19 / 143
日常
ガレンの問いかけ
しおりを挟む
「ふふーん」
鏡に映る自分を見ながらついつい慣れない鼻歌が漏れてしまう。
首にはアルドリックからもらったネックレス。
左耳にはニーナと分け合ったイヤリング。
右腕にはナタリーと分け合ったブレスレット。
それぞれが美しく輝き、元々綺麗なレヴィアナの容姿と相まって、昨日よりも少しだけ華やかになった自分の姿に心が躍る。
―――コンコン
「はーい、今行きますわ!」
余裕をもって準備を終えたはずだったが、随分と鏡の前で1人盛り上がってしまったようだ。
慌ててカバンを持って扉を開けるとニーナ、ナタリー、そしてアリシアがいつもの笑顔で立っていた。
「お待たせしましたわ!」
教室に一番近い部屋の私がこうして最後に合流することになる。
短い距離だけど、こうして4人そろって教室に通学するのは、なんだか昔本で見た学生のようで心が弾む。
「レヴィアナさんもとっても似合ってますねー!」
アリシアが私のイヤリングを見ながらそう言ってくれる。多分ここに来る間にもニーナとナタリーと盛り上がりながら来たんだろう。
「アリシアも今度一緒にお買い物行きましょ?わたくしアリシアともおそろいのアクセサリーとか欲しいですわ」
「ぜひお願いします!」
「あ、そうだ。まずはこれですわね」
カバンから昨日購入したお揃いの柄のハンカチを4枚取り出す。3人にそれぞれ渡して、全員の手に同じハンカチが行き渡った。
「生徒会の仲良し女子結成記念のハンカチですわ」
「わぁ!嬉しい!」
「改めてみんなでこうして持つとなんだか照れますね」
アリシアは大事そうにそのハンカチを胸に当て、ニーナとナタリーも嬉しそうに顔をほころばせる。
こうして私たち4人は、朝から幸せな気持ちを分け合いながら、教室へと向かっていった。
***
(へぇ……こんな考え方もあるんだ……)
正直座学の時間は退屈だと思っていたけど、新しい発見がたくさんあった。
「であるからして、死は自然なサイクルの一部として捉えられておるのじゃ。それは、新しい命が誕生し、成長し、そして再び土に還るという過程を通じて……」
カスパー先生が話しながらも空間には様々な文字が踊りまわる。先生の話に合わせて文字がつながって、図が生み出されて、高い天井と大きな窓の教の自然光と織り交ざり実に幻想的な風景だった。
「じゃから人々は、亡くなることで魂が新たな形で生まれ変わり、それは永遠の繰り返しの中で成長し続けることができるのじゃ。ただし自ら命を絶ってはならぬ。その永遠の成長の機会が途切れてしまうからの」
―――きーんこーん―――きーん―――こーん……
セレスティアル・アカデミー中央にある時計塔の金が重厚な音を響かせる。
「む、そろそろ時間じゃな。では本日の授業はここまでとしようかのう」
そういうと、空中に浮かんでいた文字たちはすっと消えていき、同時に教室の明かりも元に戻った。
「相変わらずその何か書くの好きだよなー」
授業が終わるとイグニスがやってくる。
「あら、うるさかったかしら?」
「いや、別にそんなんじゃねーけどよ。そんなことしなくても魔法で文字は書けるし、内容も教材を見ればいいじゃねーか」
イグニスはそう言うと、机に広げていた本をパラパラとめくる。
「まったくイグニスは何もわかっていませんのね。それは文字の情報だけ、カスパー先生がどこを重要としていたか、言葉を話すリズムや視線などからわたくしたちはいろいろな情報を学んでいくんですわ」
「だったら魔法で文字をかいた方が速いし大量に書けるしよくねーか?」
「違いますわ。全部書けないからこそ重要なところだけ書けていいんですわよ」
これは単にイグニスに対しての売り言葉に買い言葉といった感じだ。私自身あれから魔法での文字の転写を練習してみたもののどうにもしっくりこなかった。買い言葉ついでに意地悪もしてやろっと。
「それに、そんなこと言っているから初日の試験でわたくしに負けたんではなくて?」
もとはと言えばレヴィアナの知識ではあるのだが、こうしてイグニスをからかうのは面白かった。ぐうの音も出ないようで、イグニスはうつむき加減で唸っている。
「……っったく、わかったよ!それ……どこで売ってるんだよ」
「それ……とは?」
「だからそのノートとペンだよ!この天才の俺様がいつまでもお前に負けてていいはずがないからな!」
こうしてイグニスの事をからかうのもだいぶ日常になってきた。
「わたくしのものをあげますわよ。まだたくさん持ってきていますから」
そう言って、新しいノートとペンをカバンから取り出しイグニスに差し出す。シルフィード広場の雑貨屋さんに行けば購入できるのは少しの間内緒にしておこう。
「にしてもよー……俺様が天才なのは言うまでもないけどよ、ガレンと言いお前と言い、こういう好奇心ってやつ強いよなー」
渡してあげたノートに早速自分の名前を苦戦しながら書いているイグニスが何ともなく口を開く。
「俺様達がフローラさんに魔法の訓練受けてる間も、お前ら二人ずーっと古文書読んだりしてたもんなぁ」
そっか、私たちがもっと小さなときの話か。私とガレンがどんな本を読んでいたか分からないけど、でも……。
「えぇ、そうですわね。好奇心がなくなった世界、未知がなくなった世界は地獄ですわよ?」
ノートに必死の形相で悪戦苦闘しているイグニスに向かって私は小さく微笑んだ。
「お、何珍しい事やってんな」
そう言いながらがガレンがこっちにやってきて、イグニスの手元をのぞき込む。
「あらガレン、どうかしました?」
「いや、別に用はないんだけどさ」
そう言うガレンだが、こんなに下手な嘘もなかなか無いだろう。イグニスのノートに視線を落としたり、イグニスと私を交互に見たりとせわしない。
「あれ?皆さん次の授業行かないですか?」
ミーナがとことことやってきて、不思議そうにこちらを見ている。ガレンはミーナを少しの間見つめて、何かを決心したのか口を開いた。
「……ちょっと聞きたいことがあってさ。折角だしミーナもちょっといい?」
いつの間にか教室の中には私たち4人だけになっていた。
「俺、最近よく考えるんだよ」
ガレンは少しだけ言いにくそうに口を開いた。
「さっきの授業でカスパー先生が言ってただろ?自ら進んで死ぬな。でも何か良きことをして死んだら魂が成長できるって」
「それがどうしたんだよ」
「でも例えばさ、その良き死ってやつと自ら死ぬことの違いって何だろうなぁって」
ガレンは真剣なまなざしで私達に問う。でも、少なくとも私はガレンの言いたいことがいまいちつかめずに次の言葉を待った。
「例えばさ?俺がここで自殺をしたとする。それは良いことか?悪い事か?」
「悪い事」「悪い事」「悪い事です」
3人の声が重なった。
「そうだよな?俺もそう思う」
ガレンは、うんうんと頷く。しかし、それだけでガレンの問いかけは終わらないようだった。多分自分でもまだ整理できていないことなのか、少しの逡巡があってからガレンは続けた。
「でも。もし俺が何かの病気にかかって、2日後に絶対死ぬとするだろ?絶対に治らない。2日間は生きていられるけどとてつもなく苦しい……そんな時、もし自分から死ぬのって、それって悪い事なのかな?」
「ガレンさん病気なんですか!?」
ミーナが慌てたように声を上げる。
「悪い悪い。あくまで仮定の話。俺は至って健康だよ」
「ふー、良かったですー」
私はガレンの問いに即答できなかった。イグニスも何かを考えているようで否定も肯定の返事もしなかった。
でも仮定という割に、ガレンはまじめな表情を崩さず続ける。いや、これはまじめというか…――――。
「もし、例えば、場合によって、そんな仮定の話だよ。もし絶対に避けることができない死が待っていて、その死までずっと苦しみ続けなければならないとしたら、みんなはどうする?そんな状態でも自らの生をあきらめることは悪い事なのかな?」
答えられずにいる私たちにかまわず、彼はさらに問いを続ける。
まるで、誰かに言わされているかのように。
まるで、何かに突き動かされるように。
まるで、何か既に自分の中に答えがあるかのように。
まるで、自分の中に浮かんだ言葉をそのまま吐き出すように。
まるで、自分自身に言い聞かせるように。
そして、どこか救いを求めるように……。
「仮定の続き。2人はさ、そんな最高の、最善の、そして最良の毒って何だと思う?」
「え……?」
突然の問だった。そもそも仮定にしても生物を殺すためのものが毒だ。そんなものに最善とか最良なんて言葉は似合わない。
「けっ!相変わらずこういった問いかけ好きだな。ガレンっぽいと言えばガレンっぽいけどよ。ミーナ、ガレンのこれ、たまにある発作みたいなもんだから気にすんなよ」
少し暗くなりかけた空気をイグニスはそう一蹴する。
「これでも俺は結構まじめに考えてるんだけどな」
「大体まず前提がおかしいだろ。まず生きること、それが前提だっつーの。もし今ガレンが言うような毒を俺様が飲んで、2日後に死ぬことが決まるとする」
そんな風にして何かを飲むような手振りをするイグニス。
「でもよ、解決方法がないのは今この瞬間だけだろ?俺様がそんな状態になったらお前もレヴィアナもミーナも、マリウス…はまぁどっちでもいいけど、先生たちも、みんなで協力したら明日には解毒する方法が見つかってるかもしれねーじゃねーか」
そう言いながらイグニスはガレンの問いを鼻で笑い飛ばす。
「だから生きるのが前提だろ。どんなに苦しくても、辛くても、しんどくても、痛くても、悲しくて悔しくても、俺様たちは生きていかなきゃいけねぇんだよ」
「ははっ。なるほど」
ガレンはそんなイグニスを見て小さく笑った。
「ミーナも頑張って解決方法を探すですよ!」
ミーナはガッツポーズをしながらそう答える。
「そうだな、ありがとう」
そんな三人を見ていたら私もつられて笑っていた。でも、私の中にはさっきの最高の、最善の、そして最良の毒というのが引っかかったままだった。
そして、私には思い当たる方法が2つある。
(与えるか……奪うか……)
ガレンがさしているのが私にはどちらかの判断はつかなかったものの、それでも確信に近い答えが浮かんでいた。
心の中に浮かんだ答えを口に出そうか出すまいか迷っていると「あ!みなさん!探しましたよ!早く行きましょ!」とナタリーが教室に飛び込んできて、この不思議な時間は中断された。
「なんの話をしてたんですか?」
「ん?そうだな……」
「ガレンさんの難しい話でした!今度はナタリーも一緒にお話ししましょう!ね、レヴィアナさん!」
「えぇ、そうですわね」
私はさっきの問いの答えを明らかにしないまま、みんなと一緒になって笑って訓練場に向かった。
鏡に映る自分を見ながらついつい慣れない鼻歌が漏れてしまう。
首にはアルドリックからもらったネックレス。
左耳にはニーナと分け合ったイヤリング。
右腕にはナタリーと分け合ったブレスレット。
それぞれが美しく輝き、元々綺麗なレヴィアナの容姿と相まって、昨日よりも少しだけ華やかになった自分の姿に心が躍る。
―――コンコン
「はーい、今行きますわ!」
余裕をもって準備を終えたはずだったが、随分と鏡の前で1人盛り上がってしまったようだ。
慌ててカバンを持って扉を開けるとニーナ、ナタリー、そしてアリシアがいつもの笑顔で立っていた。
「お待たせしましたわ!」
教室に一番近い部屋の私がこうして最後に合流することになる。
短い距離だけど、こうして4人そろって教室に通学するのは、なんだか昔本で見た学生のようで心が弾む。
「レヴィアナさんもとっても似合ってますねー!」
アリシアが私のイヤリングを見ながらそう言ってくれる。多分ここに来る間にもニーナとナタリーと盛り上がりながら来たんだろう。
「アリシアも今度一緒にお買い物行きましょ?わたくしアリシアともおそろいのアクセサリーとか欲しいですわ」
「ぜひお願いします!」
「あ、そうだ。まずはこれですわね」
カバンから昨日購入したお揃いの柄のハンカチを4枚取り出す。3人にそれぞれ渡して、全員の手に同じハンカチが行き渡った。
「生徒会の仲良し女子結成記念のハンカチですわ」
「わぁ!嬉しい!」
「改めてみんなでこうして持つとなんだか照れますね」
アリシアは大事そうにそのハンカチを胸に当て、ニーナとナタリーも嬉しそうに顔をほころばせる。
こうして私たち4人は、朝から幸せな気持ちを分け合いながら、教室へと向かっていった。
***
(へぇ……こんな考え方もあるんだ……)
正直座学の時間は退屈だと思っていたけど、新しい発見がたくさんあった。
「であるからして、死は自然なサイクルの一部として捉えられておるのじゃ。それは、新しい命が誕生し、成長し、そして再び土に還るという過程を通じて……」
カスパー先生が話しながらも空間には様々な文字が踊りまわる。先生の話に合わせて文字がつながって、図が生み出されて、高い天井と大きな窓の教の自然光と織り交ざり実に幻想的な風景だった。
「じゃから人々は、亡くなることで魂が新たな形で生まれ変わり、それは永遠の繰り返しの中で成長し続けることができるのじゃ。ただし自ら命を絶ってはならぬ。その永遠の成長の機会が途切れてしまうからの」
―――きーんこーん―――きーん―――こーん……
セレスティアル・アカデミー中央にある時計塔の金が重厚な音を響かせる。
「む、そろそろ時間じゃな。では本日の授業はここまでとしようかのう」
そういうと、空中に浮かんでいた文字たちはすっと消えていき、同時に教室の明かりも元に戻った。
「相変わらずその何か書くの好きだよなー」
授業が終わるとイグニスがやってくる。
「あら、うるさかったかしら?」
「いや、別にそんなんじゃねーけどよ。そんなことしなくても魔法で文字は書けるし、内容も教材を見ればいいじゃねーか」
イグニスはそう言うと、机に広げていた本をパラパラとめくる。
「まったくイグニスは何もわかっていませんのね。それは文字の情報だけ、カスパー先生がどこを重要としていたか、言葉を話すリズムや視線などからわたくしたちはいろいろな情報を学んでいくんですわ」
「だったら魔法で文字をかいた方が速いし大量に書けるしよくねーか?」
「違いますわ。全部書けないからこそ重要なところだけ書けていいんですわよ」
これは単にイグニスに対しての売り言葉に買い言葉といった感じだ。私自身あれから魔法での文字の転写を練習してみたもののどうにもしっくりこなかった。買い言葉ついでに意地悪もしてやろっと。
「それに、そんなこと言っているから初日の試験でわたくしに負けたんではなくて?」
もとはと言えばレヴィアナの知識ではあるのだが、こうしてイグニスをからかうのは面白かった。ぐうの音も出ないようで、イグニスはうつむき加減で唸っている。
「……っったく、わかったよ!それ……どこで売ってるんだよ」
「それ……とは?」
「だからそのノートとペンだよ!この天才の俺様がいつまでもお前に負けてていいはずがないからな!」
こうしてイグニスの事をからかうのもだいぶ日常になってきた。
「わたくしのものをあげますわよ。まだたくさん持ってきていますから」
そう言って、新しいノートとペンをカバンから取り出しイグニスに差し出す。シルフィード広場の雑貨屋さんに行けば購入できるのは少しの間内緒にしておこう。
「にしてもよー……俺様が天才なのは言うまでもないけどよ、ガレンと言いお前と言い、こういう好奇心ってやつ強いよなー」
渡してあげたノートに早速自分の名前を苦戦しながら書いているイグニスが何ともなく口を開く。
「俺様達がフローラさんに魔法の訓練受けてる間も、お前ら二人ずーっと古文書読んだりしてたもんなぁ」
そっか、私たちがもっと小さなときの話か。私とガレンがどんな本を読んでいたか分からないけど、でも……。
「えぇ、そうですわね。好奇心がなくなった世界、未知がなくなった世界は地獄ですわよ?」
ノートに必死の形相で悪戦苦闘しているイグニスに向かって私は小さく微笑んだ。
「お、何珍しい事やってんな」
そう言いながらがガレンがこっちにやってきて、イグニスの手元をのぞき込む。
「あらガレン、どうかしました?」
「いや、別に用はないんだけどさ」
そう言うガレンだが、こんなに下手な嘘もなかなか無いだろう。イグニスのノートに視線を落としたり、イグニスと私を交互に見たりとせわしない。
「あれ?皆さん次の授業行かないですか?」
ミーナがとことことやってきて、不思議そうにこちらを見ている。ガレンはミーナを少しの間見つめて、何かを決心したのか口を開いた。
「……ちょっと聞きたいことがあってさ。折角だしミーナもちょっといい?」
いつの間にか教室の中には私たち4人だけになっていた。
「俺、最近よく考えるんだよ」
ガレンは少しだけ言いにくそうに口を開いた。
「さっきの授業でカスパー先生が言ってただろ?自ら進んで死ぬな。でも何か良きことをして死んだら魂が成長できるって」
「それがどうしたんだよ」
「でも例えばさ、その良き死ってやつと自ら死ぬことの違いって何だろうなぁって」
ガレンは真剣なまなざしで私達に問う。でも、少なくとも私はガレンの言いたいことがいまいちつかめずに次の言葉を待った。
「例えばさ?俺がここで自殺をしたとする。それは良いことか?悪い事か?」
「悪い事」「悪い事」「悪い事です」
3人の声が重なった。
「そうだよな?俺もそう思う」
ガレンは、うんうんと頷く。しかし、それだけでガレンの問いかけは終わらないようだった。多分自分でもまだ整理できていないことなのか、少しの逡巡があってからガレンは続けた。
「でも。もし俺が何かの病気にかかって、2日後に絶対死ぬとするだろ?絶対に治らない。2日間は生きていられるけどとてつもなく苦しい……そんな時、もし自分から死ぬのって、それって悪い事なのかな?」
「ガレンさん病気なんですか!?」
ミーナが慌てたように声を上げる。
「悪い悪い。あくまで仮定の話。俺は至って健康だよ」
「ふー、良かったですー」
私はガレンの問いに即答できなかった。イグニスも何かを考えているようで否定も肯定の返事もしなかった。
でも仮定という割に、ガレンはまじめな表情を崩さず続ける。いや、これはまじめというか…――――。
「もし、例えば、場合によって、そんな仮定の話だよ。もし絶対に避けることができない死が待っていて、その死までずっと苦しみ続けなければならないとしたら、みんなはどうする?そんな状態でも自らの生をあきらめることは悪い事なのかな?」
答えられずにいる私たちにかまわず、彼はさらに問いを続ける。
まるで、誰かに言わされているかのように。
まるで、何かに突き動かされるように。
まるで、何か既に自分の中に答えがあるかのように。
まるで、自分の中に浮かんだ言葉をそのまま吐き出すように。
まるで、自分自身に言い聞かせるように。
そして、どこか救いを求めるように……。
「仮定の続き。2人はさ、そんな最高の、最善の、そして最良の毒って何だと思う?」
「え……?」
突然の問だった。そもそも仮定にしても生物を殺すためのものが毒だ。そんなものに最善とか最良なんて言葉は似合わない。
「けっ!相変わらずこういった問いかけ好きだな。ガレンっぽいと言えばガレンっぽいけどよ。ミーナ、ガレンのこれ、たまにある発作みたいなもんだから気にすんなよ」
少し暗くなりかけた空気をイグニスはそう一蹴する。
「これでも俺は結構まじめに考えてるんだけどな」
「大体まず前提がおかしいだろ。まず生きること、それが前提だっつーの。もし今ガレンが言うような毒を俺様が飲んで、2日後に死ぬことが決まるとする」
そんな風にして何かを飲むような手振りをするイグニス。
「でもよ、解決方法がないのは今この瞬間だけだろ?俺様がそんな状態になったらお前もレヴィアナもミーナも、マリウス…はまぁどっちでもいいけど、先生たちも、みんなで協力したら明日には解毒する方法が見つかってるかもしれねーじゃねーか」
そう言いながらイグニスはガレンの問いを鼻で笑い飛ばす。
「だから生きるのが前提だろ。どんなに苦しくても、辛くても、しんどくても、痛くても、悲しくて悔しくても、俺様たちは生きていかなきゃいけねぇんだよ」
「ははっ。なるほど」
ガレンはそんなイグニスを見て小さく笑った。
「ミーナも頑張って解決方法を探すですよ!」
ミーナはガッツポーズをしながらそう答える。
「そうだな、ありがとう」
そんな三人を見ていたら私もつられて笑っていた。でも、私の中にはさっきの最高の、最善の、そして最良の毒というのが引っかかったままだった。
そして、私には思い当たる方法が2つある。
(与えるか……奪うか……)
ガレンがさしているのが私にはどちらかの判断はつかなかったものの、それでも確信に近い答えが浮かんでいた。
心の中に浮かんだ答えを口に出そうか出すまいか迷っていると「あ!みなさん!探しましたよ!早く行きましょ!」とナタリーが教室に飛び込んできて、この不思議な時間は中断された。
「なんの話をしてたんですか?」
「ん?そうだな……」
「ガレンさんの難しい話でした!今度はナタリーも一緒にお話ししましょう!ね、レヴィアナさん!」
「えぇ、そうですわね」
私はさっきの問いの答えを明らかにしないまま、みんなと一緒になって笑って訓練場に向かった。
4
あなたにおすすめの小説
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?
ぽんぽこ狸
恋愛
仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。
彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。
その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。
混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!
原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!
ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。
完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる