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26 こんな敏感なのはまずくない?
しおりを挟む「う……ん」
ゆっくりと意識が浮上する。
瞼を開いたおれの視界に映ったのは、横向きに見える真っ黒な床と壁だった。
「ここ、って……」
呟いた声がびっくりするほど掠れていた。自分の声じゃないみたいだ。
目は覚めたけど、頭はまだぼーっとしている。
身体もなんだか重くて、すぐに動く気にはなれなかった。
「なんか……全身が熱くて、変な感じ……」
高熱って感じじゃないけど、微熱くらいはあるんじゃないかなっていう熱っぽさだ。
喉がものすごく渇いているのも、全身がぞわぞわして変な感じがするのも、この熱が原因なら納得がいく。
――とにかく、いったん起きるか。
しんどいけど、無理をしてでも身体を起こすことにする。
硬い床に横向きで寝転んでいたおれは、まず身体の上に乗っている右腕を少し横にずらす――そのときだった。
「ん、ぁあンッ」
腕が擦れたところに、ぞわっと鳥肌が立つような気持ちよさが走って、おれは高い声で喘いでいた。
――今の、おれの声?
自分のものとは思えない声に驚いているあいだも、びくびくと痙攣が止まらない。
震えるたび床に身体が擦れて、それがまた気持ちよさへと変換されるループに陥ってしまう。
――何、これ……身体がおかしい。
気持ちよさで、どうにかなりそうだった。
これ以上おかしな声を出してしまわないように、手を口元に持ってきたおれは、そこでようやく自分の身体の変化に気がつく。
「手が黒い……そうだ。制服を定着させてる最中に、おれ……」
自分がどうしてこんなところに倒れていたのか、意識を失う直前の記憶を思い出した。
ここはホニベラ様の工房の一室で、制服を定着させている途中だった。
おれの記憶では、皮膚の変色は太腿までしか終わっていなかったはずだけど、あの硬直状態から解放されているってことは全部終わったんだろうか。
緊急停止用のボタンだといって咥えさせられた口枷も、どこにも見当たらなかった。
――わかったら、ちょっと落ち着いてきたかも。
状況が把握できたからか、身体のおかしな感覚が少しだけ落ち着いた。
おれはあまり自分の身体に触れないように気をつけながら、おそるおそる上半身を起こす。先に定着が終わった下半身は、上半身ほど感覚が過敏ではないのか、正座なら変な反応をせずに済みそうだった。
「上半身も、しばらくすれば落ち着くのかな……」
そうじゃないと困る。
おれは右手を持ち上げると、その表面をまじまじと見つめる。手は指先まで黒く変色していた。
よく見てみると、ただ肌の色が変わっているだけじゃない。表面を薄い膜で覆われているような、肌がつるっとした質感に変化していた。
「これが、ホニベラ様が言ってた……第二の皮膚?」
確かにその表現がぴったりだった。
タイツの質感とも違う。薄く伸ばしたゴムを肌の表面にぴったり張りつけたような見た目だ。
指を曲げ伸ばしすると、少しだけ抵抗がある気がする。
「ん……」
指の腹で手のひらを擦ると、やっぱりまだ身体の奥に響くような甘い疼きが駆け抜けた。
◆◆◆
肌の感覚が落ち着くまで、正座のまま時間を潰していたおれは、廊下から靴音が聞こえてきたのに気づく。
カツン、と高く響く硬い音。
最初は遠かったその音が少しづつ、おれのいる部屋に近づいてきている。
――この音……。
おれは、この靴音を知っていた。
耳が覚えているだけじゃない。おれの全身の感覚が、廊下から響く靴音に反応していた。
「はぁ……ん、はぁ」
何もしていないのに息が上がる。
心臓が速くなって、体温も上昇していく。
「行かなきゃ、ん……ぁッ」
おれは身体の疼きを堪えながら、四つん這いで扉の前まで移動する。
そこで跪くと、扉に向かって首を垂れた。
音がさらに近づいてくる。カツンと聞こえるたび、鳥肌が止まらない。身体がひくひくと小刻みに震え始める。
靴音は、おれのいる部屋の前で止まった。
「――我が来ることが、わかっていたのか?」
扉が開いたのと同時に、待ち望んでいた声が聞こえた。
首領ガラディアーク様の声だ。
話しかけられただけなのに感極まって泣きそうになってしまう。身体の震えがさっきよりも大きくなった。
「バン、面を上げよ」
「っ……」
まさか、名前まで覚えていてくれたなんて。
おれはごくりと唾を呑み込んでから、ゆっくりと顔を上げる。
全身に外殻を纏った首領様の胸元で視線を彷徨わせた。
――本当に、首領様だ……でも、どうして首領様がこんなところに?
自分に会いにきてくれたなんて、そんな自惚れたことは思わない。
工房に所用でもあったんだろうか。
だとしても、どうしておれのところに立ち寄ってくれたのかは、わからないんだけど。
「お前は、我の顔を見ようとしないな」
「っ……」
首領様から、鋭い指摘を受けてしまった。
おれはどうすべきか迷う。
謝罪する? それとも、首領様の顔を見るのが正解なのかな。
「なぜ見ない」
「あ……と、それは」
「バン――我の顔を見て答えよ」
ひゅっ、と喉が鳴る。
静かな声で言われただけなのに、心臓を鷲掴みにされたみたいな衝撃だった。
「失礼、いたします」
必要ないのかもしれないけど一言断ってから、おれは視線を上げる。
――……やばい。
真っ先に頭の中に浮かんだ言葉は、その三文字だった。
だって、首領様のご尊顔だよ?
複数の魔神獣を象った仮面で顔の上半分は隠れてしまっているけど、その仮面がまた威厳に満ちあふれていて、さらには傑出した美とかっこよさを演出している。
素顔が覗く口元は整った魅力的な造形で、頬から首にかけて刻まれた複雑で繊細な刺青が、そんな首領様の麗しさを完璧なまでに引き立てていた。
えっちだ。えっちすぎる。
こんなの、直視するのはやっぱり危険しかないって!
「……お前は、言葉よりも顔に出るようだ」
「ふぇ?」
「そのまま、その目に我を映していろ」
首領様の顔が、ゆっくりと近づいてきた。
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