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14 選別の儀とイケおじ
しおりを挟む父さんに相談をした次の日から、おれは通常の訓練とは別に特別メニューをこなすことになった。
このメニューを考えてくれたのは母さんだ。
父さんからおれの触腕の話を聞いて、『それなら、ちゃんと能力に合わせた訓練を始めたほうがいい』って次の日の朝、完成したこの特別メニューを手渡してくれたのだ。
母さんも幹部の仕事で忙しいはずなのに……両親には本当に大切にしてもらっていると思う。
組織の役に立って、いつかは二人に恩返しができたらいいと思っているんだけど、おれが二人に追いつける日はくるのかな。
「とにかく、まずは怪人の力をちゃんと使えるようになるところから!」
そう意気込んだおれが、特別メニューをこなし始めてから数日が経った。
おれが訓練用に借りている個室は、組織に所属する戦闘員なら誰でも自由に使える多目的室だ。階級によって使える個室の広さは違うらしいけど、下っ端のおれでも借りられる最低ランクの個室でも充分な広さがある。
「助かるよなぁ、組織の充実した福利厚生……おかげで訓練も捗るし」
毎日ここで特別メニューを続けた結果、うまく出せなかった触腕が自分の力だけでスムーズに出せるようになっていた。生える場所はまだ変えられないけど、それもあと少しでうまくいくような気がしている。
あとは触腕の本数も増えたらいうことないんだけど……こっちは、これからの課題だった。
「ええっと四つ目まで終わったから、次はラストの豆掴みとスクワットか……触腕での細かい作業と筋トレの組み合わせを最後に持ってくるって、母さん結構鬼畜だよな。しかも交互に十セットって」
「……もしかして、まだやるのか?」
「わっ、びっくりした。レクセじゃん」
個室の入り口から声が聞こえて振り返ると、そこに立っていたのは同じ組織の一員で幼馴染みのレクセだった。
レクセはおれと違って幹部候補生だから、同じ新入団員でも普段の研修や訓練は完全に別々だ。組織内で顔を合わせることもほとんどない。
だけど、おれが今使っている多目的室が幹部候補生の使っている訓練場の近くにあるおかげで、おれがここで訓練していると知ってから、レクセはこうして時々顔を見せてくれるようになった。
「もしやと思って覗きにきたけど……お前、ずいぶん遅い時間までやってるんだな」
時計を見ると、時刻は二十二時を過ぎていた。
「遅いっていっても、日付が変わる前には帰るようにしてるよ。じゃないと母さんに叱られるし」
「それでも根を詰めすぎだろ」
「そっちだって、この時間まで残ってるんだったら一緒じゃん。レクセも自主練?」
「いや、俺はこの時間まで普通に訓練だよ。幹部候補生は〈選別〉前でも訓練がきついって聞いてたけど、まじだったわ」
普段、何事も飄々とやりこなすレクセが珍しく疲れている様子だった。それだけ幹部候補生の訓練は大変ってことなのかな。
憧れの幹部候補生だけど、こういうところを見ちゃうと下っ端でよかったなって思ってしまう。
「ところで、〈選別〉って?」
「おい、バン……お前、組織のこと知らなさすぎじゃないか? 〈選別〉は下級戦闘員も一緒に受けるはずだろ」
「……そうだっけ?」
初めて聞く言葉だった。
首を傾げるおれを見て、レクセは呆れ顔でため息をつく。
「……お前さぁ、昔から『首領様かっこいい! 大好き! 大きくなったら絶対に組織に入る!』って騒いでたくせに、不勉強すぎないか?」
「うう……お説教はいいから教えてよ。〈選別〉っていうのがなんなのか」
レクセはおれを睨みながら、さっきよりもでっかい溜め息をついた。
「〈選別〉っていうのは、正式な配属前に新入団員が受ける儀式のことだよ。入団から一か月目――俺たちも、もうすぐ受けることになる」
「配属前に受ける儀式……そんなのがあるんだ」
「てっきり、お前はそれに向けて居残りしてるのかと思ってたよ。〈選別〉の結果によっては、組織を追い出されることもあるっていうからな」
「えっ!?」
「よっぽどの場合だけどな。だけど、幹部候補生から下級戦闘員への降格はよくあることらしい。だから、訓練が厳しくなるっていうはわかるんだけどさ……」
これは、幹部候補生ならではの悩みっぽい。
――おれ……組織を辞めさせるなんてことにならないよね?
よっぽどのことがなければ大丈夫だも聞かされても、可能性がゼロじゃないなら不安は残る。
明日からも母さんが作ってくれた特別メニューを頑張って完璧にこなそうと、おれはこっそり心に誓った。
◆◆◆
「いよいよ、今日かぁ」
あっという間に〈選別〉の日がやってきた。
レクセに教えてもらった次の日に、それとなくラーギ先輩に〈選別〉について聞いてみたら、『そーいや説明すんの忘れてたわ』ってぶっちゃけられた。
知らなかったの、おれのせいじゃなかったじゃん。
――会場は大講堂か。入団式の日以来だなぁ。
あの日、あの場でおれがやらかしたことを、皆忘れてくれていたらいいんだけど。
下っ端戦闘員の正装ともいえる、黒タイツに黒マスクを着用して、おれは他の同期と一緒に大講堂へと向かう。
見上げるほど巨大な両開きの扉から大講堂の中に入った瞬間、目の前に広がっていた光景に、おれはあんぐり口を開けた。
「玉座がある……」
大講堂正面のおれの目線より高い位置に、玉座が準備されていた。
そこにそれがあるということは。
――〈選別〉に、首領様も来るってこと?
幹部でも首領様に会える機会は少ないって聞いていたから、こんな短期間に二度目があるとは思っていなかった。
――いや……医務室のことを回数に入れたら三度目?
とにかく、首領様にまた会えるのだ。
おれは興奮を抑えながら、他の下っ端戦闘員と同じ列に並ぶ。〈選別〉の儀式がどんなものなのか、実はまだよくわかっていなかったけど、今は首領様のことで頭がいっぱいだった。
「〈選別〉の儀を始める」
大講堂に並んだおれたち新入団員に静かな声でそう告げたのは、幹部の蠍怪人イェスコル様だ。レクセの親父さんでもある。
後ろに撫でつけた砂色の長髪と、左肩にある巨大な鋏のような外殻、尾てい骨から伸びたくびれのある尾が印象的な人だ。
見た目も声も渋くてかっこいいイケおじだった。
――レクセも歳を重ねたら、あんな感じになるのかなぁ。
大講堂内にずらっと並んでいる列の前方に視線を向けると、他の幹部候補生と一緒に並んで立つレクセの後ろ姿が見えた。
ここからだと顔は見えないけど、昔から一番の憧れは親父さんだって話していたし、親父さんのかっこいい姿に目を輝かせているんじゃないかな……なんて、暢気に考えていられたのはそこまでだった。
「――全員、敬礼!」
鋭い号令に、頭で考えるよりも先に身体が動く。
おれは無意識に、空の玉座に向かって敬礼していた。
そのとき、ちょうどおれが視線を向けていた玉座上部の空気がぶわりと動く。そこから渦巻くようにあふれた黒い霧の中から、忽然と姿を現したのは首領様だった。
「……っ」
その威厳ある姿が目に入った瞬間、全身に鳥肌が立ったのがわかる。
ずん、と腹の奥が重く疼いた。
――待って……これ、触腕が首領様に反応してる? ちょっとまずいかも!
さっき疼いた場所が、今度はドクドクと鼓動を刻み始める。
前みたいに魔力が勝手にあふれ出しそうな感じはないけど、この状態は安心できなかった。
――二回目のやらかしは、マジでだめだって! 組織から追い出されちゃうから!
なんとかして、触腕を落ち着かせたい。
おれが自分の体内魔力の流れに意識を取られていた――そのときだった。
「?」
ドサッ、と何か重たい物が床に落ちたような音が後ろから聞こえた。
それも一回だけじゃない。
続けて何回も同じ音があちこちから聞こえてくる。
それが人の倒れる音だと気づけたのは、目の前の同期が足もとから崩れ落ちるように倒れたからだった。
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