【完結】悪の幹部の息子に転生しました 〜首領様がえっちすぎて直視できません〜

コオリ

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21 暗黒書庫って呼んでもいい?

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「え……何もない・・・・?」

 扉の向こうに広がっていたのは、どこまでも続く闇だった。
 何もない空間にしか見えないのに、シディア様は何も気にする様子なく、その闇の中を進んでいく。

「待ってください! シディア様ッ」

 シディア様の身体が闇に溶けてしまいそうな気がして、おれは思わず呼び止めていた。
 本当はシディア様に駆け寄りたかったけど、この闇に自分から飛び込む勇気なんてあるわけない。そんなことしたら、おれなんか一瞬で闇に溶かされてしまう気がする。

「どうした、バン」

 振り返ったシディア様の顔は、闇に覆われて見えなくなり始めていた。

 ――このまま消えちゃったらどうしよう。

 不安で泣きそうになる。
 言葉がうまく出なくて、首を横にふるふる振っていると、シディア様は何か気づいたように「ああ」と頷いた。

「また忘れていた」

 シディア様はそう言うと、闇の中をカツカツと靴音を鳴らしながら戻ってきた。近づくにつれて、闇で隠れていたシディア様の顔がまたはっきり見えるようになる。
 昇降機エレベータに再び乗り込んできたシディア様は、おもむろにおれの頭の上に手を置いた。

「バン、目を閉じろ」
「え……それは」

 忠誠を誓ったシディア様の命令が絶対なのはわかっている。
 だけど今ここで目を閉じたら、一気に流れ込んできた闇に呑み込まれてしまうんじゃないかって考えてしまう。
 怖くて、命令を守れなかった。

「怖いなら、こうして触れておいてやる。すぐ終わるから、目を閉じろ」

 シディア様はそんなおれを叱るどころか、穏やかな声でそう言う。
 おれの頭をくしゃりと撫でた。

 ――だったら、大丈夫かも。

 怖いのが完全になくなったわけじゃないけど、シディア様の言葉を信じて目を閉じる。
 両瞼にそれぞれに、柔らかくてあたたかいものが触れた。
 目の奥で小さい火花のような青白い光が弾ける。
 痛くはなかったけど、突然のことに驚いてびくっと肩を揺らしてしまった。

「……っ」
「目を開けてみろ」
「え、すごい。何、ここ……」

 目を開けると、さっきまであった闇は忽然と消えていた。

「ここは……図書館?」
「書庫だな。俺はここを執務室に使っている」

 闇に隠されていたのは、膨大な書物の並ぶ書庫だった。
 悪の組織の書庫らしく、その雰囲気を一言で表すなら〈暗黒書庫〉だ。壁の黒い書棚に並んでいる本はどれも、やばそうな代物にしか見えない。

 ――天井まで、みっちり本が並んでる。

 蔵書量に圧倒され、おれはぽかんと口を開いたまま立ち尽くしていた。

「奥にも部屋はあるが、机があるのはこの広間だけだ。俺と同じ机で悪いが、適当に使ってくれて構わない」
「それは……他の部下の方はどうされてるんですか?」
「俺の部下はお前一人だ」
「え…………ぇええ!?」

 衝撃の事実に叫ばずにはいられなかった。
 幹部の部下が一人しかいないなんて、そんなの聞いたことがない。
 しかも、その唯一の部下が……おれ?

「この書庫に入れる者は限られているからな。そもそも、他の誰も立ち入らせるつもりはなかったんだ」
「じゃあ……どうして、おれを?」
「――なぜだろうな」

 答えが聞きたくて尋ねたのに、シディア様から返ってきたのは意味深な言葉だけだった。



   ◆◆◆
 
 

 シディア様の執務室である書庫にある扉は直接、他の階層へと繋がる昇降機へと繋がっている。昇降機を降りるとすぐに、このたくさんの本たちに出迎えられるというわけだ。
 書庫に入ってすぐの場所は広間のようになっている。
 中央に置かれている長机は、シディア様が言っていたこの書庫で唯一の机だ。
 おれも一緒に使っていいと言われたけど、シディア様の場所を奪うような真似はできなくて、長机の端っこのほんの少しだけを使わせてもらうことにした。

 ――本に囲まれてるの、なんか落ち着かないな。

 広間の入り口を除く三面の壁には、天井まで繋がる書棚がある。おれの身長の五倍以上は高さがあった。
 入り口から見ると部屋はそこで終わっているように見えるけど、実際は書棚の隙間からさらに奥へと通路が伸びていて、そこにも書棚がいくつも並べられている。
 書庫の中はまるで迷路のようになっていた。

「もし迷子になっても、階層管理人の人が助けてくれるのかな……」
「ここは彼らの管轄外だ」
「えっ、そうなんですか?」

 独り言のつもりだったのに、耳のいいシディア様には聞こえていたらしい。
 返ってきた答えに二重の意味でびっくりする。

「じゃあ、書庫の中で迷子になったら……死を覚悟するしかないってことですか?」
「その心配はない。そのために俺の目を貸してやったのだからな」
「目を、貸す?」

 ――目って、目のことだよね? それを貸す???

「あ! もしかして、さっきの……?」

 すぐに思い当たったのは、昇降機の中でシディア様にされたことだった。
 俺は目をつむっていたから何をされたのかわかっていなかったけど、目に何かされたのだとしたら、そのときの行為以外思いつかない。

「鏡を見ればわかる」

 シディア様って質問には基本答えてくれるけど、答えがちょっと不親切っていうか、曖昧なところがある気がする。
 でも『違う』って言わなかったってことは、おれの予想が合っているってことなのかな。

「鏡、鏡…………」

 ロッカーから持ってきた荷物の中にあったはず。
 机の下に置いていた箱をしばらくごそごそ漁って、隅に追いやられていた折りたたみ式の鏡を取り出した。
 おそるおそる、自分の目を確認する。

「これ――」

 母親譲りの紫の瞳はそのままだったけど、瞳孔のふちに見覚えのない明るい緑色が煌めいていた。
 しばらく見ていると、淡い青から鮮やかな紫へ、揺らめくように色が変わる。
 シディア様の瞳と同じ揺らめき方だった。

「……シディア様の目だ。目を貸すって、こういうこと? でも、そんなことして大丈夫なんですか?」
「俺は問題ない。お前の身体も……まあ、平気だろう」

 ――ん? なんか今の発言、ちょっと不穏な気がしたんだけど……気のせい?

 困惑するおれを見て、シディア様が目元を緩める。
 冗談とも本気ともつかない言葉をどう受け取っていいかわからず、おれは「むむー」っと唸るしかなかった。
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