悪役令嬢になった私は卒業式の先を歩きたい。――『私』が悪役令嬢になった理由――

唯野晶

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物語の終わり、創造の始まり

実紗希とアリシア_3

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魔法については現実世界での予習があったからか、それとも『アリシア』としての特性なのかごく自然とヒートスパイクを使うことができた。

街の人は私の魔法に一喜一憂してくれて、ソフィアも魔法を見ると自分の事のように喜んでくれた。

現実世界でソニカとばかり対峙していた人と違って、ここにいる人たちはちゃんと俺の事を正面から見てくれる。
大好きな世界と、大好きな街の人たち。

「マイラおばさん!こんにちは!」
「あら、今日はひとりかい?」
「うん!お母さんはおうちで休んでる!」
「おやおや。今日も持っていくかい?」

マイラおばさんからバスケットを受け取る。中にはエーテルプラムのほかにもたくさんの種類のフルーツが入っている。

「こんなにもらっていいの?」
「もちろんさ!アリシアちゃんがいてくれるおかげで最近野菜たちもよく育つよ」
「またそんな大げさな冗談言ってー」

そう言って頭をなでてくれる手は暖かくて心地いい。

「ありがと!また来るね!」

マイラおばさんと別れてからも、街の人に挨拶をして回った。
この街に俺が来た日を祝ってくれる人がいて、みんなが嬉しそうにしてくれることが嬉しかった。
アリシアとしてではなく青山実紗希としてこの世界に受け入れられたような気がした。
……そして、多分調子に乗ってしまった。

「あらあら、そんなにもらってきちゃったの?」
「えへへー」
「こんなにたくさん食べたら太っちゃうわよー」

ソフィアが困ったように笑いながらバスケットを受け取けとった。
別に悪気があったわけでも、嫌みを言われたわけでも、なんでもないただの日常会話だった。

でも、少しだけムっとした。

多分いつものように「こんなにたくさん持てて凄いわね」とか「アリシアは力持ちね」とか褒められるのを期待していたんだと思う。

「もーそんなこと言うおかーさん嫌い!どっか行っちゃえ!」

別に俺も本心で言ったわけではない。甘えもあって売り言葉に買い言葉のように返した。
でも、その言葉を言った瞬間ソフィアの表情からは笑顔が消え、「はい、わかりました」と一言つぶやいた。

「えっ……?」

またそんなこと言ってー。そんな会話を求めていたのに。
でもソフィアはそのまま俺に背中を向けて、靴も履かずに家を出て行った。呆気に取られているとそのままソフィアの姿は見えなくなった。

(あれ……?どういうこと……?)

怒らせてしまったのだろうか。だとしたらちゃんと帰ってきたときに謝らないと、と玄関でソフィアの帰りを待っていたが、日が暮れてもソフィアは帰ってこなかった。
街に行こうかも迷ったけど、連絡手段もないため入れ違いになってしまうかもしれないと思うとどうにも身動きが取れなかった。
お腹は空いたけど、食べている最中に帰ってきたらと思うと食べる気も起きなかった。

(ちゃんと……ちゃんと謝ろう)

現実世界でも謝れば経験は少ないけど、あの優しいソフィアだしそれでもしっかり頭を下げて謝れば許してくれるだろう。

(ごめんなさい、ごめんなさい……うん、大丈夫)

一人きりの家は少しだけ心細くて、世界が静かになってしまったように感じた。

―――ザッ、ザッ、ザッ

遠くからこちらに向かって歩いてくる音が聞こえてくる。
ソフィアが帰ってきたのだろう、少しだけ深呼吸をして顔を上げた。

「おかーさんおかえり!それにごめんなさい!」

玄関の扉を開けて入ってきたソフィアに向かって言った。

「ただいま」
「……えっ……?」

帰ってきたのはソフィア、だ。
でも……髪の長さも雰囲気も若干異なっていた。

「ん?どうしたんだ?っていうかこんな夜遅くまで一人で起きてちゃダメだろー」

豪快に笑いながらソフィアらしき人物は俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。

「おかーさん……?」
「お?どうした?そんな顔して……。あ、さては眠いんだろー!ほら、もう24時も過ぎてるからな!ほら、早く寝るぞー」

ソフィアはやれやれといった様子で手を腰に当ててため息をついた。

「あの……あなたは……?」
「え?」
「あなた誰ですか?」
「……おいおいアリシア、冗談きついぞー!私だよ、お前の母さんだ!」
「いや、だから……」
「ったく……。あ、もしかして帰ってくるのが遅かったから拗ねてるのか?ごめんって!ほら、アリシアの好きなエーテルプラムも買ってきてやったから許してよ!」

俺が困惑している中、ソフィアは能天気に笑って背中をバンバンとたたいてくる。
こんな人俺は知らない。でも、自分の事を母と名乗り、俺がエーテルプラムを好きということも知っていた。

「ほら、アリシアもいつまでも玄関に立ってないで早く家に入りな!」

そう言って背中を押されて無理やり家の中に押し込まれる。
でも、その押し方は今まで知っているような優しいものではなくて、少し痛かった。

***

深夜一つ仮説を立てた。そしてそれは本当に突拍子もない仮説だった。

「ほら、どうしたどうした。まだ機嫌治らないのか?」

テーブルには今までと同じ、私が大好きなオムレツが並んでいる。昨日もらってきたフルーツも一緒に食卓に並んでいる。
でも俺の向かいに座っているのはソフィアと名乗る人物だけが昨日までと明らかに違う。

「あの……今から変なこと言うんですけど……」

少し声が震える。

「おう、どうした」

正面には俺に対して純粋な好意だけを向けてくれる人がいる。
こんな人にこれから思いついた仮説を試すためにとても失礼なことをする。
一瞬だけ躊躇して、それでもやっぱり意を決して言葉にした。

「私、あなたより昨日までのおかーさんのほうが好きなので変わってくれませんか?」

我ながらとんでもないことを言っていると思う。怒られても仕方がないと思う。でも、もし仮説通りなら……。

「はい、わかりました」

そういって、正面の人、いや、人の形をした何かは立ち上がり、昨日と同じように玄関から出て行った。


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