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10 この触腕の形って、もしかして
しおりを挟む父さんの驚いている声が聞こえて、おれは慌てて目を開けた。視線を下に向けると、腹から見事に生えている触腕が見える。
触腕はおれが最後に見たときよりも黒く染まっていた。光を全く跳ね返さない、禍々しいほどの黒だ。
でも色のことより、おれには気になることがあった。
「形が、変わってる……?」
触腕の形が、前に見たときと明らかに変わっていた。
前はちゃんと父さんと触腕と同じ、おれのよく知る蛸の足の形をしていたのに、これは……どう表現すればいいんだろう。
シルエットは蛸の足に似ているけど吸盤がない。表面は硬い鱗のようなものに覆われていて、それは蛸の足というより爬虫類の長い尻尾のように見えた。
――あ……この鱗、首領様の脚の外殻と似てるんだ。もしかして、首領様が噛んだからこうなったの?
異変が起こった原因は、それくらいしか思いつかなかった。
「元からこの形だったわけじゃねえのか?」
それまでずっと、黙って触腕を観察していた父さんが口を開いた。
声が硬い。それに表情も険しい。
「うん。前に見たときは、父さんの触腕とそっくりな形だったよ。それよりも細くて短いけど……色も最初は淡いピンクだった」
「こうなった原因に心当たりはあるのか?」
「それは――」
おれが説明しようと、口を開こうとした瞬間だった。
「ん……ぁ、何」
腹の奥が、ずくんと疼いた。
声が我慢できないくらいの強い疼きだ。痛くはないけど、きゅっと身体が縮こまる。
「バン? どうした」
「わかんない……なんか、触腕の根元から変な感じがして……ひぁッ」
また同じ疼きが襲う。訳のわからない状況に、おれは助けを求めるように父さんを見た。
父さんは、おれの触腕に再び鋭い視線を向けている。
その目がカッと見開いたのと、おれの視界の端で何か黒いものが動いたのは、ほとんど同時だった。
「ぅわ……っ」
おれには、驚きに声を上げることしかできなかった。
何が起こったのかも把握しきれていない。
おれの上半身には、父さんの触腕が巻きついていた。強い力じゃない。おれのことを守るように、触腕が盾になってくれているのだ。
それに対して攻撃を仕掛けようとしているのは、おれから生えている触腕だった。
「え、どうして」
「バン、お前が動かしてるんじゃないんだな」
「違うっ、おれ、父さんを攻撃なんか」
「落ち着け、バン。触腕の動きを制御できるか?」
「わ、わかんない。だっておれ、何もしてないのに……勝手に動いて」
落ち着けと言われても、落ち着ける状況じゃなかった。
黒い触腕はなおも、おれの意思に反して攻撃を繰り返している。父さんはそれに対して反撃することなく、守りに徹していた。
「……お前に触れてるのが、気に入らないのか?」
父さんはしばらく黒い触腕を観察して、何かに気づいたらしい。おれの身体を守っている触腕以外を消すと、自分の腕でおれの背中を支えた。
「バン、立てるか?」
「う、うん……父さん、何かするの?」
「逆だ、何もしない。おそらくだが、あれはお前を傷つけようとしたんじゃない。守ろうとしてるんだ。ただ、敵味方を判断するのが不得手なんだろう。いったん離れて様子を見てみようと思う」
父さんはそう言うと、おれの背中に添えていた手を離す。一歩、後ろへと離れた。
まだ触腕で守ってくれてはいるものの、さっきの言い方からして、この触腕も消すつもりなんだろう。
「もし、父さんの憶測が間違ってたら?」
「心配すんな。お前に怪我なんかさせねえよ。オレを信じろ」
おれは無理だと言いたい気持ちを堪えて、こくりと頷く。
手が震えているのには気づかれているだろうけど、父さんは何も言わなかった。
身体を覆っていた父さんの触腕が消える。
おれは一瞬身構えたが、父さんが予想したとおり、黒い触腕は攻撃的な動きを止めた。
「予想どおりだったな」
「……おれの触腕は、自動攻撃型ってこと?」
「そんなの聞いたことがねえがな……でも、実際にあるわけだし、あり得ねえわけとは言えねえな」
父さんは、おれの身体に迂闊に触れてしまわないように、さらにおれと距離を取る。
だらりとしたまま動かなくなった黒い触腕をいろんな角度から眺めて、うーんと首を傾げた。
「で、お前さっき何か言おうとしたよな」
「そうだ。この触腕が黒くなった理由なんだけど――ひ、ぁッ」
また、さっきと同じタイミングだった。
黒い触腕が勝手に動き出す。驚いたおれの声に父さんが警戒を強めたが、すぐに何かすることはなかった。
「あ、あ……何、待って」
黒い触腕の動きは攻撃的なものではなかった。
するする、とおれの内腿を撫で上げる。くすぐったさに身をよじっていると、黒い触腕はおれの腰に巻きつき、先端の尖った部分をおれの中心に近づけた。
「え、だめ。そこはだめだって!」
何をしようとしているんだろう。
ただ、ちょっと巻きついてみたくなっただけ?
……違う気がする。黒い触腕は先端をちろちろと動かしながら、どんどん中心に迫ってくる。
あと少しで、触れてしまう。
手で払い除けようとしたけど、だめだった。
腰を引いて逃げようとしても、自分の身体から生えているものなので逃げようがない。
「ふ、ぁッ」
たらんと萎えたおれの中心に、黒い触腕の先が触れた。
思わず情けない声が出てしまう。
「父さん、見ないで」
「そうしてやりたいが……」
父さんもどうすべきか、迷っている様子だった。
「触腕の締めつけは弱いんだな? 痛みは?」
「ない! ないから」
「わかった。まずいことになりそうなら、すぐに声を上げるんだぞ」
口元を手で押さえたまま、おれはうんうんと頷く。
父さんはすぐさまくるっと反転すると、おれに背中を向けた。
――声も、聞かれたくないけど。
黒い触腕が何をする気なのかはわからない。
でも、この行為がさらにエスカレートしたら、おれは声を抑えられる気がしない。
「……っ、ぁ……嫌だ、だめだって」
最初の刺激だけで半勃ちになってしまったおれの中心に、黒い触腕が器用に先端を巻きつける。急所を押さえられ、おれはさらに自由に身動きが取れなくなった。
変に刺激して、さっきみたいな攻撃を中心に仕掛けられても困るからだ。
「なあ、なんでおれの触腕なのに、勝手に動くんだよ……しかも、どうしてそんなとこ」
せっかく生えた自分の触腕だ。そんな変なこと、したくないのに。
「ぁッ」
巻きついた黒い触腕が、きゅうっとおれの中心を締めつける。
強い締めつけじゃない……だけど、怖い。
「そこは、あんまり鍛えてる場所じゃないから……な? あんまり変なことしないで……っ、ぁ、ぁああッ」
不意打ちに与えられた刺激に、おれはその場にぺたりと座り込んでしまった。
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