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04 おれを助けてくれたのは
しおりを挟むこのプレッシャーをおれは知っていた。
少し前、同じように身体の自由を奪われたことを思い出す。
「舌を噛むなよ」
――それに……この、声。
「――ん、ぁあッ」
あと少しでその人の正体がわかりそうだったのに、思考は胸の上に置かれた手によって邪魔された。
触れた場所から何かが流れ込んで、おれの体内を駆け巡っていく。
これは――魔力?
「あ、あ……っ、嫌……ッ」
他人に魔力を流し込まれるのは初めてじゃない。
魔力の使い方は、小さい頃に親がこうやって教えるものだからだ。
でも、両親以外の魔力を身体で受けるのは初めてだった。
嫌だ。怖い。何、これ。
他人の魔力がこんなにも不快なものだったなんて。
「抵抗するな」
「……ひ、ぅ……ッや、だ……っ」
流し込まれた魔力が、身体の中にいる得体の知れない恐ろしい何かと反応していた。
魔力を食らったそれが、急速に膨れ上がっていくのを感じる。その恐ろしいものに、自分が飲み込まれてしまう――そんな本能的な恐怖がおれを襲った。
これに負けたら、自分というものを強制的に塗り替えられてしまう。
自分が、いなくなる。
「やめ……嫌だ……!!」
おれは抵抗するのに必死で、今自分に触れているのが誰かなんて考えられなくなっていた。
「飲ませた薬、ただの魔力回復薬ではないな」
「いひっ、バレちゃいましたか? この子がさっき飲んだのは人体改造薬の試作品。力が発現しなかった出来損ないを、無理やり怪人化させる薬ですよ」
「完成したとは聞いていない」
「試作品と言ったではないですか。まだ試験段階です。だから、こうして人体で実験する必要がある――まあ、これは失敗のようですが」
「――もういい。立ち去れ」
「わかりました。では」
二人が話している内容を、おれはほとんど理解できなかった。
ただわかるのは、自分の死が近いということだ。
肉体的な死か、精神的な死かはわからなかったけど、自分の終わりが近いことを不思議と自覚していた。
――おれ……また、わからないまま死ぬんだ。
どうして、そう思ったのかはわからない。
これも魂に刻まれた記憶だろうか。
――あんなに苦しくて、怖かったのに……死ぬ直前って、急に静かになるんだ。
もう、すべての感覚が遠かった。
一つだけわかるのは、まだ誰かの手が自分の胸に触れているということだけ。
――そこだけ、あったかい。
さっきは、そこから流し込まれるものが怖くて仕方なかった。
だけど、今は違う。
そこが最後の繋がりのように思える。
身体はどこも動かせなかったけど、もし動かせるなら、その手に自分からも触れてみたかった。
「――失敗ではないかもしれん」
全部の感覚が遠かったはずなのに、その声はやけにはっきり聞こえた。
「腹に力を集めろ。生き延びたければな」
――お腹に、力を……?
導く声の主は、たぶんおれに触れている人だ。
そこが胸だから、腹はその少し下。
もう自分の身体すら自覚できないおれにとって、その手が発する熱だけが頼りだった。
――っ。
意識した腹のあたりに、トクンと小さな鼓動を感じた。
それは少しずつ大きく、しっかりとした鼓動へと成長していく。その鼓動を感じる場所から、じんわりと熱が生まれて、広がっていく。
「……ん、ぅ」
「意識が戻ったか。そのまま力の流し方を覚えろ。あの薬で道はできたはずだ」
――力の流し方……? 道って?
少しずつ、意識がはっきりしてくる。
まだ身体は動かせなかったし、目も開けられなかったけど、自分の身体がどこにあるのかは自覚できるようになった。
「今ならいけるか?」
「ん……ぁ、待って。これ」
胸に触れた手から、また魔力が流れ込んでくる。
でも、その感覚はさっきと全然違った。
中にあった、得体の知れない存在がなくなっている。
流れ込んでくる魔力が、まるで自分のもののように身体の中を巡り始めた。
気持ち悪さもない。それどころか――
「や、ぁ……っん、ぁああッ」
気持ちよすぎて、おかしくなりそうだった。
自由に動かせないはずの身体が、快感に操られるみたいに反応してビクビクと震える。
高くて甘えるような声が勝手に押し出される。
「ぁッ、待って、だめ……」
気持ちよさの向こうに、何か違う感覚もあった。
それがすごくいけないもののように感じる。
「駄目ではない。解放しろ」
「ン、んん――ッ」
全く抵抗できない。
その感覚はどんどん強くなる。
「ひ、ぁ……や、やだ。なんか、出る」
「出せ」
「だめ、これ……出ちゃ、やだ」
自分の内側から何かが出そうなのがわかった。
ちょうどヘソのあたりだ。
皮膚の下がぞわぞわと蠢いている。そこを突き破って、何かが生えそうだ。
「待って、こわい……怖いから」
「仕方ない。我に掴まることを許してやる」
身体を押さえつけていたプレッシャーから解放される。まだ身体はかなり重いけど、自分の意思で動かせるようになった。
おれは何も考えずに、目の前の誰かに抱きついていた。
硬い感触だった。
鎧? 違う。これは怪人の外殻だ。
硬いのに、触れたところから相手の鼓動とほのかなあたたかさを感じる。
それが気持ちを落ち着けてくれた。
「あ、出る……ん、やァああああ――ッ!!」
ずるっ、と何かが出る。痛みはなかった。
けど、何かが出ていった衝撃のせいで全身の痙攣が止まらない。身体の力が抜き方がわからなくて、おれは目の前の誰かに、ぎゅっと力いっぱいしがみついていた。
――ん……はぁ、落ち着いてきたっぽい。
しばらくして、ようやく身体の震えが収まった。
腕の力を緩めて、密着していた身体を離す。
腫れぼったく感じる目元をぐいっと拭うと、重い瞼をこじ開けた。
自分の目に映ったものが信じれなくて、無言のまま、何度も目を瞬かせる。
「え……………首領、様? う、ぇえええッ!!?」
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