もふもふ好きの騎士と毛玉

コオリ

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本編

05

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「獣の一族ではなく、獣人の一族だったということか」
「うん」

 子供は自分の正体について、拙い言葉でだが私に説明してくれた。その内容はあの手記とほとんど変わらないものだった。

 ―――しかし、この子が生まれるよりもずっと以前とはいえ、人間に乱獲され、住んでいるところを追い出されたのだというのに、人間に対して何と警戒心の薄いことだろう。

 そう気になって聞けば、《獣の人》という言葉を知ってる人間になら話してもいいと言われて育ったのだと答えた。

「僕たちを《獣の人》と呼んだのは、僕たちを逃がすために一緒に戦ってくれた人間たちだったから。その言葉を知ってる人は、今でも僕らの隣人なんだよ」

 そんな重要な呼び名だとは知らなかった。その言葉が書かれた手記が我が家の地下にあったということは、私の家はその人間たちの子孫、ということになるのかもしれない。

「でも、すごいねぇ。異界術まで使えるなんて」
「……それだが、何のことだ?」
「え?」

 子供は先ほども【異界術】と何かのことを呼んでいた。だが、そういった名称のものに心当たりはない。問い返すと子供が心底驚いた顔でこちらを見た。

「え、でもだって……さっき使ってたよね? 剣から青いのがぶわって出るやつ」
「斬撃波のことか?」
「ざんげきは? そういう名前なの? でもあれ、異界術だよね?」
「異界術。君たちはあれを異界術と呼ぶのか?」
「うん。獣人なら必ず使える術なんだけど。この世界ではないところから力を借りて使うから、異界術っていうんだ」

 この世界ではないところから力を借りる、か。
 確かにあの斬撃波を使うとき、自分の力だけでなくどこかから力を受け取っているような感覚がある。あれが異界という存在なのだとしたら、この子供が言うことは正確なのだろう。あの感覚を知っているだけに、私はすんなりとその事実を受け入れた。

「獣人は必ず使えるということは、君にも使えるのか?」
「そのはず……なんだけど。僕はまだ…………」

 どうやら使えないらしい。私の質問に、頭の上の耳がへにょりと見るからに萎れた。そのことを随分と気にしている様子だ。悪いことを聞いてしまったか。
 さっきまでは私のほうを見てキラキラと輝いていた瞳にも影が落ち、ただじっと自分の小さな手のひらを見つめている。

「どうやっても、うまく使えなくて……能力はわかってるんだけど」
「そうか」
「…………うん」

 その声はどんどん沈んでいく。耳だけでなく、ゆらゆらと楽しげに揺れていた尻尾からも、だらりと力が抜けてしまっていた。美しいもふもふなのに、勿体ない。

「焦ることはないんじゃないか?」
「え?」
「君なりの速度でいい。使うべきときが来れば、必ず使えるようになる。私はそう思う」
「ほんと?」
「あぁ。だから気を落とすな」

 ぴこり、と耳が立った。どうやら嬉しいらしい。根拠のない、そんな励ましの言葉すら、素直に受け取る様子が可愛らしい。尻尾の揺らめきも戻ったようだった。

「あ! そうだ!」
「どうした?」
「名前! 聞いてもいい?」
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