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本編
変態の騎士【side:リティス】01
しおりを挟む―――うにゃあああああ!!
走りながら、僕は混乱してた。
だって、何あれ。何なの、あれ。
意味わかんない。わかんなすぎるんだけど!
アウルムは僕と話してる最中、何度も僕の頭を撫でたそうにしてた。
そんな匂いがずっとしてた。
アウルムは自分でも気づいてないみたいだったけど、僕の耳や尻尾をずっと見てたし、その度に長い指がぴくりと動いてたから、間違いなくそうなんだと思ってたんだけど……でも、それを遠慮してるみたいだった。
んー、遠慮っていうのもなんか違うのかな。ちょっと怖がってる感じ。
僕が噛みつくとでも思ったのかな。まぁ、獣人の僕には牙だってあるし……そうなのかもしれない。
でも、やっぱり触りたそうで。
やっと、手まで伸ばしてきたから「ついに撫でてくれる?」って期待したのに、やっぱり触れる直前でその手は止まっちゃって。撫でられるのが好きな僕としては、なんで!? ってなるじゃん。やっぱ。
だから聞いたんだ。撫でてくれないの、って。
そしたら、本当にびっくりした顔してた。
触って大丈夫なのか? って心配してるみたいだから、続けて言ったけどさ。
―――触っていいよ、って。
そう、確かに言ったけどさ…………あの触り方はなくない?!
ぜっっったい、あんなのおかしい!
最初は普通に髪の毛を撫でられて、気持ちよくてふにゃあってなった。それはいつもそんな感じ。村の大人たちに撫でられてもそうなるから、一緒。
だけど、そのあと耳を触られたら―――それは僕の知ってるのと、全然違った。
体にびりびりって電気が走ったみたいになって、勝手に体がびくびくして涙が出てきた。やめてほしくて体を捩ろうとしたのに、太い腕に邪魔をされた。
動けない体じゃ、体の中を走る電気を逃がしきれなくて、また体をびくりと跳ねさせて。
―――や、ぁ、ひゃぁ……!
でも、あの声はない!
喉からひっきりなしに、自分のものとは思えない甘い声が漏れちゃって止められなかった。恥ずかしいのに、それだけとも違う何か知らない感覚にだんだん怖くなって。
怖いからやめてっていうのに、アウルムの手は全然止まらないどころか、首元のもふもふにまで触られた。
服に見えるけど、僕の体が着ているこれは服じゃない。自分の毛皮を変化させたものだ。
だから、この首のもふもふは服の装飾じゃなくて、僕の自前の毛だ。
それなのに、そこを容赦なくくすぐられて……声なんて我慢できるわけなんてないじゃん!
僕は虎の獣人なのに、小さな猫みたいに鳴かされた。
体はどこまでも熱くなって、自分じゃ制御できなくなって。
不思議な感覚に酔いしれていたら、突然、今までにないぐらいの特大の電気が体を走った。
急所でもある尻尾の根元に、アウルムの長くて太い指が触れたからだ。
―――ぁああん!! もう、やっ!!
思い出すのも恥ずかしい。一段と高い声が出て、自分でも驚いた。
驚いたのは僕だけじゃなくて、アウルムもだったらしくて。その力が緩んだ隙に腕から飛び出した。
獣人の身体能力は高い。力では勝てなかったけど、俊敏さならきっと僕のほうが上だ。
高く高く跳ね上がって、なるべく離れたところに着地して。
触れられて熱くなったところのことは考えないようにしながら、アウルムのほうを振り返った。
びっくりしたのか、大きく見開かれた目がすごい綺麗だったけど、そうじゃない。今はそれに見惚れている場合じゃない。
「この―――アウルムの変態!!」
そう叫んで、逃げた。
全力で。
そして今、というわけなんだけど、―――僕はまだ全力で走ってる。
だって、相手はあの黒雪獣を一発で仕留めた人間だよ? 油断なんてしたら、速攻で捕まっちゃうかもしれない。
別に嫌な匂いがする人間じゃなかったけど、……変態だし捕まるのは困る。
またあんなことをされたら僕は……どうなっちゃうかわかんないもん。
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