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22 幹部候補生候補ってちょっと言いにくい
しおりを挟む「……幹部候補生候補?」
器用に片眉だけを持ち上げて、困惑気味に聞き返してきたのはレクセだ。
イェスコル様と同じ砂色の髪を掻き上げながら、隣を歩くおれの顔をじとっと睨むような目で見てくる。
「そうらしいよ。おれも今日初めてシディア様から聞かされたんだけど。候補生候補になるのは、おれが初めてだって」
「候補生候補って、言葉からしておかしいからな」
「おれも三回聞き直した」
おれが「え?」って言うたび、律儀に言い直してくれるシディア様がちょっと可愛く見えたのは、おれだけの秘密だ。
そんなことを喋ったら、絶対にいろんな人から叱られる。
「立場としては、幹部候補生のすぐ下ってことか?」
「訓練は幹部候補生と一緒って言われたから、たぶんそうなんじゃない? ってことでさ、この黒タイツとももうすぐお別れなんだよね。なんか寂しいなぁ」
「そんなものを惜しむのは、お前くらいじゃないか?」
「そんなものって……その言い方はなくない?」
この黒タイツのよさがわからないなんて、レクセは人生損していると思う。
黒マスクも気に入ってたんだけどなぁ。
「じゃあ、これから幹部候補生候補? の制服を作りに行くわけか」
「そうそう。制服の形式は幹部候補生と同じでいいんだって。でも、作ってもらうところからってことは、すぐには受け取れないよね?」
幹部候補生の制服は、階層管理人の制服と似ている。
こっちは前に開閉部分がないから、キャットスーツというよりウェットスーツに見た目が近いけど。
袖の長さや形、カラーリングはそれぞれ違っているのは個人の自由に決められるからなのかな? それとも所属ごとにある程度はデザインが決まっている?
シディア様は『行けばわかる』としか言ってくれなかったので、おれはその言葉を信じて、組織の服飾系を一手に担っている幹部ホニベラ様のところに向かっているところだった。
「制服はすぐに受け取れるぞ」
「え? そんなに早くできあがるものなの?」
「ああ……俺が詳しく説明するよりも、実際に行ってみればわかる」
レクセの説明も、シディア様とあまり変わらなかった。
◆◆◆
幹部ホニベラ様は個人の執務室とは別に、本部内に工房を構えていた。
途中で別れたレクセは『わかりやすいところにあるから迷わない』って断言していたけど……実は少しだけ迷った。
ちゃんと時間どおりに到着したから問題ないけど!
扉の上にかかっている看板に間違いがないかを確認してから、扉横にある呼び鈴を鳴らす。
「きみがバン・クラードゥだね。待ってたよ!!」
ハイテンションで出迎えてくれたのは、ピンク色でふわふわの可愛らしい人だった。
こんな人が組織にいたんだ。
背がおれより低い人は結構珍しい。頭一つ分くらいは違うんじゃないかな。こんなふうに見上げられるの、めちゃくちゃ新鮮だった。
「さ、どうぞ! 入って!」
手を引かれるまま、工房内に足を踏み入れる。
中には忙しそうに働いている人がたくさんいた。
この人たち全員、ホニベラ様の部下ってことかな。たぶん百人近くいると思う。
「あっ、ホニベラ様! 俺たちの仕事を取らないでくださいって、前にも言ったじゃないですか」
入り口近くで作業していた人がこちらに気づいて、おれの手を引くピンクのふわふわさんに話しかけた。
――いや……待って? 今、ホニベラ様って呼んだ?
「ごっめーん、忙しそうだったからさ。ぼくが直接対応する案件だし、いいかなーって」
ピンクのふわふわさんはそう言って、ぺろっと舌を出す。
謝っているけど、反省している様子は全くなかった。
おれはそんなピンクのふわふわさんに、おそるおそる話しかける。
「もしかして……ホニベラ様ですか?」
「そうだよっ!! そういえば、名乗ってなかったね! ぼくはホニベラ・フワーファだよ」
このピンクのふわふわさんは、ホニベラ様本人だった。
おれの想像する幹部のイメージとかけ離れすぎているせいで、まさかそうだなんて全く疑ってもいなかった。
幹部といえば強そうな人がほとんどだ。
父さんみたいな肉体派からイェスコル様みたいに頭脳派まで、強さの種類はいろいろあるけど、皆共通して強者のオーラを纏っている。
見た者に無条件で畏怖の念を抱かせる、そんなオーラだ。
ホニベラ様から、そんな恐ろしさは感じない。
「……幹部にこんなに可愛い人もいたんだ」
うっかり、声に出してしまった。
「おおおっ! バン・クラードゥ! 君はいい目を持っているようだね!」
ぎゅうっ、と強く手を握られる。
下から覗き込んできたホニベラ様は興奮した様子で頬を染めながら、にんまりと嬉しそうに笑った。
「いい目、ですか? ああ、この目ならシディア様に貸していただいてて――」
「そういうことを言ってるんじゃないよ! 可愛いものがわかる、とってもいい目だって話さっ!!」
――ん? んん??
てっきりシディア様に借りている目の話をされたんだと思ったのに、どうやら全然違ったらしい。
話の展開が全く読めない。
「ホニベラ様。固まっていらっしゃるので、そのくらいになさってください」
そう言って割り込んできたのは、父さんと同じくらい大きくてムキムキの男の人だった。特徴的な青緑色の肌の人だ。
右目には眼帯。その下からは、顔を縦に斬られたらしい傷跡が覗いている。
そんなおっかない見た目なのに、言葉遣いや態度は穏やかだった。
――眼帯の、ムキムキ紳士だ!
その人はホニベラ様の傍らに跪くと、おれの手を握っていたホニベラ様の手を優しくほどく。
両手でその手を大事そうに包み込みながら、おれのほうを見た。
「バン・クラードゥ様。制服を作りにいらしたのですよね?」
「あっ、はい!」
「私が案内いたします。どうぞ、こちらへ」
眼帯のムキムキ紳士はそう言うと、ホニベラ様を自分の腕に座らせるように抱き上げる。
おれを工房の奥へと案内してくれた。
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