8 / 28
本編
02
しおりを挟む―――かっこいいと思ったのにな。
あの黒雪獣を一撃で倒すなんて、普通じゃない。
村の戦士であれば、もしかしたらできるのかもしれないけど……僕には到底、あんな真似はできない。真の力を発揮できる、なんて言われてる獣体だって僕のはあんなだし。もふもふの毛玉だし。
それに獣人なら必ず使えるはずの異界術だって、まだうまく使えない。
婆ちゃんに確認してもらったから、使える術の種類までわかってるのに……確かに力はあるはずなのに、それをうまく使えたことはない。
―――アウルムの異界術、すごかったな。
剣に纏わせた異界術。本人はそれが異界術だって知らなかったみたいだけど。
その綺麗な光を思い出して、尻尾がぼふりと質量を増して震えた。
すごく綺麗な青い光の粒。アウルムの目の色と一緒だった。目が合っただけで体が凍り付いちゃうんじゃないかって思うぐらい、澄んだ氷のような薄い青色の瞳。
それと同じ色を纏う異界術で生み出された一撃はすごく鋭くて。それを食らった黒雪獣の断末魔は、今まで聞いたどれよりも強烈だった。
―――それに、アウルムも綺麗だった。
剣士。いや、ああいう格好の人は騎士って呼ぶんだっけ。
立派な生地でできた白い制服を身に纏って、大きな剣を腰にぶら下げてた。そんな格好の人間を見たのは初めてじゃない。たまに森の入り口あたりでも見かける。大体は化け物を退治してるところだ。
でも、その人たちとアウルムの着ているものはちょっと違ってるような気がした。色とか装飾とか? 他の人が来てるのは薄い灰色だったのに、アウルムのは綺麗な白だったし。それに、アウルムのものの方が全体的にちょっと豪華っていうか……まぁ、よくわかんないけど。
とにかくそれが、とてもよく似合ってた。
背中まである長い髪は後ろで一つに纏められてて、動くたびに広い背中で狼の尻尾のようにふさりと揺れる。その髪の色は魔の森の中でもきらきらと輝くほどのまばゆい金色。
僕の大好きな太陽の光と同じ色のそれから、僕はずっと目が離せなかった。
―――でも、変態だった。
変態。変態だよ。あれは。
どんなにかっこよくたって、強くたって、綺麗だって……あれは変態!!
「ぅ、ううー……」
こんなに走っているのに雑念が払えない。どうにか振り払えないかと頭を左右に振ってても、ダメだ。なんか、全然ダメ。
村の入り口が見えても、僕が速度を落とさずに駆け抜けた。
すれ違った大人たちが驚いた顔でこちらを見ていたけど、とりあえず今は無視だ。
自宅の扉をバタンと開いて、家に駆けこんで―――そのまま、自室のベッドに頭からもぐりこむ。
―――なに。これ。あつい。
走ったから? いや、いつも走ったぐらいじゃこんな風にはならない。
長い尻尾を股の間にくぐらせて、お腹のところでぎゅっと抱きしめる。
いつもなら何があってもこうすれば落ち着くのに、今日は全然落ち着かない。
触られたところの熱が引かない。
「なんなんだよぅ……」
かっこよくて、でも変態で。
そんな変態のくせに、強くて、綺麗で……その姿が目に焼き付いて離れない。
ぎゅっと目を瞑っても、そんなアウルムの姿ばっかりが浮かんできて。あの触れてきた指の感触を思い出しちゃって。
「どうしちゃったの……僕」
呟いても、誰も答えてなんかくれない。
さらに強く尻尾をお腹に抱きしめて、僕はこの熱が冷めるのをただ待つしかできなかった。
23
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
冷血宰相の秘密は、ただひとりの少年だけが知っている
春夜夢
BL
「――誰にも言うな。これは、お前だけが知っていればいい」
王国最年少で宰相に就任した男、ゼフィルス=ル=レイグラン。
冷血無慈悲、感情を持たない政の化け物として恐れられる彼は、
なぜか、貧民街の少年リクを城へと引き取る。
誰に対しても一切の温情を見せないその男が、
唯一リクにだけは、優しく微笑む――
その裏に隠された、王政を揺るがす“とある秘密”とは。
孤児の少年が踏み入れたのは、
権謀術数渦巻く宰相の世界と、
その胸に秘められた「決して触れてはならない過去」。
これは、孤独なふたりが出会い、
やがて世界を変えていく、
静かで、甘くて、痛いほど愛しい恋の物語。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる