20 / 111
20 心臓が壊れるのでやめてください
しおりを挟む荷物の重さでふらつきつつも、シディア様の後ろをついていく。
歩く位置は、おれの歩幅で二歩くらい後ろ。
そこから見るシディア様のかっこよすぎる後ろ姿に、おれはうっとりと見惚れていた。
――かっこいい人って、後ろ姿まで隙がないんだ……すごいなぁ。背が高いのはわかってたけど、脚長すぎでしょ。スタイルもめちゃくちゃいいし。
シディア様の背はたぶん一九〇センチ以上あると思う。
父さんも同じくらいあるけど、父さんは筋肉がでかくてがっちりしてるから、そこまで背だけが目立つ感じはしない。
シディア様も鍛えた体躯はしているけど、父さんに比べれば細身だから、すらっと背の高さが際立っていた。
歩き方まで洗練されていて、見ているだけでドキドキさせられる人だ。
――深い青色の外殻も綺麗だなぁ。大講堂で見たときは気づかなかったけど、うなじを覆ってる外殻がすごく個性的だったんだ。脊髄みたいな形に見える。
それを見てもシディア様が何の怪人かはわからなかったけど、繊細で美しい造形の外殻についつい目が引かれてしまった。
――髪の色、青紫のところはグラデーションみたいになってる? うーん……影になってるから、そう見えるだけかな。どっちにしても、綺麗なんだけど。
歩くたびに左右に揺れる、シディア様の長めの襟足を無意識に目で追っていた。
すると、前触れなくこちらを振り返ったシディア様と、うっかり視線がぶつかってしまう。
「足元、躓かないようにな」
「あ、はい! ……わっ」
返事しておいてやらかすとか、我ながら信じられない。
足元にはちゃんと注意を払っていたつもりだったのに、おれは見事に小さな段差で躓いてしまった。
両手で箱を抱えているから、どこにも手をつけない。
――そうだ、触腕!
慌てて触腕を出して身体を支えようとしたけど、咄嗟の判断でそんなにうまくいくわけがなかった。
「返事と行動が噛み合っていないな」
でも、結果的に転ばなかった。
何が起きたのかわからず、おれは転倒の衝撃に備えて、ぎゅっとつぶっていた目を開ける。
「え……」
すぐ目の前にシディア様の顔があった。
睫毛の本数が数えられるくらいの至近距離だ。オーロラみたいに色を変える瞳が、じっとおれを見つめている。
――え、え……何。どういうこと?
抱えていたはずの荷物が手元にない。
代わりにおれが、その荷物みたいにシディア様の腕に抱えられていた。
「に、荷物は……?」
「それならここにある。落としていないから心配するな」
見当違いのおれの質問にも、シディア様は丁寧に答えてくれる。おれがさっきまで抱えていた荷物は、シディア様の傍らでふわふわと浮かんでいた。
よく見ると、箱の周りに黒くて細い触手が巻きついている。どうやらシディア様の触手らしい。
――あれ……この触手、前にどこかで。
ふと、既視感を覚える。
「あの……もう大丈夫なので、下ろしてください」
「ああ。そうだな」
シディア様は頷くと、触手を操って荷物を床に下ろした。
役目を終えた触手は溶けるように消える。
「いや……そっちじゃなくて」
おれを下ろしてほしいって意味で言ったんですけど。
困惑しつつ表情を窺うけど、シディア様はいたって真面目な顔をしている。
これ、ちゃんと言い直したほうがいいのかな。
「お前は危なっかしいようだから、このまま運んだほうがよさそうだ」
「え! それは、さすがに!」
「冗談だ」
――わかりにくすぎるって!
無事に下ろしてもらって、荷物を抱え直す。
廊下を少し進むと、突き当たりに昇降機があるのが見えた。
シディア様と一緒に乗り込む。
昇降機は下に向かって動き始めた。
前に父さんと乗ったときは何も思わなかったのに、二人きりの密室になんだかドキドキしてしまう。
「心臓がにぎやかだな」
「え、あ……聞こえてるんですか?」
狭い空間とはいえ、少し離れているこの距離で、心臓の音が聞こえてしまうとは思わなかった。
怪人の中には、通常の何倍もの聴力を持つ人がいる。
シディア様はそれに当てはまるということだろう。
「もしかしておれ、うるさかったですか?」
「慣れているから問題ない。聞きたい音を選んで聞いているしな」
不要な音は遮断できるってこと?
気になってシディア様の耳を見たけど、見た目はおれの耳とほとんど変わらなかった。中の構造が違うのかな?
「お前の鼓動が速い理由はなんだ? 恐怖や驚きとは違うようだが」
シディア様はそう言いながら、こちらに一歩近づいてくる。純粋な疑問みたいだけど、おれには答えづらい問いだった。
――ドキドキしてる理由なんて、おれが聞きたいよ!
シディア様の外殻が魅力的すぎるせい?
それとも、シディア様の顔が整いすぎているから?
どっちも当てはまっている気がするけど、どっちを答えてもドン引きされてしまうんじゃないかって心配になる。
ツィーガの件もあるし。
「――また速くなったな。俺が関係しているのか?」
それは、絶対にそう。
綺麗すぎるシディア様の顔がすぐ目の前にあるせいだ。その顔の近さにふと、さっき抱きかかえられたときのことを思い出していた。
意識しないようにしていたのに、触れた肌の記憶が蘇って、おれの鼓動はさらに速くなる。
――これ以上は、心臓壊れるって!
「時間切れだな。着いたようだ」
昇降機がゆっくり停止し、扉が開く。
外に広がっていた信じられない光景に、おれは小さく息を呑んだ。
282
あなたにおすすめの小説
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜
隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。
目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。
同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります!
俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ!
重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ)
注意:
残酷な描写あり
表紙は力不足な自作イラスト
誤字脱字が多いです!
お気に入り・感想ありがとうございます。
皆さんありがとうございました!
BLランキング1位(2021/8/1 20:02)
HOTランキング15位(2021/8/1 20:02)
他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00)
ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。
いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
【完結】異世界から来た鬼っ子を育てたら、ガッチリ男前に育って食べられた(性的に)
てんつぶ
BL
ある日、僕の住んでいるユノスの森に子供が一人で泣いていた。
言葉の通じないこのちいさな子と始まった共同生活。力の弱い僕を助けてくれる優しい子供はどんどん大きく育ち―――
大柄な鬼っ子(男前)×育ての親(平凡)
20201216 ランキング1位&応援ありがとうごございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる