冷たい桜

shio

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第四章

四、恩讐の最果て

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 上島はまた蓮北の小学校の校庭に立っていた。

 時刻は、既に深夜二時。人っ子一人いない、その静寂の中に堂々と佇んでいる。

 不気味なまでの静けさも、今の自分には恐れにはならない。むしろ、いっそ清々しいほどだ。

 この間は満月だったが、今日は月は出ていない。これこそ、太古の昔から人々が感じてきた、本物の闇夜だった。

 バサリと、着物の袖を翻す。いつもの、真白の小袖と、濃紺の袴。勾玉のついた首飾りをかけると、妙に落ち着いた。

 身体の隅々にまで鋭気が充ちているように感じる。指から足の先まで、力が密集している。恐れるものは何もなかった。


 闇夜の中でも、より濃く染まる自らの影。上島は、神社の鳥居にかけられているような、注連縄を取り出した。

 この間使用した注連縄は、幽鬼に破られてしまったので、今回は華山家総本山から、最も霊力の強い注連縄を借り受けてきたのだった。注連縄も、昔から使用されてきた「結界」である。

 現代では忘れ去られているが、れっきとした呪術道具だ。長さ三十メートルはあろうかというその注連縄を、ぐるりと桜の木の周りに捲きつける。

 これは、邪悪なものが周りに寄ってこないためというような、通常の使い方ではなく、幽鬼がその結界から出られないようにすることが目的だった。

 はらはらと桜が散る。桜は今が満開だ。上島は目を細めて桜を見た。どこか命の終わりを連想させられる。

 満開を過ぎれば、後は散るだけだ。一年後、またこのように数え切れないほどの桜をつけることを夢見て、桜は眠る。

 しかし、上島には、この桜をやすやすと眠らせてやる気はない。この桜こそが、全ての元凶であり、何人もの人間を殺してきたのだ。

「人喰い桜。そうだよな?」

 桜は、肯定の意を示しているように見えた。
 勇朔は、大きく円を描くように片腕を回し、音を立てて小袖をはためかせた。

「成仏させてやる!! 有り難く思えよ!」

 力が一点に集まってくる。全てのものが、上島を歓迎し、支えてくれるかのようだ。これが、『朔』の力。

「流石、寿命が短いだけはある!」

 上島は抑えきれぬ笑みを口元に湛えながら、己を取り巻く風の中で叫ぶ。

 風が出てきていた。それは自然の風ではなく、上島を中心に取り囲む、上島が生み出した風だった。

 ごうと吹きつけられて、桜は堪らずに花びらを散らせた。
 上島はそれを見届けると、霊媒のときにするように、片膝を立て、地面にしゃがむ。

 両手を組み合わせ、人差し指と親指をそれぞれ付き合わせた。指先に力が集まる。

 熱いような、熱のうねりを感じる。こんな感覚は知らなかった。このエネルギーは何なのか。例えるなら、全ての物体を動かす動力の塊のようなものだろうか。

 温かく、おそらく色で表すなら、黄色か橙色のようだと上島は思う。

「――オン バザラ タラマ キリク」

 腹の底から、自分のものでないような声が辺りに響く。まるで自分の身体を借りて誰かが話しているようだ。

 しょう  めつ    じょう―――不 増 不 減  是 故 空 中 無 色 無 受 想 行 識―――――― !」

 今までの霊媒とは明らかに違うと、上島は意識の底で感じていた。詠唱の一字一字に、魂が宿っている。今までもそう思ったことはあったが、言葉の持つ威力をあますところなく発揮している。

 何時の間にか、桜がどす黒く変色している。赤い、赤い桜。

 にび色とでもいうべきか。血のような色になっている。上島はそれでも詠唱をやめなかった。どくん、どくん、と桜が脈打っている。それが地面と連動して、一定リズムで揺れている。まるで地面が心臓になったかのようだ。

 桜の脈打つ回数が、明らかに早くなってきた。枝がざわざわと揺れ、赤い花びらを散らす。苦しいのだろう。上島はゆるゆると口の端を持ち上げた。その間も詠唱は続いている。

 上島が、涼やかな呪文を紡ぐ。どれだけの時間が流れただろうか。

 その時間は、一瞬のようでもあり、また永遠のようでもあった。

 川のようにゆるやかに、しかし力強く、詠唱は響いている。精魂を極限まで使う呪文の詠唱は、五分もすればたちまちに威力をなくしていくものでもある。霊媒者の能力に非常に左右されやすい。玄天ですら、詠唱は十分が限界だろう。

 しかし、今の上島は、何時間詠唱を続けていようが、全く力の衰えを感じさせなかった。

 以前サンユエであったときと、基本的な構造が全て違っているかのようだ。

 呪文の詠唱が問題ではなく、身体を構成する細胞が土台から変わってしまった、というのが近い。

 声を出すのが辛い、と感じることもない。

 声が喉から出ているような、そんな薄っぺらな身体ではない。声は、喉などではなく、もっと奥深くから出ている。腹からでも、足からでもない。もっと深い部分。これは――魂から出ているのかもしれない。

 桜から、むくむくと黒い雲のような、霧のようなものが広がりだした。瘴気だ。最早、桜は己の内側に気を留めておくことが出来なくなったのだろう。

 桜の木は巨大なので、そこへ瘴気が広がると、まさに天を見上げるような高さになる。

 ビルの十階立てほどの高さだろうか。地面に屈んでいる上島は、非常に小さく見えた。

 やがて瘴気は上島の方にまで及んできた。上島はすっかり黒い霧に囲まれる。瘴気は僅かに腐臭がした。

 今まで殺してきた人々の怨念が混ざりあっている。

 ――――これは酷い。

 第三段階の幽鬼の、最も悪質な性質だと言えた。サンユエかユエの属性の霊媒師なら、この腐臭を嗅いだだけでも昏倒するだろう。悪い場合なら、死んでしまうかもしれない。

 それでも上島の詠唱は終わらない。瘴気にまとわりつかれても、今の上島には取るに足らないものだ。
 ぶわりと、瘴気は身を揺らめかせる。

 すると桜の木の後ろから、ぞろぞろと何かが這い出してきた。上島は瘴気の中から目を凝らす。

 その影は人間のものだと分かった。黒い人間の影。上島が、『朔』になる前の夢と同じく、黒いシルエットしか見えないが、墓から這い出してきたゾンビのようなたどたどしい動きで、ゆっくりと上島に向かってくる。

 その数、既に、何十、何百。幼い子どものもの、大人の男性のもの。それぞれの影が左右に触れている。

 皆一様に苦しそうな呻き声をあげていた。怒り、悲しみ、憎悪。人間の全てのマイナスの感情が、根こそぎ集約されている。

 より一層強い悪臭が鼻をついた。

 上島の目前に迫った黒い影が、上島の足元へと手を伸ばす。上島は目を閉じた。

オン―――!!」
 今までのなだらかな詠唱とは違う。空気が爆ぜる。

 その瞬間、黒い瘴気や、人間の影は、消し飛んだ。爆弾を投げ込んだかのように、また水が水面に波紋を描くように、光に飲み込まれていく。

 サンユエだったときは青い炎を、霊媒の拠り所としていたが、『朔』は白い光を拠り所とするのか。

 上島は自分の力でありながら、その凄まじさにまじまじと目を見張った。

 雪のような光は、影たちを飲み込んだあとは、きらきらと反射して地面に落ちていく。
 その様子は、打ち上げられた後の花火を連想させた。

 しかし、まだ全ての幽鬼を成仏させたわけではない。木の影から、人間が二人、姿を表した。

 印を組もうとして、上島ははっと顔を上げる。今までのシルエットのような幽鬼ではない。

 はっきりと形を持った、普通の人間と何ら違うところのない、幽鬼が居た。
 居るのは、若い女性。ウエーブのかかった髪の毛に、優しげな眼差し。白い肌。薄く色づく唇は、笑みの形を作っている。どこか、郁子に似ていた。

「これが――――幽鬼……?」

 何かが違う、と上島は感じた。第三段階の幽鬼が持つ、禍々しさは露ほども感じられない。むしろ、第一段階の幽鬼のように、純粋な魂の清廉さが漂っている。

 もう一人の幽鬼は、男性だった。中年の少し手前ほどの年齢だろう。生前の記憶が強いのか、スーツ姿だ。優しげに細められた目元は、彼の人となりの良さを感じさせる。

「貴方たちは一体……?」

 上島は呆然と呼びかけた。特に、女性の方が気になった。郁子に似ているところも気になるし、何か、自分に近いものを感じるのだ。

 女性は上島に向かって踏み出した。半ば惚けたように、上島はそれを見つめるだけだ。彼女は慈しむような表情で、微笑んでいる。上島は不意に懐かしさを感じた。

 彼女は上島の両手を包み込んだ。

(ありがとう。やっと、出られた)

 頭の中に響く声。上島は必死で思い出そうとしていた。

「貴方は……」

 女性は全て分かっているというふうに微笑むと、上島の頭に優しく手を置いた。

(ありがとう、勇朔)

「貴方は……」

 上島は、まさかと思う。まさか――――まさか。貴方は。

(ありがとう)

 女性は、上島を包み込むように抱きしめると、光の粒子のように、その場からかき消えた。

「お……!」
 呼ぼうとしたときは既に遅かった。光の残滓が、金の粉のように降り注ぐ。やはりあの人はそう、、だったのだ。

「そうか……」
 そうか、と何度も繰り返すと、頬に一筋の涙が流れた。記憶をなくしてから、泣いたことはなかった。泣くものか、と思っていたし、失ったものが分からないのに、涙は出なかった。今やっと、失くしたものが分かったのだ。

 ――俺は、あの人を失くしたのか。

 それは耐え難いことのようにも思われたが、しんみりと納得したことも確かだった。失くしたものは大きかった。記憶のないときに比べれば、今は失ったものの尊さが分かる。

 もう一人の男性はどうしたかと辺りを見回してみると、その男性の姿は既になかった。人の良さそうな、柔和な表情の男性だった。何故、この場に姿を現したのだろう。上島は、あの男性をどこかで見たことがあると感じていた。

 ――それは、どこだったか。わざわざ姿を現してくれたのだ。自分に深い繋がりがあるに違いない。
 上島は立ち上がった。

 最後の戦いをしなくてはならない。

「さあ、始めるとするか…!」

 目の前に聳え立つ巨大な桜を、傲然と見上げる。

 上島は、空中で大きく印を組んだ。

 己が動く度に、見える、光の軌跡。

 それはさながら、幼い頃、花火で空中に大きく円を描いて遊んだ、あの軌跡に似ていた。遠目には、その姿は演舞のように見えた。

オン―――!!」

 揺らめく、空気。舞い散る、桜。爆ぜる。遊ぶ。踊る。歌う。舞うのは桜か己自身か。陣を描き終えると、上島は、手を元の形に組み合わせた。これで、印が完成する。

「――オン バザラ タラマ キリク」
 どおん、と地面が揺れた。ここが、地震の震源地になってしまったかと思うほどだ。ばさばさと、支えきれぬとされた桜が散っていく。落ちていく。

 しょう  めつ    じょう―――不 増 不 減  是 故 空 中 無 色 無 受 想 行 識―――――― !」

 息がひゅっと漏れる。既に相当の、倒れてもおかしくないほどの体力を使っている。汗がこめかみを流れた。

オン―――!!」

 その瞬間、桜が弾けた。白い光が中心に集まって、桜を瓦解させる。三百年の歴史を持つ、巨大な桜は、その身を散らせた。長い長い歴史の中で、何十、何百という、人の生き血を吸ってきた、人喰い桜が。

 白い花火だった。拡散して流れ星のように降り注ぐ光は、上島を横切っていく。

 上島は、ぼんやりとその様子を見ていた。身体の中のエネルギーが空っぽになってしまい、身動きも取れない。

 ただ、荒くつく息だけが、耳にこだまする。じっとりと身体が汗ばんでいるのを感じる。

 『朔』の今でさえ、これだけ消耗するのだ。サンユエだったとき、道理で歯が立たなかったはずだ。

 上島は瞳を閉じた。その上を、しずしずと汗が伝う。

「終わった……」
 最後の一筋の、白い光が消えた。辺りは、元のように、静まり返っている。

 今、上島が死闘を繰り広げていたと言っても、誰も信じてくれないだろう。しかし確かに、この手で、幽鬼を霊媒した。あの白い光は、浄化の光だったのだ、と今になって気付く。

 空を見上げると、まさに満天の星空が、地球を見下ろしていた。月は出ていないものの、星のおかげで非常に明るい。

 桜の花びらは、はらはらと散っていた。木に損傷はない。霊媒する前は、浄化すると桜自体もなくなってしまうのかと思っていたが、あくまで魂を祓うものらしい。

 巨大な桜の木は、いつもと同じように泰然と佇んでいた。だが今まで感じていた、不吉な忌まわしい印象はない。

 上島は、桜の木の根元に座り込んだ。もう足が萎えて立っていられない。腕も足も、鉛が詰まっているような錯覚を覚える。重い腕を何とか持ち上げて、空を仰いだ。

 冷えた空気に、星空が嘘のように美しい。三等星でさえもしっかりと光っている。光の川だった。上島が霊媒した後の桜の魂が、星となって空に昇ったかのようだ。

 深く呼吸をして、息を整える。こんな満開の桜の下で、星空を眺めていることが、不思議に思えてくる。上島は、小袖の懐からハイライトを取り出した。

 病院に、華山家にと、ちっとも煙草をゆっくり吸える場所がなかったので、こうして煙草を呑むのは久々に感じる。深く息を吸って、満天の星空へと、紫煙を吐き出した。この煙が空に昇って、雲になるのかもしれない、とそんな馬鹿なことを考えていた。

 桜の花に、薄紫色の煙が流れていく。何とも贅沢な景観だった。煙草を吸ううちに、どうにも気だるくなり、太い木の幹に身体を預けた。幹のごつごつした感触を後頭部に感じながら、上島は思いを馳せる。

 上島の前に姿を現したあの女性は――――。

 彼女が何者なのか、上島は充分に分かっていた。
「思い出したよ……」

 宙に向かって呟いた。それは安堵から来る独白だった。何だか、生まれて初めて、こんなに安心出来たような気がする。

 満ち足りた気分だった。
 上島の、煙草を吸っていた手が、地面にことりと落ちる。煙草はその反動で、火が消え地面に転がった。
 
 ――――眠いんだ。寝かせてくれ――――

 仕事は全て終わった。上島は、桜に身体を凭せ掛けたまま、重い瞼が圧し掛かってくるに任せた。幸せだった。朔になって、いや、朔に戻れて良かった。そうでなければ、この桜の木を霊媒することも出来なかった。

 ――――昔を、思い出すことも出来なかった。

 朔の寿命は短い。それは充分に承知している。しかし、空洞のまま生きる長い人生よりも、満ち足りた時間が欲しかったのだと、上島は漸く分かった。

 今は、ただゆっくりと眠りたかった。求めていたものが手に入った。その喜びを噛締めながら、眠りに落ちたい。

『勇朔は、またそんなところで寝て。風邪を引くだろう?』
 苦笑いする神楽が目に見えるようだ。

「そうだな……」

 想像の中の神楽は、ゆらりと歪んで消えた。でも、このまま目覚めなくてもいい。

 朔の命が短いというならば、このまま眠れば、朝は来ないのだろう。それはひどく楽なことのように思えた。

 眠るように死ねたなら、それはきっと幸せな死に方なのだろう。

 満開の桜の下で屍になれたならば、桜の一部になれたならば――それは、上島には幸せなことのように思われた。
 そうだとすれば、あの人、、、はきっと幸せだったのだろう。

「お母さん……」
 上島は、既に意識をなくしたうわ言で、その名を呼んだ。

「仕方がないなぁ」

 神楽は、桜の下で寝入っている上島を見下ろした。上島は完璧にぐっすり眠っていて、小突いても起きそうにない。溜め息の混じった吐息をついて、神楽は桜を見上げた。そこは満開の咲き誇る桜が、時は来たとばかりに、花びらを雨のように降らせていた。

「これが……人喰い桜か」
 妙な感慨を持って、巨大な木を見つめる。桜の木は物言わぬまま、どこか寂しげに、聳え立っていた。
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