冷たい桜

shio

文字の大きさ
16 / 18
第五章

三、事件の真相3

しおりを挟む
「小笠原香乃さんが……。そうだったのか……」

 神楽と、久しぶりに外に出て、喫茶店に入った。お洒落なカフェだった。

 モノクロを基調とした内装で、中には観葉植物や、アメリカのセピア色のポスターなどがある。外装は赤茶の煉瓦で、全体に大人びた雰囲気のカフェだった。

 カフェの名は『カサブランカ』。


 雑誌などには一切載せていないにも関わらず、口コミで繁盛している。神楽が、患者から紹介してもらった店だという。平日なので、普段は込んでいそうなところだったが、どこかひっそりとしている。

「ああ、俺も、まさかと思ったが……。決定的なのは、桜の木から現れた霊たちの中に、昭雄さんが居たことだ。あの木で首を吊らなければ、桜の木から霊が現れることはありえない。昭雄さんの死因が癌と聞いていたから、おかしいと思ったんだ」

 コーヒーが運ばれてきた。この店の一番のお勧めは、コーヒーだ。どこから輸入した豆を使っているのか、すこぶる美味しい。味は、苦味も酸味も少なめなのに、こくのある味だ。何杯でも飲みたくなる。

 看板娘であるウエィトレスが去ると、会話を再開した。

「しかし……気の毒だね。夫が亡くなったことを、何年も立っているのに、受け入れられないなんて……」
「まあな……。俺なんかにしちゃ、羨ましいけどな」

「勇朔……」
「何だよ」

「結婚したいのかい?」

 勇朔は言葉に窮した。

「何でそうなる」
「違うのかい?」
「全然違う」

 神楽は、秀才で、頭がキレるくせに、どこか抜けている。

「何だ、勇朔が結婚したいのなら、僕の広いコネクションを使って、お嫁さん探しをしようと思ったのに」
 悪気なくにこにこと言う神楽に、上島は頭を抱えた。

「自分の心配をしろよ。お前は、俺の親戚の伯母さんか」
「まあ、でもそういうわけだ。一件落着したってことだな」

 しかし、神楽はふと不安そうな表情を見せた。

「でも、君の記憶は……。そして、『朔』の属性は……」

「霊媒師は、続けようと思ってる。やめて何が残るような俺でもないしな。前より強い力が宿ったんだから、霊媒は楽だろうな」

 それは事実だった。今や、上島は霊媒師の頂点の能力を持つ。

「勇朔、君の記憶は、戻ったのかい?」

 神楽が不安を吹っ切ろうとするように、微笑んだ。

 しかし、上島は淡く微笑むだけで、答えようとはしなかった。

 蓮北小学校は、静かだった。あんな事件があった後だ。休みの日ということもあって、わざわざ学校に来る者はいないのだろう。

 学校側の指示で、校庭で遊ばないように言われているのかもしれない。

 上島は、ラストスパートと言わんばかりに降り注ぐ桜を見つめた。この桜が、三百年ものあいだ、人々を狂わせてきたのだ。そう思うと、ぞっとするような、それでもまだ不思議な気もした。


「こんなところで、何してるの? ゆうちゃん」
「郁子さん」

 突然声をかけられて振り返ると、郁子が立っていた。

 今日は春らしい、桜色のワンピースだった。お揃いのカーディガンも着ている。色も上品で、大人の女性が着てもよく似合った。しかし、いつもの郁子の趣味ではない。

「今日は、いつもとイメージが違いますね。イメチェンですか」
 上島が言うと、郁子は肩をすくめて笑う。

「いいでしょう、これ。私の趣味ではないけれど、センスは良いわ」
 大事そうに、そのワンピースを撫でた。どうやら大切なものらしい。

「この間の事件、どうだった?」
「ええ。何とか解決に導けました。霊媒に失敗したときは、死ぬかと思いましたけど」
 郁子は視線を落とした。何かを案じているような表情だ。

「この桜の木で、どれだけの人が命を落としたか……。私も、この木のおかげで、たくさんのものを失ったわ」

 郁子は、手で、太い幹に触れる。

 不意に上島が言った。

「それは、俺のことも含めてですか? 姉さん、、、

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【短編】記憶を失っていても

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
 7年以上前の記憶のない平民出身のラチェルは、6年前に娘のハリエットを生んでからグリオス国のアンギュロスの森付近の修道院で働きながら暮らしていた。  そんなある日ハリエットは見たことのない白銀色の大樹を見つけたと、母ラチェルに話すのだが……。  これは記憶の全てを失ったラチェル──シェシュティナが全てを取り戻すまでのお話。 ※氷雨そら先生、キムラましゅろう先生のシークレットベビー企画開催作品です( ´艸`)

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。

『まて』をやめました【完結】

かみい
恋愛
私、クラウディアという名前らしい。 朧気にある記憶は、ニホンジンという意識だけ。でも名前もな~んにも憶えていない。でもここはニホンじゃないよね。記憶がない私に周りは優しく、なくなった記憶なら新しく作ればいい。なんてポジティブな家族。そ~ねそ~よねと過ごしているうちに見たクラウディアが以前に付けていた日記。 時代錯誤な傲慢な婚約者に我慢ばかりを強いられていた生活。え~っ、そんな最低男のどこがよかったの?顔?顔なの? 超絶美形婚約者からの『まて』はもう嫌! 恋心も忘れてしまった私は、新しい人生を歩みます。 貴方以上の美人と出会って、私の今、充実、幸せです。 だから、もう縋って来ないでね。 本編、番外編含め完結しました。ありがとうございます ※小説になろうさんにも、別名で載せています

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

処理中です...