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09 父さんみたいな漢になりたい
しおりを挟む言われたとおり、着ているものを全部脱ぐ。
全部っていっても、おれが身につけているのは戦闘員タイツだけ。これを脱いだらすぐにすっぽんぽんだ。
――人払い済みとはいえ、いつもは皆が普通に働いてる場所で裸になるのって……妙な緊張感っていうか、普通に抵抗あるんだけど。
父さんの前で裸になるのもそうだ。
育ててもらったし、赤ん坊のころから裸なんて数え切れないほど見られている相手だけど、それとこれとは別だった。
おれは股間のあたりを手で隠す。
「準備できたよ」
「んじゃ、ここに座れ。オレに背中向けてな」
父さんはそう言いながら、自分の太腿をポンポンと叩いた。え、そこ?
父さんの脚の上に座るなんて何年ぶりだろう。
昔は好きだったけど、この歳になってそこに座るのはなかなか勇気がいる。しかも裸じゃん、おれ。
まごまごしているともう一度呼びつけられたので、おれは観念して父さんのほうにペタペタと近づく。
おそるおそる腰を下ろした。
「ぅわ……っ」
屈んだおれの尻に当たったのは、父さんの太腿じゃなかった。
表面が湿っていて、妙に弾力のあるこれは――
「――触腕?」
「おう。絞めたりしないから、上に乗ってみろ」
「う、うん……」
父さんは、腕よりも太くて長い八本の触腕を全部出した状態だった。
いつの間に出したんだろう。こんなにでかくて目立つものなのに、全然気づかないなんて。
触腕の一本に跨るようにして座る。
他の触腕が、おれの身体を包み込むように支えてくれた。
――そうだ。触腕って、こんな触り心地だった。
小さい頃はこの触腕にぶら下がってよく遊んだ。母さんの糸で作ったブランコの次に気に入っていた遊びだった。
でも、最近は父さんの触腕に触れる機会は全くなくなっていた。それがまさか裸で、こんなふうに上に座ることになるなんて。
――ちょっと、緊張してきたかも。
父さんの触腕は、手足の何十倍もの力が出せる。軽く振り回すだけで建物を破壊できるほど、強力な威力が出せるものだった。それに絞めつける力も強い。
たわむれでも、きゅっと絞められてしまえば、魔力強化がお粗末なおれの骨なんて簡単に折れてしまうだろう。
「バン、怖いか?」
「うう……だって触腕八本とも出てるし、魔力もこんだけ纏ってたら、父さんのだってわかってても怖いに決まってんじゃん」
正直に答えた。
言わなくても、おれの震えは伝わっていると思うし。
「父さんを信用してないってわけじゃないんだよ?」
「わかってるさ。別に申し訳なく思う必要も、恐れをなくそうとする必要もねえよ。それは戦いの場において、命を守るために大事な感覚だからな――でも、これだけは覚えておけ。オレの力は組織のものである前に、アラネアとお前を守るためのものだ。お前たち家族を傷つけることは絶対にない」
はっきりと言い切った父さんの言葉に、強張っていた身体から一気に力が抜けた。
さっきまで怖いと思っていた触腕が、急に頼もしく思えるから不思議だ。無防備な格好のおれを取り囲む八本の触腕に身体を預ける。
「――じゃ、始めるぞ」
触腕が纏う魔力の量が増えたのがわかった。
裸になったのは、この魔力の微細な動きを肌でしっかりと感じ取るためだったんだろう。
同時に触腕がぞろりと動き始める。おれの肌を優しく撫でた。
「ん……」
触れたところから魔力が流れ込んでくる感覚は、首領様に触れられたときと同じだった。ただ、あのときと違うのは、魔力の馴染みがとてもいいということだ。
血縁者の魔力はとてもよく似ている。
父さんの魔力は自分の魔力との境界線がわからないくらい自然に、おれの中を満たしていった。
――でも……それがちょっと物足りないなんて。
首領様の魔力から感じた熱と、身体を内側から侵食されるようなぞわぞわとした落ち着かない感覚。その感覚をまだはっきりと覚えているから、そんなふうに思っちゃうんだろうか。
刺激は少ないほうがいいはずなのに、相反する感情がむくむくと湧き上がってくる。
「バン、オレの魔力の流れは感じるか?」
「あ、うん。今、お腹のあたりに集まろうとしてる感じがする」
「前もそこから生えたんだったな。触腕が腹から生えるなんて珍しいが」
「え……そうなの?」
「普通、最初に生える場所に多いのは背中か腰だな。力の制御を覚えれば、好きなとこから生やせられるが……最初が腹っつうのは、お前以外で聞いたことがねえ」
普通じゃなかったんだ。
でも、今回も前と同じ場所から出ようとしている。ヘソの少し下あたりに触腕の動きを感じる。
「……父さん、出るかも」
「一度、その感覚に抵抗してみろ。力を流れを覚えるんだ」
「う……んっ」
ぐ、と下腹部に力を入れてみる。
でも、それは少しも抵抗にはならなかった。物理的なことではないらしい。
――じゃあ、魔力の流れを遮ることを意識して……。
目を閉じて、今度は体内の魔力の流れに集中する。腹部に集まろうとしている魔力の道筋をすぐに見つけた。
その流れを遮断する。
かなり難しかったけど、なんとか四度目の挑戦でうまくいった。
「そうだ。今の感覚を覚えとくんだぞ。触腕を生やすときは、その逆をすればいい」
「これの、逆」
「やってみろ。補助はしてやる」
目を閉じたまま、さっきとは逆のことをする。
堰き止めた魔力を解放して、一か所に集める。それも、どこでもいいってわけじゃない。
おれはまだ怪人の力の制御がうまくできないから、魔力が自然と集まろうとしている場所――下腹部へと流れるように意識を集中した。
「あ……、出そう」
「いいぞ」
「ん、ん――ッ」
ずるっ、と触腕が生える感覚は首領様のときと同じだった。
でも、あのときほどの衝撃はない。二回目だから慣れたのかな。少し息が切れるくらいだった。
うまくいったことに、おれはほっと息をつく。
「バン。お前……なんだ、その触腕の色と形」
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