【完結】悪の幹部の息子に転生しました 〜首領様がえっちすぎて直視できません〜

コオリ

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13 噛み跡の持つ意味

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「――バン!!」
「うわっ」

 目を覚ました瞬間、耳元で鼓膜をぶち破りそうな大声が聞こえて、おれの第一声は悲鳴になった。
 キーンとする耳を押さえていると、今度はムキムキの太い腕がおれを容赦なく抱きしめる。
 痛すぎて苦情を言おうとしたけど、「戻ってきてくれてよかった……」と安堵した父さんの絞り出すような声に、身体を締め上げられる痛みよりも、ぎゅっと締めつける胸の痛みのほうが勝った。
 こんなの、苦情なんて言えるわけがない。

「……おれ、そんなやばかったの?」

 おれとしては、ぐっすり眠って起きたときとそんなに変わらない感覚だった。
 だけど、父さんは本気でおれを心配していたみたいだ。本当に結構やばい状態だったのかな?

「っていうか、おれ……なんで寝てたんだっけ?」
「覚えてねえのか?」

 顔を覗き込んできた父さんが、うっすら充血した目をぱちりと瞬かせた。かなり驚いている様子だ。
 おれはしばらく考えて、こくんと頷く。

「この部屋に入って、父さんに敬礼した後、触腕のことを相談しようと思ったとこまでは覚えてるんだけど……その後のことは全然」

 これが幹部の部屋かー!! って、めちゃくちゃ興奮したのも覚えているけど、そこはあえて割愛する。
 おれの記憶は、父さんに触腕の相談を持ちかけようとしたあたりで不自然に途切れていた。
 まさか、そこでいきなり寝落ちたとか?

「裸になってる理由もわかんないし、知らないうちに触腕も生えてきてるし」

 おれは自分の身体を見下ろした。
 生まれたままの姿のおれの腹からは、にょろんと一本の触腕が生えている。
 前に見たときより真っ黒で、形も変わってしまったその触腕が視界に入った瞬間、鼓動がどくんと跳ねたけど、心臓がそんなふうに反応した理由にも心当たりはなかった。

「まじで全く覚えてねえのか。まあ、それならそれでいい。無理に思い出そうとすんな」
「え……でも、父さんは見てたんだよね? これが生えてくる瞬間も、その後に何があったのかも。それなのに教えてくれないの?」
「確かに見てたが……詳細を話すのは、少し待ってくれねえか。どう話していいもんか、オレ一人じゃ判断がつかねえ」

 ――え……そんな考えなきゃいけないようなことがあったってこと? おれ……前もこんなことなかったっけ。

 気になりすぎるけど、聞ける雰囲気じゃなかった。
 考え込んでいる父さんの表情が家にいるときの父さんじゃなくて、幹部の顔だったからだ。

「バン、身体に問題はねえか? どっか痛いとか、胸が苦しいとか」
「平気だよ。むしろ絶好調かも」

 おれは元気なことを証明しようと、腕をぶんぶんと振り回してみせる。
 ついでに触腕も振り回してみた。

「触腕も問題なく操れるみたいだな」
「意識を集中して、やっとだけどね。それにしても、最初生えたときはこんなじゃなかったのに……不思議な見た目になったなぁ」

 色が変わったのは知っていたけど、形まで変わっているとは思っていなかった。
 吸盤がなくなった代わりに全体が黒い鱗に覆われたこれの触腕は、初めて生えてきたときとは別物すぎる。

「そういや、そのことでオレに何か相談するつもりだったんじゃねえのか?」
「あ! そうだった。今、聞いてもいい?」



 いろいろあって後回しになってしまったけど、おれは父さんに自分の触腕を見せながら、これを首領様に噛まれたときのことを話した。
 見た目がこうなってしまったのは、そのせいだって思ったからだ。
 父さんはおれの話を黙って聞いていた。
 ときどき難しそうな顔をしていたのが気になったけど、おれが話し終えるまで、父さんはほとんど口を開かなかった。

「話すのが遅くなってごめん」
「なんでお前が謝るんだよ。お前との時間を作ってやれなかったのは、オレのほうだろうが」

 俯いていると、頭をくしゃっと撫でられる。
 父さんは話を聞いていたときの難しい表情ではなく、いつもの表情に戻っていた。

「……やっぱり噛まれたのが原因だよね? おれの触腕の色と形が変わっちゃったのって」
「そうだ。間違いねえ」

 父さんは答えを確信していた。
 おれの触腕をまじまじと見つめた後、今はもううっすらとしか残っていない首領様の噛み跡を指差す。

「これはただの傷跡じゃなく、契約の印だ」
「契約の印?」
「ああ。咬傷を与えることで主従の契りを交わす――そういう印だ。お前の触腕の見た目が変わったのは、契約主である首領様の魔力の影響で間違いねえよ」
「じゃあ、この鱗って」
「鱗じゃなくて外殻だな。首領様から分け与えられた力だ」

 ――この噛み跡、そんなすごいものだったんだ。

 知らないうちに主従の契約を結ばされていたのにはびっくりしたけど、それ以上に、契約で能力を分け与えることが可能だという事実に驚いていた。
 そんな契約があること自体、初耳だったからだ。

「こういう契約って、よくあることなの?」
「いや……咬傷による契約は、今じゃほとんど行われない。昔は主流だったこともあるがな」
「父さんはやったことないの?」
「したことも、されたこともねえよ。オレが組織入った頃にはもう、だいぶ珍しい方法になってたからな。こんな真新しい咬傷を見たのだって初めてだ……それが、まさか自分の息子につけられたものとはな」

 父さんの表情はなぜか険しかった。
 頭をがしがしと掻きむしって、重い溜め息をついている。

 ――もしかして……この契約って、あんまりよくないものだった? でも、あの場で首領様に『やめてください』なんて言えるはずないし。おれは、どうすればよかったんだろ。

 首領様に逆らうなんてあり得ないけど、親をこんな顔をさせるのも嫌だった。
 父さんの顔を見ていると、泣きたい気持ちになってくる。

「父さん、ごめん。おれ……」
「悪い、顔に出てたか? お前にそんな顔させたいわけじゃねえんだよ。首領様の命令に背くなんてできねえんだから、お前が謝ることじゃない」
「で、でも……」
「バン。首領様から咬傷を賜るのは名誉なことだ。ただ、この契約は危険をはらむ行為だ。場合によっちゃ、お前を失ってたかもしれねえ。お前が首領様に選ばれたことを、組織の一員としては喜ぶべきだってわかってんだけどな……親としては複雑なんだ」

 おれが不安そうにしていたからか、父さんは胸の内をすべて打ち明けてくれた。
 こんなこと、組織の他の人に聞かれたら絶対にまずいに決まっているのに、おれの気持ちを優先してくれるところが父さんらしい。

「……お前を失わなくて、本当によかったよ」

 ぎゅっ、と手を握られる。
 手の甲にぽたりと雫が落ちてきたけど、おれは視線を下に向けたまま、気づいていないふりをした。
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