もふもふ好きの騎士と毛玉

コオリ

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本編

02

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 ―――かっこいいと思ったのにな。

 あの黒雪獣を一撃で倒すなんて、普通じゃない。
 村の戦士であれば、もしかしたらできるのかもしれないけど……僕には到底、あんな真似はできない。真の力を発揮できる、なんて言われてる獣体だって僕のはあんなだし。もふもふの毛玉だし。
 それに獣人なら必ず使えるはずの異界術だって、まだうまく使えない。
 婆ちゃんに確認してもらったから、使える術の種類までわかってるのに……確かに力はあるはずなのに、それをうまく使えたことはない。

 ―――アウルムの異界術、すごかったな。

 剣に纏わせた異界術。本人はそれが異界術だって知らなかったみたいだけど。
 その綺麗な光を思い出して、尻尾がぼふりと質量を増して震えた。
 すごく綺麗な青い光の粒。アウルムの目の色と一緒だった。目が合っただけで体が凍り付いちゃうんじゃないかって思うぐらい、澄んだ氷のような薄い青色の瞳。
 それと同じ色を纏う異界術で生み出された一撃はすごく鋭くて。それを食らった黒雪獣の断末魔は、今まで聞いたどれよりも強烈だった。

 ―――それに、アウルムも綺麗だった。

 剣士。いや、ああいう格好の人は騎士って呼ぶんだっけ。
 立派な生地でできた白い制服を身に纏って、大きな剣を腰にぶら下げてた。そんな格好の人間を見たのは初めてじゃない。たまに森の入り口あたりでも見かける。大体は化け物を退治してるところだ。
 でも、その人たちとアウルムの着ているものはちょっと違ってるような気がした。色とか装飾とか? 他の人が来てるのは薄い灰色だったのに、アウルムのは綺麗な白だったし。それに、アウルムのものの方が全体的にちょっと豪華っていうか……まぁ、よくわかんないけど。
 とにかくそれが、とてもよく似合ってた。
 背中まである長い髪は後ろで一つに纏められてて、動くたびに広い背中で狼の尻尾のようにふさりと揺れる。その髪の色は魔の森の中でもきらきらと輝くほどのまばゆい金色。
 僕の大好きな太陽の光と同じ色のそれから、僕はずっと目が離せなかった。


 ―――でも、変態だった。


 変態。変態だよ。あれは。
 どんなにかっこよくたって、強くたって、綺麗だって……あれは変態!!

「ぅ、ううー……」

 こんなに走っているのに雑念が払えない。どうにか振り払えないかと頭を左右に振ってても、ダメだ。なんか、全然ダメ。
 村の入り口が見えても、僕が速度を落とさずに駆け抜けた。
 すれ違った大人たちが驚いた顔でこちらを見ていたけど、とりあえず今は無視だ。
 自宅の扉をバタンと開いて、家に駆けこんで―――そのまま、自室のベッドに頭からもぐりこむ。

 ―――なに。これ。あつい。

 走ったから? いや、いつも走ったぐらいじゃこんな風にはならない。
 長い尻尾を股の間にくぐらせて、お腹のところでぎゅっと抱きしめる。
 いつもなら何があってもこうすれば落ち着くのに、今日は全然落ち着かない。
 触られたところの熱が引かない。

「なんなんだよぅ……」

 かっこよくて、でも変態で。
 そんな変態のくせに、強くて、綺麗で……その姿が目に焼き付いて離れない。
 ぎゅっと目を瞑っても、そんなアウルムの姿ばっかりが浮かんできて。あの触れてきた指の感触を思い出しちゃって。

「どうしちゃったの……僕」

 呟いても、誰も答えてなんかくれない。
 さらに強く尻尾をお腹に抱きしめて、僕はこの熱が冷めるのをただ待つしかできなかった。
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