【完結】悪の幹部の息子に転生しました 〜首領様がえっちすぎて直視できません〜

コオリ

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33 溶けて、蕩けて、くっついて

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「さ、さわ……触っちゃった……ッ!!」
「憧れていたのだろう? 好きなだけ触れるといい」

 ――憧れって、そういう意味じゃないんですけども!

 でも、魅了されたみたいに動けなかった。
 離れなきゃって思うのに、手が吸いついたみたいにシディア様の肌から離れてくれない。
 おれなんかが絶対に触っちゃいけないものだってわかっているのに――だからなのかな。背徳感に身体の奥がざわつく感覚は、どこか快感に似ている。
 どうせ罰せられるなら、まだこの感覚を味わっていたい。
 そう思わせる何かが、シディア様の刺青にはあった。

 ――……すごい。すごく、綺麗だ。

 その美しさを表す言葉が、おれには思いつかない。
 見ているだけなのに息が上がって、頭がぼーっとしてくる。まるで生命力を吸われているみたいだった。
 このまま刺青に取り込まれて、シディア様と一つに――そうなってしまうのも幸せかもしれない。
 手で触れるだけでは物足りなくなって、おれはシディア様の胸に、頬をぴたりとくっつけていた。

「ん……」

 気持ちいい。気持ちよすぎる。
 父さんや母さんの刺青に触れたときは、こんなふうにはならなかったのに……いったい、どういうことなんだろう。
 頭の中身が溶けて流れ出てしまったんじゃないかと思うほど、何も考えられなくなってくる。

「夢中だな、バン」
「あ……ぁ」
「聞こえていないか。こうなるから、普段は隠しているんだがな――しかし、お前の蕩けた顔は悪くない」

 シディア様の声は聞こえるのに、言葉の意味は理解できなかった。
 たくましい胸に、すりすりと頬を擦りつける。
 触れれば触れるほど多幸感があふれて、たまらない気持ちになってくる。自分の腰がひくひくと前後に動いてしまっていることに、おれは全く気づいていなかった。

「――バン、を見よ」

 びくん、と身体が震えた。
 理由はわからない……けど、顔が勝手に上を向く。
 シディア様の頬にも刺青が刻まれているのが見えて、おれは無意識に手を伸ばしていた。

「そんなに欲するなら、の刺青をお前の身体に刻んでやろうか?」
「……シディア、様?」
いお前が悪いのだ。恨むなら、己を恨め」

 ぐいっ、と顔が持ち上げられた。
 触れていた刺青から離れてしまったのは悲しいけど、その代わりに頬には硬いものが、唇に柔らかいものが触れる。

 ――頬に触れてるのは外殻? 唇に触れてるのは……?

 すぐにまた、難しいことは考えられなくなった。
 口からものすごく濃い魔力が流れ込んできたからだ。
 喉が、胸が、焼けるように熱い。
 その熱は身体の内側だけじゃ収まらず、肌の表面まで、ちりちりと焼かれている感覚が広がった。

「ん、……ぁっ」

 おれを襲った異常はそれだけじゃなかった。
 何もしていないはずなのに、腹から触腕が生える。うねうねと勝手に体をくねらせた触腕は、シディア様の身体に巻きついた。

 ――あ……首領様に噛まれたとこが。

 首領様につけていただいた咬傷が激しく疼いた。
 そこから触腕全体に、まるで火が移っていくように熱が広がっていく。その熱のせいか、シディア様に触れているはずの触腕から感覚が伝わってこない。

 ――溶けて、くっついちゃったみたいだ。

 どろどろに溶けて、とろとろに蕩かされて。
 シディア様との境界がどんどん曖昧になっていく。
 でも、すべてを捧げてもいいと思えるほどそれは至福で、気づけばおれもシディア様に向かって自分の魔力を注ぎ込んでいた。



   ◆◆◆



「あれ……ここ、どこ?」

 気づいたら、何も見えない暗闇の中にいた。
 呟いた声は聞こえるけど、それ以外の音は何も聞こえない。
 自分の身体に触れている感覚はあるけど、どれだけ顔に手を近づけても、触るまで距離がわからないほど真っ暗だった。

「前にもこんな夢、見た気がする……そうだ。これも夢だ」

 同じような夢を前にも見たのを思い出す。
 どうして忘れていたんだろう。あれは確か、父さんの執務室で気を失ったときのことだった。

「また気を失ってるのかな? ……おれ、どこで何をしてたんだっけ」

 記憶を手繰る。
 思い出せる記憶から、順繰りに起きたことを思い出していく。

「――そうだ。シディア様と書庫の奥にあるお風呂に入って、刺青を見せてもらって……そこから記憶がない」

 すごいものを見た気がするけど、その記憶すら曖昧だった。
 でも、もしそこで気を失ったんだとしたら、シディア様に迷惑をかけてしまっている気がする。

「早く目を覚まさなきゃ! 前はどうやって起きたんだっけ? …………そうだ。イケメンさん」

 前のとき、この暗闇からおれを救ってくれたのは、推定――いや、確定イケメンさんだった。何もわからない迷子のおれの手を引いて、出口に導いてくれたのだ。

「……また会えないかな。イケメンさん」

 思い出したら、会いたくなった。
 見知らぬおれに親切にしてくれたイケメンさん。

「あの人は本当にいるのかな? それとも……おれの夢の中にしかいない人?」

 後者だったら嫌だな。
 おれは、あのとき触れたイケメンさんの顔を思い出そうと、何もない空間に手を伸ばした。

「え……」

 指先に何かが触れた。
 驚いて引きかけた手を、誰かに掴まれる。

「誰か、いるの?」

 応えは返ってこなかった。
 でも、誰かがいるのは間違いない。だってその人は、今もおれの手を掴んでいる。
 おれは、おそるおそると指を動かす。
 指先がその人の顔に触れた。
 造形を確認するように顔のパーツを撫でていると、ふっと吐息のような笑い声が耳を掠める。

「――お前は、俺の顔を撫でるのが好きなのか?」

 聞こえたのは、シディア様の声だった。
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