなに変わらない。とすると、何を持って当主とするか? 分かるか?」
「資質……?」
「そう。だがな、考えてみてくれ。チセイも今日言ったよな。『玄天はもっと年を取った人かと思った』と。おまけに玄天はあの髪の色と目の色だ。そう考えると、俄然玄天は不利になる」
上島は、異に饒舌だった。まるで、自分のことから話題を逸らそうとしているかのようだ。しかし、華山家総本山の詳細を聞いておかねばと、神楽は話に乗る。
「霊だの何だのを扱うところは、しきたりや伝統に五月蝿い。そういう奴らが、金髪の人間を当主に据えるとは考え難い。
他の者もそう思っていたようで、華山家総本山には、圧倒的に玄水側が多かった。玄水は黒髪の短髪。威厳もあり、霊力も申し分ない。当主に据えられない理由が何一つなかった。
けれど、先代の遺言で全てがひっくり返った。当主には、阿相玄天を据える、と。先代はそれ以上何も明かさず、そのまま亡くなった。
ただ、玄天と玄水が協力して、統率していくように、とは書かれていたが、まあ無理な話だ。玄水にしてみりゃ、座るつもりだった椅子を分捕られたようなもんだしな」
上島は、大きな桜の木にもたれかかる。
「まあ、そういうわけだ。俺も玄水とは数えるほどしか話したことはないし、決して仲は良くない。玄水も、玄天側の人間とは一切接触しない。今となっちゃ、よくこれだけ住み分けたもんだと思うが。何というか……因果な話だな」
異母兄弟と言えば、神楽と千春もそうなのだ。神楽と千春は仲良く暮らしているが、もう一方の玄天と玄水は仲がすこぶる悪い。非常に対照的だった。どちらが幸せかそうでないかは分からない。
けれど、玄水と玄天は、偶々、華山家当主の家に生まれたばっかりに、このような勢力争いに巻き込まれてしまったとも言える。そう考えると、色々な要因が結びついて、このようになったのだ。回る因果は何とも奇妙なものと言える。
「そう、なのか……。けれど、君はどうして、そんなにあの依頼にこだわるんだい。断ってしまえば済む話じゃないか。こんなに危険な……命をかけるほどのものとは、私には思えない」
「――あそこには、俺の記憶がある。十二歳以前の記憶が」
熱に浮かされた病人が、水を渇望するような虚ろな声だった。
「知りたいのか知りたくないのか、自分でも迷ってるんだ。今の生活をなくしたくない。けれど、知りたい」
「勇朔、阿相さんの言うとおり、私も君を死なせたくない。危険なことは止めて欲しい。――君は君じゃないか。例え十二歳以前の記憶がなくたって、今まで君が生きてきた、二十年間があるじゃないか。君が積み上げてきた歴史があるじゃないか!」
「――ふざけるな!!」
上島は神楽の手を振りほどいた。辺りがしん、と静まり返る。上島が、神楽にこんなふうに怒鳴ったのは、初めてだった。神楽は呆然と押し黙る。
「俺が、今まで不安でなかったと思うのか? 自分がどこの誰とも知れない奴で、名前すら本当のものではなく、家族のことも覚えていない。中学校のときは、死にたいと思ってたよ。
周りの奴らが、自分の持ってないものを何もかも持ってる気がして妬ましかった、朝目覚めたら、昨日のことすら全て忘れてるんじゃないかと恐怖で眠れなかった、嘘だと分かっている経歴で、履歴書を書くことが出来なかった、この苦しみが、お前に分かるのか!?」
悲痛な魂の叫びだった。空気を切り裂くような、上島の悲鳴だ。
今までずっと、気にしないふりで生きてきた。記憶を失ったまま入学した中学校。幸い、小学校で習った知識は覚えていたので、中学を受験することが出来た。
しかし入学した中学校は、思い描いていた場所とは遥かに違っていた。そこは、温かい場所とは程遠いところだった。テストに過敏なほどに一喜一憂するクラスメイト達。
自分より成績が上だと見るや否や、途端によそよそしくなる者たちの集う場所だった。自分が上でなければ、登りつめなければ、教室はいつもそういった思いに支配されていたように思う。
邪魔者は排除せよ、そんな命令をされたかのように、生徒たちは動いていた。落ちこぼれた者を容赦なく踏みつけにし、嘲笑の対象とした。そういった者はより長く苛められた。
謂わば生徒たちの安定剤代わりだったのだ。「こいつがいるから、まだ自分は堕ちこぼれではない」陳腐な自尊心を、その苛めで満足させていたのだ。苛められた者は、やがて学校に来なくなった。
そしてひっそりと転校していくのが常であった。私立の名門という校風が悪かったのだろう。学校の評判が下がるような事件があれば、理事会によってすぐに揉み消された。
上島は、そんな校風に半ばうんざりとしていた。友人をつくる気にもなれない場所だったのだ。だから上島はいつも一人だった。成績次第で離れていく友人など、最初からいないほうが良い。
高校生になって、その雰囲気も少しはマシにはなった。外部からの生徒がたくさん入ってきたおかげとも言えた。その中に神楽がいた。
これまで、友人という夢を見させてくれたのは紛れもなく神楽だ。記憶がない、どこの誰かも分からない自分に、構って優しくてくれた。今も、たかが自分のことに、これほどまでに心配し、身を案じてくれている。
握っていた手があった。神楽がここに居てくれたからこそ、上島はこれまでやってくることが出来たのだ。上島は、神楽と地続きでこの世に存在しているのだ。
――――けれど。
自分という存在が確かでないまま、ここに居るのは嫌だった。
上島は、神楽が繋ぎとめていてくれた手を放した。
放した途端、どこに行くのかさえ見当もつかない。もしかしたら地上の楽園から、地獄に連れて行かれるのかもしれなかったし、逆に花咲き乱れる天国に行くことが出来るのかもしれない。
――――そんなことは決して期待していなかったが。上島は、何か眩しいものを見るかのような瞳で、微笑んだ。
「今まで側に居てくれて、感謝してる」
終わりだ。神楽が繋いでいてくれた手を、放した。
これからどうなるかは分からない。
もしかすると、この世に居られなくなるのかもしれないが。もしそうなれば、今までよくしてくれた神楽に申し訳がなかった。
自分が死んでしまうかもしれないということについては、むしろどうでも良かった。所詮、なるようにしかならないのだから。
そのことよりも、自分が死ぬことで傷つく神楽が居るとすれば、その方が辛い。だから今手を放すのだ。手を放せば、神楽は自由になれる。
上島には、死ぬことよりも神楽の手を放すことの方が余程辛かった。普通の幸せな生活をくれた神楽は、その意味に気付いているだろうか。
「ゆう、朔……」
神楽は信じられないという目で上島を見ているに違いなかった。上島は、その姿を見る勇気がなくて、俯きながら踵を返し、華山家を後にした。帰りはタクシーを拾った。
どんよりとした街の光が、走るタクシーの中に差し込んでいる。
いっそ何もかも忘れて眠ってしまいたかった。神楽、裏切ったわけじゃない。
いや、裏切ったと思ってもいい。
だから、神楽が気に病む必要はないんだ――。
そう唱えながら、目を閉じる。
何にしても、これから上島は独りだった。
要所要所に電灯があるわけでもない。暗闇の中で、桜だけが夜光の珠のようで、まるで発光しているようだ。
「一人で、って……」
時間が息を吹き返す。風が強く吹いた。上島はゾクリと背筋を粟立たせる。
――春は、こんなに寒かっただろうか。
「危険だ! 阿相さんに今日話を聞いてよく分かったよ。君が如何に死線を彷徨うような世界にいるかということ……。私は、今まで知らなかった……」
恥じ入るように、神楽は俯いた。
「危険でもやる。もう依頼は受けちまったんだ。やるしかない」
「断ることだって……出来るだろう?」
「出来ない」
「勇朔!」
神楽は焦れたように、勇朔の腕を掴んだ。神楽は優男に見えて、結構力がある。
「何か方法があるはずだ! …そうだ、阿相玄水さんは、君と反対の属性、ユエなんだろう? あの人に頼んで……」
「無駄だ。玄水が俺の頼みなんか聞くか。あいつは誰の頼みも聞かない。とりわけ、玄天側の人間の頼みなんか、真っ平御免だろう」
「…………」
「そういや、言ってなかったっけな。華山家総本山には、派閥がある。一つは、現当主の阿相玄天側。お前の弟、千春くんも勿論玄天側の人間だ。そして俺もな。そしてもう一つは、阿相玄水側だ。玄天と玄水は、異母兄弟なんだ。同じ年齢のな。
物凄い確率にして、生まれた日も同じらしい。確か、春分の日だった。昼と夜の時間が全く同じになるその日だ。そういう日に生まれた者は、霊的な資質が高いことが多い。
奇遇にして、玄天と玄水は、同じ年の同じ日に生まれたわけだ。時間もそんなに変わらない。とすると、何を持って当主とするか? 分かるか?」
「資質……?」
「そう。だがな、考えてみてくれ。チセイも今日言ったよな。『玄天はもっと年を取った人かと思った』と。おまけに玄天はあの髪の色と目の色だ。そう考えると、俄然玄天は不利になる」
上島は、異に饒舌だった。まるで、自分のことから話題を逸らそうとしているかのようだ。しかし、華山家総本山の詳細を聞いておかねばと、神楽は話に乗る。
「霊だの何だのを扱うところは、しきたりや伝統に五月蝿い。そういう奴らが、金髪の人間を当主に据えるとは考え難い。
他の者もそう思っていたようで、華山家総本山には、圧倒的に玄水側が多かった。玄水は黒髪の短髪。威厳もあり、霊力も申し分ない。当主に据えられない理由が何一つなかった。
けれど、先代の遺言で全てがひっくり返った。当主には、阿相玄天を据える、と。先代はそれ以上何も明かさず、そのまま亡くなった。
ただ、玄天と玄水が協力して、統率していくように、とは書かれていたが、まあ無理な話だ。玄水にしてみりゃ、座るつもりだった椅子を分捕られたようなもんだしな」
上島は、大きな桜の木にもたれかかる。
「まあ、そういうわけだ。俺も玄水とは数えるほどしか話したことはないし、決して仲は良くない。玄水も、玄天側の人間とは一切接触しない。今となっちゃ、よくこれだけ住み分けたもんだと思うが。何というか……因果な話だな」
異母兄弟と言えば、神楽と千春もそうなのだ。神楽と千春は仲良く暮らしているが、もう一方の玄天と玄水は仲がすこぶる悪い。非常に対照的だった。どちらが幸せかそうでないかは分からない。
けれど、玄水と玄天は、偶々、華山家当主の家に生まれたばっかりに、このような勢力争いに巻き込まれてしまったとも言える。そう考えると、色々な要因が結びついて、このようになったのだ。回る因果は何とも奇妙なものと言える。
「そう、なのか……。けれど、君はどうして、そんなにあの依頼にこだわるんだい。断ってしまえば済む話じゃないか。こんなに危険な……命をかけるほどのものとは、私には思えない」
「――あそこには、俺の記憶がある。十二歳以前の記憶が」
熱に浮かされた病人が、水を渇望するような虚ろな声だった。
「知りたいのか知りたくないのか、自分でも迷ってるんだ。今の生活をなくしたくない。けれど、知りたい」
「勇朔、阿相さんの言うとおり、私も君を死なせたくない。危険なことは止めて欲しい。――君は君じゃないか。例え十二歳以前の記憶がなくたって、今まで君が生きてきた、二十年間があるじゃないか。君が積み上げてきた歴史があるじゃないか!」
「――ふざけるな!!」
上島は神楽の手を振りほどいた。辺りがしん、と静まり返る。上島が、神楽にこんなふうに怒鳴ったのは、初めてだった。神楽は呆然と押し黙る。
「俺が、今まで不安でなかったと思うのか? 自分がどこの誰とも知れない奴で、名前すら本当のものではなく、家族のことも覚えていない。中学校のときは、死にたいと思ってたよ。
周りの奴らが、自分の持ってないものを何もかも持ってる気がして妬ましかった、朝目覚めたら、昨日のことすら全て忘れてるんじゃないかと恐怖で眠れなかった、嘘だと分かっている経歴で、履歴書を書くことが出来なかった、この苦しみが、お前に分かるのか!?」
悲痛な魂の叫びだった。空気を切り裂くような、上島の悲鳴だ。
今までずっと、気にしないふりで生きてきた。記憶を失ったまま入学した中学校。幸い、小学校で習った知識は覚えていたので、中学を受験することが出来た。
しかし入学した中学校は、思い描いていた場所とは遥かに違っていた。そこは、温かい場所とは程遠いところだった。テストに過敏なほどに一喜一憂するクラスメイト達。
自分より成績が上だと見るや否や、途端によそよそしくなる者たちの集う場所だった。自分が上でなければ、登りつめなければ、教室はいつもそういった思いに支配されていたように思う。
邪魔者は排除せよ、そんな命令をされたかのように、生徒たちは動いていた。落ちこぼれた者を容赦なく踏みつけにし、嘲笑の対象とした。そういった者はより長く苛められた。
謂わば生徒たちの安定剤代わりだったのだ。「こいつがいるから、まだ自分は堕ちこぼれではない」陳腐な自尊心を、その苛めで満足させていたのだ。苛められた者は、やがて学校に来なくなった。
そしてひっそりと転校していくのが常であった。私立の名門という校風が悪かったのだろう。学校の評判が下がるような事件があれば、理事会によってすぐに揉み消された。
上島は、そんな校風に半ばうんざりとしていた。友人をつくる気にもなれない場所だったのだ。だから上島はいつも一人だった。成績次第で離れていく友人など、最初からいないほうが良い。
高校生になって、その雰囲気も少しはマシにはなった。外部からの生徒がたくさん入ってきたおかげとも言えた。その中に神楽がいた。
これまで、友人という夢を見させてくれたのは紛れもなく神楽だ。記憶がない、どこの誰かも分からない自分に、構って優しくてくれた。今も、たかが自分のことに、これほどまでに心配し、身を案じてくれている。
握っていた手があった。神楽がここに居てくれたからこそ、上島はこれまでやってくることが出来たのだ。上島は、神楽と地続きでこの世に存在しているのだ。
――――けれど。
自分という存在が確かでないまま、ここに居るのは嫌だった。
上島は、神楽が繋ぎとめていてくれた手を放した。
放した途端、どこに行くのかさえ見当もつかない。もしかしたら地上の楽園から、地獄に連れて行かれるのかもしれなかったし、逆に花咲き乱れる天国に行くことが出来るのかもしれない。
――――そんなことは決して期待していなかったが。上島は、何か眩しいものを見るかのような瞳で、微笑んだ。
「今まで側に居てくれて、感謝してる」
終わりだ。神楽が繋いでいてくれた手を、放した。
これからどうなるかは分からない。
もしかすると、この世に居られなくなるのかもしれないが。もしそうなれば、今までよくしてくれた神楽に申し訳がなかった。
自分が死んでしまうかもしれないということについては、むしろどうでも良かった。所詮、なるようにしかならないのだから。
そのことよりも、自分が死ぬことで傷つく神楽が居るとすれば、その方が辛い。だから今手を放すのだ。手を放せば、神楽は自由になれる。
上島には、死ぬことよりも神楽の手を放すことの方が余程辛かった。普通の幸せな生活をくれた神楽は、その意味に気付いているだろうか。
「ゆう、朔……」
神楽は信じられないという目で上島を見ているに違いなかった。上島は、その姿を見る勇気がなくて、俯きながら踵を返し、華山家を後にした。帰りはタクシーを拾った。
どんよりとした街の光が、走るタクシーの中に差し込んでいる。
いっそ何もかも忘れて眠ってしまいたかった。神楽、裏切ったわけじゃない。
いや、裏切ったと思ってもいい。
だから、神楽が気に病む必要はないんだ――。
そう唱えながら、目を閉じる。
何にしても、これから上島は独りだった。
0
あなたにおすすめの小説
【短編】記憶を失っていても
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
7年以上前の記憶のない平民出身のラチェルは、6年前に娘のハリエットを生んでからグリオス国のアンギュロスの森付近の修道院で働きながら暮らしていた。
そんなある日ハリエットは見たことのない白銀色の大樹を見つけたと、母ラチェルに話すのだが……。
これは記憶の全てを失ったラチェル──シェシュティナが全てを取り戻すまでのお話。
※氷雨そら先生、キムラましゅろう先生のシークレットベビー企画開催作品です( ´艸`)
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
『まて』をやめました【完結】
かみい
恋愛
私、クラウディアという名前らしい。
朧気にある記憶は、ニホンジンという意識だけ。でも名前もな~んにも憶えていない。でもここはニホンじゃないよね。記憶がない私に周りは優しく、なくなった記憶なら新しく作ればいい。なんてポジティブな家族。そ~ねそ~よねと過ごしているうちに見たクラウディアが以前に付けていた日記。
時代錯誤な傲慢な婚約者に我慢ばかりを強いられていた生活。え~っ、そんな最低男のどこがよかったの?顔?顔なの?
超絶美形婚約者からの『まて』はもう嫌!
恋心も忘れてしまった私は、新しい人生を歩みます。
貴方以上の美人と出会って、私の今、充実、幸せです。
だから、もう縋って来ないでね。
本編、番外編含め完結しました。ありがとうございます
※小説になろうさんにも、別名で載せています
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる