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34 ぐちゃぐちゃが解けない
しおりを挟む「え……」
闇が一瞬で霧散した。
おれは硬い床に仰向けで寝転んでいて、頭だけは何か弾力のあるものに乗っかっている。
上向きに伸ばした手の先には、こちらを覗き込むシディア様の顔があって、おれはその整った顔を指でさわさわと撫で回していた。
「…………」
状況が全く理解できなくて、思考が停止する。
せめて手を引こうとしたけど、シディア様が手首をがっちり掴んでいるせいで、びくとも動かなかった。
――えっと、さっきまでのは夢だよね? どこからが現実?
暗闇の中にいる夢を見たのは覚えている。
その夢の中で思い出した、前にも見た同じ暗闇の夢のことも――そこで会ったイケメンさんのことも。
そして、そのイケメンさんの顔はおれの手が覚えていた。
触れて覚えた顔。
ついさっきも同じ顔に触れたはずだ。それはたぶん、夢じゃない。
「……シディア様、前に暗闇で迷子になってたおれのこと、助けてくれました?」
おれは思いついたことを、そのまま口にした。
あれがただの夢だったのなら、違うって言われるはず。でももし、そうじゃなかったら――。
「覚えておくために、わざわざ顔に触れてきたのではなかったのか?」
「……っ! 本当にそうなんですか!?」
思わず、がばっと勢いよく起き上がっていた。
シディア様の言葉の意味を確かめようとしたけど、シディア様のほうを振り向いた瞬間、くらっと強い眩暈に襲われる。
倒れそうになった身体はシディア様が支えてくれた。
「湯あたりを起こしたのだから、無理に動くな」
「……湯あたり」
ここはまだ暗黒浴場の中だった。
浴槽から少し離れた壁際にある、黒い石でできた腰かけ台の上に寝かされていたらしい。
もう一度、横になるよう促されて、おれはゆっくりと身体を倒す。自分が枕にしていたものの正体に気づいて、ぴたりと動きを止めた。
「……あ、の……この上に頭を乗せるのは、ちょっと」
「命令だと言おうか?」
「…………失礼いたします」
おれが枕にしていたのは、シディア様の太腿だった。
シディア様がすでに着衣済なおかげで素肌ではないけど……それでも上司である幹部の太腿を枕にするって許されることなの?
――でも断ろうとしたら、命令だって言われるし。
ちなみに、おれは全裸の上からタオルが掛けられている状態だった。
外皮を脱ぐ方法は教えてもらったけど、着る方法はまだ教えてもらっていない。それも触腕を出すときと似たやり方なのかな。
――そうだもしても、今どうにかするのは無理だけど。
これも湯あたりの影響なんだろうか。体内魔力の流れがいつもよりも速くて、いつも以上に魔力をうまく操れる気がしなかった。
横になっていれば気持ち悪いとかはないけど、全身がずっとぽかぽかしている。
「……シディア様だったんですね。おれのこと、助けてくれたの」
ただ寝転んでいるのは落ち着かなくて、おれはもう一度、さっきのことを尋ねてみた。
「そうだな」
「どうしてすぐに教えてくれなかったんですか?」
「忘れているようだったからな。わざわざ説明するほどでもないと判断しただけだ」
シディア様らしいといえばらしいけど……話してくれたら、もっと早く思い出せたかもしれないのに。
「あのときは、助けてくれてありがとうございました……あ、こんな体勢で言うことじゃないですね」
でも思い出したからには、すぐにお礼を言いたかった。
おれ一人じゃ、あの暗闇から出られなかったと思うし……もしかしたら、あのまま目覚められなかったかもしれない。
「…………っ」
そんな怖い想像をしてしまったからか、あたたかかった身体が急に冷える。
寒さにかたかた震えていると、それに気づいたシディア様がおれの胸元にそっと手を置いた。
「お前は不安が魔力の乱れに繋がるのだな。それを整えようとここに連れてきたのに、なぜまた乱すんだ」
「すみません、そんなつもりじゃ……」
どうしていきなりお風呂なのかと思ったら、そういう理由があったらしい。
シディア様が触れているところから、じんわりとあたたかさが広がってくる。シディア様の手にも、魔力温泉と同じ効果があるのかな?
身体の内側の冷たさがなくなると、一緒に不安もなくなっていくから不思議だった。
「ちょうどいい。先ほどの不安の理由も聞いておこうか」
「え……」
「見逃すつもりはないぞ。話さぬ気なら見るまでだ」
「見るって……?」
「お前の目は俺の一部だからな。何があったか、見ようと思えば見える――だが、俺はお前の口から聞きたい。なぜあんな顔をしていた?」
――ここで命令だって言わないのは、シディア様の優しさなのかな。
力を使えば見えるのなら最初から見ればいいだけの話だし、おれの不安で乱れた魔力を治す必要もない。
今だって命令しないのも、シディア様がおれの気持ちを尊重してくれているからだろう。
そんなシディア様に隠し事なんてできるはずない。
おれは覚悟を決めて、口を開いた。
「……組織に捕らわれた人間を見たんです。直接見るのは初めてだったので、その……動揺してしまって」
あのときの感情を説明するのは難しかった。次の言葉がすぐに出てこない。
必死で言葉を探すおれの代わりに、シディア様が言葉を発した。
「――人間に同情したのか?」
「っ……」
「ダーヴァロードの構成員となったことを後悔したか?」
「違います!! そういう意味じゃ……!」
慌てて身体を起こして弁明しようとしたけど、それはシディア様に止められた。
「落ち着け、バン。別に責めているわけじゃない。お前が感じたままの言葉を聞かせろ」
「おれ、は……」
目眩がひどくなる。
高ぶった感情のせいで震えが止まらないおれの手に、シディア様の手が重なった。
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