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1page・今日のお天気は暗闇、ときどき白骨でしょう
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目を閉じてだいぶ経った気がする。
まだ目を開けてないが、なんというか硬い床でしばらく寝て起きたような、そんななんとも言えない気がする。スッキリするような、まだだるいような‥‥。
頰が当たっている床は固く、衝撃吸収と反響音吸収の為に敷いてあった板材やカーペットの硬いがふわふわしている感触はなく、昔行った鍾乳洞の鍾乳石を触っているような、冷たくつるつるしている感触がする。
「地震に火災で死んだんじゃ?」
おっと、普通に声が出るぞ。
「だれか居ますかー?」
無音。反響音も返答も聞こえない。
「よし、目を開けるぞー」
体を起こさず目だけゆっくりと開ける。
じわっと瞼の間から緑色のなにかが見えた。
「‥‥‥」
特に物音もしないので体を起こす。
頭はぶつからず、ひんやりとした空気と、ツルツルした地面の隙間から緑色の発光体が見える。
発光は弱いが、下からボウッと照らしてくれるのは正直床があると分かるだけありがたい。‥‥あるよね?
「え? 東京の地下ってこんなファンタジー?」
僕の視界に映ったのは、どこまでも続く暗闇と、ギリギリ足元を照らす緑色の光だった。
====================
暗闇でおなじみなハイハイスタイルで周囲と所持品を調べた結果、緑色の発行物は恐らく苔のような植物のようなものではないかと考察。削れるし、湿ってるし、今のところ無害だし‥‥。服は多分ブースに居た時のまま。半袖のラフなシャツに動きやすさ重視のツナギ。色や質感はよくわからないけど、多分同じ。デザイン性より動きやすさを重視したお陰で膝への負担が減っている。ナイス僕。
所持品は、後ろのポケットに刺した多機能性ボールペン1本とハンドタオルのみ。
「無理なのは知ってるけど、スマホぐらいは手元にあって欲しかった」
いつから東京のアンダーグラウンドがこんな幻想的な風景になったか知らないけど、あれかな、東京の地下に大型テーマパークでもできるのかな。
緑色に発光する苔とか、遺伝子操作かなんかで作り出した系のものなのか、苔がグラスファイバーっぽくなってて水の中に反射した光が光ってるとか‥‥だったらいいなぁ。
「ってか、広いなー」
ドラマで地下神殿みたいな放水路は見たけど、泥は積もるだろうけど発光する苔なんて生えないだろうし、 ハイハイからヨタヨタに変化した歩き方で壁にも柱にも障害物にもぶつからないとするとアーチ状のホールか何かで、よく極点で聞く方向感覚が狂って同じ場所をぐるぐる回っているんだろうか。
「流石に歩き続けて餓死はいやだ」
少しだけ明るくなっている気がするから、光源に近付いているのだと、思いたい。
「‥‥この苔っぽいの、食べれるのかな」
正直言おう。
土っぽかった。
====================
普通に歩けるようになった。
柱が何本が出てきたけど、苔の光が強くなったのか見渡せるぐらいの光量を確保できたみたいで、歩くのに問題はない。ようやく人間らしさを取り戻せた。
「柱があるからきっと進めてる‥‥よね」
柱は見えるけど壁は見えない。
東京のアンダーグラウンドでもここまでの広さはないはず。
「えー‥‥死後の世界、とか」
いやいや、なにその非現実的な妄想! ありえないでしょ。
ありえないよね?
「ッ誰かー! 誰か居ませんかー!!」
反響しない。
「‥‥」
自分の声しか聞こえない。
「確か音は340m毎秒‥‥」
少なくとも、行って帰ってくるだけの反響はするはずだから、680×2って考えても‥‥
「柱あるし少しは反響するでしょ普通‥‥」
ボコボコで硬質に見えるあの柱がそうじゃなかったら逆に怖いんだけど‥‥
「よし、避けてたけど、触ってみよう」
苔の光で下からボワっと照らされた柱は、見るからにボコボコで硬そう。
苔の光が届かない上の方は全く見えないけど、苔が密集してる根元の方は結構よく見える。
「どれどれ」
手で触ってネチョってしたらやだな。
‥‥苔投げるか。
「ほっ!」
近くの苔を爪で剥がして丸めて柱に投げつける。
恐らくは柱に当たって床にバラバラと落ち‥‥ない、ねぇ。
「柱の形も変わってる?」
苔を投げつけた僕の方に向かって柱の途中から直角に近い角度で柱が伸びている。
しかも苔が落ちてない。
「柱に苔が食われた?」
としか考えられないんだけど。
えー、ファンタジーみたいだよ?
「ここは日本、ここは東京のアンダーグラウンド!」
なんとなく怖くなって急いで離れる。
柱が動いたことも怖いけど、なんだか苔の光に照らされた表面が動いていたような、そんな気がするんだよね‥‥。
====================
かなり景色が変わった。
相変わらず反響はしないけど、壁のようなものが見える。結構遠いけど、両端にある壁が薄っすらと緑の苔に照らされているからには恐らく壁だろう。柱の本数も増えていて、洞窟のよう。
ただ一つ、納得したくない置物が。
「5体目か‥‥ファンタジックなお化け屋敷なのかなぁ」
今まで何もなかった地面に突如現れた人骨。
だいたいは柱の下の部分にどこかが埋まった状態で存在する。
ペンとタオルしか無いのは心苦しいので、さっきからお骨の近くに落ちている鞄の中身を置き引きした。置き引きか?
いや、死んでるから要らないだろうけど、置いてあるのも‥‥どうせ偽物だろうけど、やっぱり足元にものがあったら危ないし! 取得物取得物。ちゃんとお巡りさん‥‥と言うかスタッフさんに渡しますとも。
「なんか荷物のある人骨見るだけで安心するなぁ」
今まで見た人骨の所持品らしきものは持っているので、この荷物を持っている人骨とは初対面だ。
「かばんかばんーっと、あった。もうほんと追い剥ぎだよね、ごめんね、持ってくね」
なんとなく骨の凹み方とか巻き込まれ方だとか、骨を包む服っぽい布もリアルでニセモノには見えないので謝っておく。本物ではないと思うけど、精神衛生上ね。
とにかくリアルだから。これ腐ってたらアウトだった気がする。腐りきった後だからセーフ。
「んーこの鞄は無理だな。中身は金属の棒にネックレス? んーあ、これさっきもあったしお金かな?」
人骨がある場所に必ずあるのは、通常のリュックサックサイズの布袋が1つ、錆びた金属の棒っぽいものや金属片、多分人骨の腰あたりに小さめの布袋が2つ、といった感じ。
錆びた金属の棒っぽいものは破傷風とかなりたくないから触ってないけど、腰のあたりに括り付けられている布袋っぽいものは、必ず片方は空っぽで、もう片方は種のような小さめの粒が少々。本命の大きい布袋にも決まって丸っこい金属片と、装身具が入ってる。
ネックレスだったり指輪だったりの装身具は、落書き模様が書いてある劣化した布のようなバリッとしたものに包まれていて、多少の傷があれど人骨になるような経年劣化を思わせない装身具にはちょっと安心する。
他にもいろいろ入っている設定だったのかもしれないけど、稀に布や木片が入っているだけで、これだ! と言えるのはお金(かな?)のような金属片と装身具のみ。
「あ、この人も変な指輪してる」
どの人骨にも不思議な指輪があるのだ。
骨にピッタリと張り付いた指輪なんだが、コンコンと叩くと紐が緩むみたいに大きくなって骨から外れる指輪である。感触はゴムのよう。
最初はついた骨ごと持っていこうか悩んだのだが、流石に骨を持っていくのはどうかと思って外せないかなーと試行錯誤したらコンコンと叩くと外れる事に気がついた。まるで振動を与えると外れるボルトみたいに。
「とりあえず外れるもんだし、持っていきますよー」
応える臓器もない白骨は勿論動かない。
ぐにゃぐにゃになった指輪はポケットに入れて、着脱可能になっていたツナギの上をちょっとばかし加工してリュック状にしたものの中にアクセサリー類を放り込む。
加工と言っても、前のジッパーを閉めて、襟元を腕ごと2回捻ってウェスト調節用のスナップ紐を袖のスナップと絡ませてなんちゃって背負い袋完成である。重いとスナップは簡単に外れるし、不定形すぎるものは入れられないけど、少量の金属片やアクセサリーなら持ち運べる。
「さて、そろそろ出口とかつかないかなぁ」
ひたすら歩いた。
====================
頑張って白骨から色々拾ってたら、ついになんちゃって背負い袋に入らなくなった。
「なんか古くさいけど結構な量入る鞄手に入れたから良いけどさー」
鱗と毛が市松模様を描くように配置された、背嚢というより背負い袋という方が似合う鞄を見つけたのだ。
ちなみに鱗は濃い緑色で毛は薄汚れた灰色。
結構深めで外見よりものが入る。見つけた当初、中には結構原型を留めているものが多かった。いくつかの石、葉っぱのようなもの、アクセサリーを包んだまだガサガサになりきっていない布、中身は蒸発して存在していないがアンプルのような形をした薄いガラス瓶のようなもの、いつもの金属片に、シェラカップのような鍋にもマグカップとしても使えそうなものが入っていた。
とりあえず危険物を置いておくわけにはいかないから鞄の底にもともと入っていたのも埋めてある。
「んー白骨増えて来たなぁ」
出口が近いといいなぁ。
ちょっと前より狭まった壁と、白骨を下敷きにした柱、白骨の落し物、床のそこかしこに生える発光する苔。地道に落ちてるものを拾い拾い来たが量が多くなると面倒が先に来る。
「今どのくらい歩いたんだろう」
変わらない景色に数が増える白骨。
今日のお天気は暗闇、ときどき白骨でしょうってか? いや、どんどん白骨でしょうが正しいかも。
「‥‥‥」
「ん?」
何かの音が聞こえた。
「‥‥ーー」
もしや出口!
やっとこのよくわからないアトラクションが終わる!!
「でもやっぱり、拾えるものは拾った方がいいよね」
出口があると分かれば安心。
ゆっくり出口に向かうとしましょ。
====================
今度はどんどん白骨の周辺物が新しくなり、白骨の横には金属の剣のようなものが垣間見えるようになった。
もしかしたら今まで破傷風にならないように避けていた錆びた金属の塊はこの剣の成れの果てという設定だったのかもしれない。すっごい凝ってる。
流石に鞄の中身を持っていくのはまだしもイミテーションを持っていくのはアトラクションの運営的にも大変だし、今まで拾ってないから持っていくのもねぇ。と言うか、毎度毎度変な布のようなものにアクセサリーが包まれたけど、もしかして肝試し的に荷物を漁って決まったものを取って来るタイプのアトラクションだったんだろうか‥‥それは悪いことしたなぁ。一度拾ってしまったからには全て拾うんですけどね。
「出口は近いはずなんだけどなぁ」
雑踏が聞こえるのだ。
人の声は少ない気がするが、さっきから人の生活音が聞こえるようになった。歩いたり駆けたりといった音。
聞こえるようになってからはほぼ白骨は見ていない。
やっぱり探し物を取って来る系アトラクションだったのかもしれない。
「おい。お前、何してる」
「え?」
当然声がして振り向くと、長髪の美人さんがいた。
「あー、落とされ物? を拾ってます」
「‥‥‥」
地面の苔発光の色しかないので定かではないが、背が高い黒い長髪に紫に見える瞳の、目鼻立ちのしっかりとした西洋風美人さん。カラコンでも入れてるのかな?
「もしかしてスタッフの方ですか? すみません、白骨さん達の荷物の中に入っていた金属片とアクセサリーを持ってきてしまったんですが不味かったですかね」
美人さんは特に何も言わない。
おーっと、ロールプレイ的に何か癪に触ることがあったのかな?
どこぞのランドみたいに社員規定が厳しいのかい?
「えーっと、僕は寺田樹です。あなたの名前は‥‥名前を伺ってもいいですか?」
「‥‥エルドワ・フリューレ」
おう、西洋人設定なのか、本物かもな。
となると逆だからフリューレが苗字だな。
「フリューレさん、できたら出口を教えて欲しいのですが、案内とかしてくれたりしません?」
「‥‥入口は知ってる」
「ああ! 出口と入口が一緒のタイプなんですね。たしかに収集型は出入口別だとイベントとしてはイマイチですもんね」
「‥‥」
服も結構凝ってる。足と顔と体を包んでいる外套しか見えないけど、足元は編み上げのブーツだし、外套は精密な刺繍が成されているし、長い髪は下ろしているが片方耳にかけられていて凝った意匠のイヤーフック的な何かがある。
堂の入った衣装設定だ。
多分外套の下もチュニックとかベストとか、白骨が着ているような時代背景にあった服装なんだろう。素晴らしい。
やっぱりコスプレとか仕事には没入感が必要だよね。
今回の仕事も、煙突掃除の師匠役が1番メインに近いキャラと絡んだからこそのこのツナギだし。
「案内、お願いします」
「‥‥分かった」
無口な、彼(?)の案内で、僕は出口へと向かうことになった。
まだ目を開けてないが、なんというか硬い床でしばらく寝て起きたような、そんななんとも言えない気がする。スッキリするような、まだだるいような‥‥。
頰が当たっている床は固く、衝撃吸収と反響音吸収の為に敷いてあった板材やカーペットの硬いがふわふわしている感触はなく、昔行った鍾乳洞の鍾乳石を触っているような、冷たくつるつるしている感触がする。
「地震に火災で死んだんじゃ?」
おっと、普通に声が出るぞ。
「だれか居ますかー?」
無音。反響音も返答も聞こえない。
「よし、目を開けるぞー」
体を起こさず目だけゆっくりと開ける。
じわっと瞼の間から緑色のなにかが見えた。
「‥‥‥」
特に物音もしないので体を起こす。
頭はぶつからず、ひんやりとした空気と、ツルツルした地面の隙間から緑色の発光体が見える。
発光は弱いが、下からボウッと照らしてくれるのは正直床があると分かるだけありがたい。‥‥あるよね?
「え? 東京の地下ってこんなファンタジー?」
僕の視界に映ったのは、どこまでも続く暗闇と、ギリギリ足元を照らす緑色の光だった。
====================
暗闇でおなじみなハイハイスタイルで周囲と所持品を調べた結果、緑色の発行物は恐らく苔のような植物のようなものではないかと考察。削れるし、湿ってるし、今のところ無害だし‥‥。服は多分ブースに居た時のまま。半袖のラフなシャツに動きやすさ重視のツナギ。色や質感はよくわからないけど、多分同じ。デザイン性より動きやすさを重視したお陰で膝への負担が減っている。ナイス僕。
所持品は、後ろのポケットに刺した多機能性ボールペン1本とハンドタオルのみ。
「無理なのは知ってるけど、スマホぐらいは手元にあって欲しかった」
いつから東京のアンダーグラウンドがこんな幻想的な風景になったか知らないけど、あれかな、東京の地下に大型テーマパークでもできるのかな。
緑色に発光する苔とか、遺伝子操作かなんかで作り出した系のものなのか、苔がグラスファイバーっぽくなってて水の中に反射した光が光ってるとか‥‥だったらいいなぁ。
「ってか、広いなー」
ドラマで地下神殿みたいな放水路は見たけど、泥は積もるだろうけど発光する苔なんて生えないだろうし、 ハイハイからヨタヨタに変化した歩き方で壁にも柱にも障害物にもぶつからないとするとアーチ状のホールか何かで、よく極点で聞く方向感覚が狂って同じ場所をぐるぐる回っているんだろうか。
「流石に歩き続けて餓死はいやだ」
少しだけ明るくなっている気がするから、光源に近付いているのだと、思いたい。
「‥‥この苔っぽいの、食べれるのかな」
正直言おう。
土っぽかった。
====================
普通に歩けるようになった。
柱が何本が出てきたけど、苔の光が強くなったのか見渡せるぐらいの光量を確保できたみたいで、歩くのに問題はない。ようやく人間らしさを取り戻せた。
「柱があるからきっと進めてる‥‥よね」
柱は見えるけど壁は見えない。
東京のアンダーグラウンドでもここまでの広さはないはず。
「えー‥‥死後の世界、とか」
いやいや、なにその非現実的な妄想! ありえないでしょ。
ありえないよね?
「ッ誰かー! 誰か居ませんかー!!」
反響しない。
「‥‥」
自分の声しか聞こえない。
「確か音は340m毎秒‥‥」
少なくとも、行って帰ってくるだけの反響はするはずだから、680×2って考えても‥‥
「柱あるし少しは反響するでしょ普通‥‥」
ボコボコで硬質に見えるあの柱がそうじゃなかったら逆に怖いんだけど‥‥
「よし、避けてたけど、触ってみよう」
苔の光で下からボワっと照らされた柱は、見るからにボコボコで硬そう。
苔の光が届かない上の方は全く見えないけど、苔が密集してる根元の方は結構よく見える。
「どれどれ」
手で触ってネチョってしたらやだな。
‥‥苔投げるか。
「ほっ!」
近くの苔を爪で剥がして丸めて柱に投げつける。
恐らくは柱に当たって床にバラバラと落ち‥‥ない、ねぇ。
「柱の形も変わってる?」
苔を投げつけた僕の方に向かって柱の途中から直角に近い角度で柱が伸びている。
しかも苔が落ちてない。
「柱に苔が食われた?」
としか考えられないんだけど。
えー、ファンタジーみたいだよ?
「ここは日本、ここは東京のアンダーグラウンド!」
なんとなく怖くなって急いで離れる。
柱が動いたことも怖いけど、なんだか苔の光に照らされた表面が動いていたような、そんな気がするんだよね‥‥。
====================
かなり景色が変わった。
相変わらず反響はしないけど、壁のようなものが見える。結構遠いけど、両端にある壁が薄っすらと緑の苔に照らされているからには恐らく壁だろう。柱の本数も増えていて、洞窟のよう。
ただ一つ、納得したくない置物が。
「5体目か‥‥ファンタジックなお化け屋敷なのかなぁ」
今まで何もなかった地面に突如現れた人骨。
だいたいは柱の下の部分にどこかが埋まった状態で存在する。
ペンとタオルしか無いのは心苦しいので、さっきからお骨の近くに落ちている鞄の中身を置き引きした。置き引きか?
いや、死んでるから要らないだろうけど、置いてあるのも‥‥どうせ偽物だろうけど、やっぱり足元にものがあったら危ないし! 取得物取得物。ちゃんとお巡りさん‥‥と言うかスタッフさんに渡しますとも。
「なんか荷物のある人骨見るだけで安心するなぁ」
今まで見た人骨の所持品らしきものは持っているので、この荷物を持っている人骨とは初対面だ。
「かばんかばんーっと、あった。もうほんと追い剥ぎだよね、ごめんね、持ってくね」
なんとなく骨の凹み方とか巻き込まれ方だとか、骨を包む服っぽい布もリアルでニセモノには見えないので謝っておく。本物ではないと思うけど、精神衛生上ね。
とにかくリアルだから。これ腐ってたらアウトだった気がする。腐りきった後だからセーフ。
「んーこの鞄は無理だな。中身は金属の棒にネックレス? んーあ、これさっきもあったしお金かな?」
人骨がある場所に必ずあるのは、通常のリュックサックサイズの布袋が1つ、錆びた金属の棒っぽいものや金属片、多分人骨の腰あたりに小さめの布袋が2つ、といった感じ。
錆びた金属の棒っぽいものは破傷風とかなりたくないから触ってないけど、腰のあたりに括り付けられている布袋っぽいものは、必ず片方は空っぽで、もう片方は種のような小さめの粒が少々。本命の大きい布袋にも決まって丸っこい金属片と、装身具が入ってる。
ネックレスだったり指輪だったりの装身具は、落書き模様が書いてある劣化した布のようなバリッとしたものに包まれていて、多少の傷があれど人骨になるような経年劣化を思わせない装身具にはちょっと安心する。
他にもいろいろ入っている設定だったのかもしれないけど、稀に布や木片が入っているだけで、これだ! と言えるのはお金(かな?)のような金属片と装身具のみ。
「あ、この人も変な指輪してる」
どの人骨にも不思議な指輪があるのだ。
骨にピッタリと張り付いた指輪なんだが、コンコンと叩くと紐が緩むみたいに大きくなって骨から外れる指輪である。感触はゴムのよう。
最初はついた骨ごと持っていこうか悩んだのだが、流石に骨を持っていくのはどうかと思って外せないかなーと試行錯誤したらコンコンと叩くと外れる事に気がついた。まるで振動を与えると外れるボルトみたいに。
「とりあえず外れるもんだし、持っていきますよー」
応える臓器もない白骨は勿論動かない。
ぐにゃぐにゃになった指輪はポケットに入れて、着脱可能になっていたツナギの上をちょっとばかし加工してリュック状にしたものの中にアクセサリー類を放り込む。
加工と言っても、前のジッパーを閉めて、襟元を腕ごと2回捻ってウェスト調節用のスナップ紐を袖のスナップと絡ませてなんちゃって背負い袋完成である。重いとスナップは簡単に外れるし、不定形すぎるものは入れられないけど、少量の金属片やアクセサリーなら持ち運べる。
「さて、そろそろ出口とかつかないかなぁ」
ひたすら歩いた。
====================
頑張って白骨から色々拾ってたら、ついになんちゃって背負い袋に入らなくなった。
「なんか古くさいけど結構な量入る鞄手に入れたから良いけどさー」
鱗と毛が市松模様を描くように配置された、背嚢というより背負い袋という方が似合う鞄を見つけたのだ。
ちなみに鱗は濃い緑色で毛は薄汚れた灰色。
結構深めで外見よりものが入る。見つけた当初、中には結構原型を留めているものが多かった。いくつかの石、葉っぱのようなもの、アクセサリーを包んだまだガサガサになりきっていない布、中身は蒸発して存在していないがアンプルのような形をした薄いガラス瓶のようなもの、いつもの金属片に、シェラカップのような鍋にもマグカップとしても使えそうなものが入っていた。
とりあえず危険物を置いておくわけにはいかないから鞄の底にもともと入っていたのも埋めてある。
「んー白骨増えて来たなぁ」
出口が近いといいなぁ。
ちょっと前より狭まった壁と、白骨を下敷きにした柱、白骨の落し物、床のそこかしこに生える発光する苔。地道に落ちてるものを拾い拾い来たが量が多くなると面倒が先に来る。
「今どのくらい歩いたんだろう」
変わらない景色に数が増える白骨。
今日のお天気は暗闇、ときどき白骨でしょうってか? いや、どんどん白骨でしょうが正しいかも。
「‥‥‥」
「ん?」
何かの音が聞こえた。
「‥‥ーー」
もしや出口!
やっとこのよくわからないアトラクションが終わる!!
「でもやっぱり、拾えるものは拾った方がいいよね」
出口があると分かれば安心。
ゆっくり出口に向かうとしましょ。
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今度はどんどん白骨の周辺物が新しくなり、白骨の横には金属の剣のようなものが垣間見えるようになった。
もしかしたら今まで破傷風にならないように避けていた錆びた金属の塊はこの剣の成れの果てという設定だったのかもしれない。すっごい凝ってる。
流石に鞄の中身を持っていくのはまだしもイミテーションを持っていくのはアトラクションの運営的にも大変だし、今まで拾ってないから持っていくのもねぇ。と言うか、毎度毎度変な布のようなものにアクセサリーが包まれたけど、もしかして肝試し的に荷物を漁って決まったものを取って来るタイプのアトラクションだったんだろうか‥‥それは悪いことしたなぁ。一度拾ってしまったからには全て拾うんですけどね。
「出口は近いはずなんだけどなぁ」
雑踏が聞こえるのだ。
人の声は少ない気がするが、さっきから人の生活音が聞こえるようになった。歩いたり駆けたりといった音。
聞こえるようになってからはほぼ白骨は見ていない。
やっぱり探し物を取って来る系アトラクションだったのかもしれない。
「おい。お前、何してる」
「え?」
当然声がして振り向くと、長髪の美人さんがいた。
「あー、落とされ物? を拾ってます」
「‥‥‥」
地面の苔発光の色しかないので定かではないが、背が高い黒い長髪に紫に見える瞳の、目鼻立ちのしっかりとした西洋風美人さん。カラコンでも入れてるのかな?
「もしかしてスタッフの方ですか? すみません、白骨さん達の荷物の中に入っていた金属片とアクセサリーを持ってきてしまったんですが不味かったですかね」
美人さんは特に何も言わない。
おーっと、ロールプレイ的に何か癪に触ることがあったのかな?
どこぞのランドみたいに社員規定が厳しいのかい?
「えーっと、僕は寺田樹です。あなたの名前は‥‥名前を伺ってもいいですか?」
「‥‥エルドワ・フリューレ」
おう、西洋人設定なのか、本物かもな。
となると逆だからフリューレが苗字だな。
「フリューレさん、できたら出口を教えて欲しいのですが、案内とかしてくれたりしません?」
「‥‥入口は知ってる」
「ああ! 出口と入口が一緒のタイプなんですね。たしかに収集型は出入口別だとイベントとしてはイマイチですもんね」
「‥‥」
服も結構凝ってる。足と顔と体を包んでいる外套しか見えないけど、足元は編み上げのブーツだし、外套は精密な刺繍が成されているし、長い髪は下ろしているが片方耳にかけられていて凝った意匠のイヤーフック的な何かがある。
堂の入った衣装設定だ。
多分外套の下もチュニックとかベストとか、白骨が着ているような時代背景にあった服装なんだろう。素晴らしい。
やっぱりコスプレとか仕事には没入感が必要だよね。
今回の仕事も、煙突掃除の師匠役が1番メインに近いキャラと絡んだからこそのこのツナギだし。
「案内、お願いします」
「‥‥分かった」
無口な、彼(?)の案内で、僕は出口へと向かうことになった。
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